第ニ話 勇者 タンク ヒーラー








 突然かけられた声に唖然としてると、更に謎の声は言葉をつづけてきた。




「――よかった、どうやら聞こえている様ですね。初めまして皆様、私は……貴方方にわかりやすく自己紹介致しますと女神でございます。厳密には貴方方の世界ではない、異世界の女神と言った所でしょうか」




「「「え!?」」」




 思わずまたハモってしまったけど、なんだろうこの部屋。先輩も秀彦も戸惑ってるみたいだ……いや違うな、先輩はめっちゃワクワクしてる顔だなこれ。




「突然このような場所に呼んでしまい、大変申し訳なく思っております」




 声のする方を向くと、金色の光が集まり、そこにはいつの間にか白いゆったりとしたローブ(?)を纏ったふくよかな女性が立っていた。年の頃は三十代といったところかな?それなりの年齢を重ねていて、年齢相応に恰幅は良いはずなのに、なんと言うかこう、上手く言えないのだけど、不思議と綺麗な女性だった。優しそうな顔立ちをしているけど、今は申し訳無さそうな表情になってる。僕たちを呼び出したのが原因かな?……ん、呼び出した?




「神様ですか!?凄い、凄いよ棗君!超常現象だよ!」




「何言ってるの、先輩……」




 葵先輩のテンションがえらい事になってる。この人は成績優秀な筈なんだけど、なんというか昔から発想がぶっ飛んでるんだよなぁ。学校では割と猫被ってるから、現代に復活した大和撫子ナンテ言われて、一部でファンクラブなんかもあるんだけど、多分あの人達この人の本当の姿見たら卒倒するだろうね。




「はい、私の力で起こった現在の状況は、貴方方の言うところの、所謂”超常現象”という認識で正しいと思います」




「うっひょおおぉぉぅ!これ何?何かな?ハンドパワーかな?異世界転生とか来ちゃうあれなのかな?棗君?」




「なにそれ?」




「棗君はライトノベルとか読まないのかい?良いぞぉ、ライトノベルは!妄想が捗って心が踊るからね。」




「姉貴……異世界転生って妄想が事実なら俺ら死んでるぞ?」




「!?トラック、トラックに轢かれたのかしら?それとも飛行機墜落?それともあれかしら?呪いのビデオとか!?」




「最後のは多分異世界に行けねぇな、黄泉平坂に行けるかどうかも怪しいぞ」




 大興奮で謎言語を喋っている先輩は置いておいて、自称神様がなにか話したそうにしてるのが気になるよ、先輩?あ、ちょっと涙目になってきてる。出てきたときの神々しさが早速崩れかけてるけど大丈夫かな?




「あ、あの、あの……」




「あれかしらー!チートのパワーで非常識に山とか削って、あれ?僕なんか変なことやっちゃいました?とか!現代知識で内政チートとか。こ、これがマヨネーズ!?葵様これは素晴らしい調味料ですね、こんな美味しいもの食べたことがありません、とか!エルフがオークにくっころで!!冒険者ギルドに何の用だ?ガキ共ぉ!!とか!ゴブリン退治に来ただけなのに何でドラゴンが、痛ひゃい!?」




「いい加減にしてください先輩」




 興奮した先輩を言語でなだめるのは不可能なので、とりあえずそのマシンガントークをする口を摘む。まだまだなにかモゴモゴ喋りたそうにしているけど、流石にこうなっては先輩も正気に戻らざるを得まい。




「なひゅめくん、これはあれかにゃ?へんしょくのチュゥというかいひゃくでOK?」




「何言ってるかわかりませんが違います。さて女神様、説明してください。ここは何なんですか?僕らは何でこんな所にいるんですか?」




 ハイテンションの先輩を物理的に抑えつつ女神様に尋ねると、秀彦が若干引きつった顔でこっちを見ていた。




「お前って姉貴に対してのみ辛辣だよな?」




「これは愛情表現だよ秀彦」




「しょうだぞぉひでひこぉ、なひゅめくんはな、わらしにだけとくべつなんら」




 何故かドヤ顔の先輩。呆れる秀彦。うろたえてオロオロする女神様。




 何だろうこの状況……?




「あ、あの、とりあえずお話させていただいていいかしらぁ?」




「はい、どうぞ」








 ……――――








 女神様の話を要約するとこうだった。




 女神様は地球のある僕らの世界とは別の世界の神なのだが、いまその異世界には魔王が出現し、人類は全滅の危機に瀕しているらしい。ゲームみたいな話だ。




 人は生まれた世界にいる限り、その力にはリミッターが設けられており、所謂一般人という枠から外れる能力を持つ事は出来ないらしい。これは人間以外の動物にも設定がなされているため、どれだけ力を持つ個体であったとしても、その力で世界を滅ぼしたりは出来ないのだという。つまり、世界を平穏に発展させるための神様が作った決まり事なのだという。これはどこの世界でも同じようなシステムになっているらしい。




「しかし近年、私の治める世界で想定外のことが起きました」




 ある時突然、”魔王”を自称する者が、女神の預かる世界に現れたのだという。初めはおかしなことを言う人間が現れたものだと、楽しく観察していたらしいのだけど、暫くしてそれがとんでもない異常事態であることに気がついたらしい。




 魔王はまず手始めにと、当時最大の隆盛を誇っていた王国を、一夜にして攻め滅ぼした。しかもその時魔王は、配下も連れず単身で乗り込んできたという。その力は明らかに世界の理に縛られておらず、余りにも強大だった。




 やがてその影響は個人にとどまらず、魔王の周りに居た動物や植物にすら変異をもたらせた。




「彼は明らかに異質な存在です。一体どこからやってきたのか、そもそも何者なのか。全てが謎なのです。しかも、かの世界にいる住民たちでは、リミッターの外れた魔王に対抗するのは難しく、仕方がないので私の受け持ちではない別の世界から、私の世界の理に縛られぬ”勇者”を召喚する事にしたのです」




 ”勇者”。ゲームなどで聞いたことはあるが、要するに魔王と同じ条件(?)の異世界人であれば、リミッターのない成長が望めるため、対抗手段として期待が持てるという話らしい。




 しかし……




「申し訳ありません。本来この勇者召喚は、異世界に行っても構わないと強く妄想する人物を一人だけ呼び出すはずだったのですが……」




 曰く、本来はこの三人の中の一人だけを選んだはずだったのだが、その人物が残りの二人にただならぬ執着を見せたため、女神様の力を捻じ曲げて二人を道連れにしたとの事。本来人類の精神力で神の力を捻じ曲げる事など出来る訳が無い筈なのだが、その人物は無意識にそれをやってのけたらしい……あ、僕、勇者候補が誰だったのか分っちゃったわー。




 横で秀彦も「なんで俺まで連れてきやがったんだ、姉貴……」って呆れた顔して呟いてる。うん、どうやら僕たち同じ意見のようだね秀彦。




「もちろん事が終われば元の世界に戻すことも出来ます。今断って頂くのも……残念ですが問題ないです。でも、もしよろしければ「やりまっす!!」え……?」




 あー、めっちゃキラキラした顔してる……やっぱり貴女でしたか、先輩ぃぃ!




「やります、やりまーす!私勇者やりますよー」




「ちょっと待て姉貴、いくらなんでも魔王とかヤバすぎんだろ?死ぬぞ」




「あ、死につきましては、あちらで亡くなった場合魂だけとなってここに戻りますので、ちゃんと蘇生させて地球に戻して差し上げます。なのでそう言った危険はありません」




「地球に戻ると過ぎ去った時間はどうなるの?」




「そちらもすべて元に戻します。あちらで亡くなった場合でも、何の問題もなく元の生活に戻っていただく事が可能です。もちろんあちらの世界が気に入ったのでしたらそちらで天寿を全うしていただいても結構です。これは巻き込んでしまった方へ、女神としての絶対の義務です。私の力が届く限り、それらのケアはばっちりです!安心して下さい」




「向こうで天寿を全うした場合、元の世界の僕らはどうなるんですか?」




「もちろん天寿を全うされた場合も、向こうに戻っていただくことは可能です。そのまま成仏していただくことも可能ですね。成仏して頂いた場合は、初めからあちらの世界に貴方方は居なかったと辻褄を合わせなくては行けないので多少複雑にはなりますが。こちらからお願いする以上その程度のことはさせていただきます」




「ふむ……」




 つまりは、魔王退治という過酷な旅に出る羽目にはなるけど、それに対してのリスクは存在しないという事?




「こっちの世界に戻りたくなったら自殺すればいいの?」




「そんな物騒な事しないでも心から望めば戻して差し上げますよ」




 ふむ、サービス精神旺盛である。




「ね、ね?楽しそうじゃないか?ヒデ、棗君。私達で世界を救おうじゃないか?」




「ん~、まあ今の話聞いた感じなら俺はやってもいいかな?棗、お前は?」




「ん~?」




 あー、もう。秀彦も目キラッキラじゃないか。こいう言うところは本当に姉弟なんだなあ。


 ……良いよ、二人がやりたいなら付き合うよ。僕も二人と一緒なら楽しそうだと思うしね。




「うん、良いよ、僕も賛成だ」




「やったぁ!!棗君大好きだよ!愛してるぅ!……あ、因みに私勇者ね!!」




 すごい勢いで抱きしめられて胸に顔が完全に埋まってしまった。苦しい、先輩のハグは僕の身長だと本当に命の危険があるんだよね。あと、勇者は取らないからそんなに主張しないで良いよ!!て、離せ離せ!




「なぁ、女神様よ?姉貴が勇者やったら俺らは何になるんだ?」




「はい、葵さんが勇者になられた場合、棗さんと秀彦さんにはその補助となる職クラスに就いていただくことになります。もちろんお望みなら村人とかもありますが、旅に同行なさるのでしたら、選ばれたクラスの最上級職になられるのがおすすめですね。あ、こちらリストです」




 ふむふむ、普通は基本職からレベルをあげて、下級職になって中級職になって上級職を経て最上級職に至ると、レベルってゲームでよく見るあれだよね?どうやって上げるんだろう?




 んで、僕らは女神様のサービスでいきなり最上級職から始められると、本当にゲームみたいな話だなあ。ただ、下級職からの下積みすっ飛ばしているからレベルは1らしいけどね。寧ろ最上級職でレベル1だからのびしろが凄いらしい、良く分かんないけど。この辺はゲームに詳しい先輩に後でどういうことか説明してもらおう。で、これがリストなのか、凄い数があるな。これは読むの面倒だなっと。適当に流し読みしてしまおう。




「よっし、じゃあ俺は戦士だな!やっぱ男は鎧だぜ!」




「ふむふむ、ヒデは前衛やるのか、じゃあバランス的に僕は魔法使い的なやつが良いのかな?」




「秀彦さんは仲間の盾となる戦士と、剣となる戦士、どちらを望みますか?」




 最上級職にも複数選択肢があるんだね。あ、本当だ、なんか枝分かれみたいに色々派生がある。




「俺は姉貴と棗を守る盾になるぜ!!火力は勇者姉貴に任せりゃいいだろ」




「分かりました、それでは秀彦さんはパラディンの職を授けます」




「お、お!?」




 おお、英彦の姿が変わった!頭が茶髪になって瞳の色も緑色になってる。え?何、姿も変わるの?




「やや、私も勇者になったのかな?これは」




 先輩の声に振り向くと、そこには金色の髪をした赤い瞳の先輩が立っていた。




「髪の毛と瞳は、その者の魔力によって髪の毛に属性の影響が、瞳にはその者の加護をもつ石の色が出ます。魔力を失った場合は元の黒髪黒瞳にもどりますが、普段はその人の持つ属性の色になりますね。秀彦さんは、大地の魔力にエメラルドの加護ですね。石の加護はその人物の扱う武具などに石を組み込むことによって色々な力を授けてくれます。このへんは現地で確かめると良いと思います。葵さんは光の魔力にルビーの加護ですね」




 石の加護っていうのはよくわかんないけど二人共かっこいいなあ。この姉弟、実は二人共顔が整ってるから髪の色とか変わっても何の違和感もないんだよね。ヒデはイケゴリラだけど。それと比べて僕は……何か怖くなってきたな。あんまり変な色にならないと良いけど。




「棗さんは魔法使いとの事でしたが、魔力を使い数多くの攻撃魔法を使いこなす職にしますか?神の奇跡で戦う神官にしますか?それとも鎮魂の秘術でアンデッドを掃討する教皇にしますか?召喚術なんてものもありますね。後は、治癒と補助特化の魔法職もありますがこちらは……」




「あ、治癒と補助特化でお願いします」




 先輩は脳筋アタッカーだろうし、守りは秀彦が固めてくれるだろうから、僕が前に出る必要はないよね。それに、僕元々武術の心得はあるから、回復しか出来なくても柔道で戦えるかもしれないし。接近戦も戦える回復補助特化とか超強そうだ。




「ちなみに髪の色はどうなります?」




「回復職は治癒の魔力なので白銀の髪になりますね」




「うう、派手だなあ、ヤンキー、或いはお爺ちゃんヘアーか……」




 うう、二人と違って僕は容姿が原因で四連続失恋中のブ男だから、白銀の髪とか酷いことになりそうだなあ。まあ異世界では良くある普通の色だろうから、笑われはしないと思うけど。




「それでは棗さんは本当に治癒特化の後衛職で宜しいのですね?」




「はい、お願いします」




「ふむ、クラスツリーを見た上での判断ですし、その意志を尊重いたしましょう。それでは棗さん、貴方は今から”聖女”です」




「え?」




 聞き捨てならないセリフのあと、僕の体は光に包まれた……え、えぇっ!?


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先パイ勇者やるんですか?じゃあ僕回復やりますね  ~最上位回復職が聖女なんて聞いてない~ @dobrocky

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