先パイ勇者やるんですか?じゃあ僕回復やりますね  ~最上位回復職が聖女なんて聞いてない~

@dobrocky

第一話 どうも僕の見た目は酷いらしい。








「ごめんなさい、私、棗なつめくんの事好きだけど、彼氏とかそう言うのはちょっと……ごめんね」




「……どうして駄目なのか、聞いても良い?」




「う~ん、言いにくいんだけど、やっぱり見た目・・・かな……ごめんね」




 高校ニ年生の夏。




 僕こと、清川 棗きよかわなつめの生涯四度目の告白は、いつもと同じ言葉・・・・・・・・で斬り捨てられた。




高校に入って二年の間に四度、軽薄な尻軽男と思わないで欲しい、僕だって取っ替え引っ替え手を出してるんじゃないんだ。ただ、仲良くなった女の子に告白しただけだってのに、いつもこうなるんだ。




 走り去るあの子と僕は、客観的に見ても仲が悪かったわけではないと思う。放課後は良く一緒に遊んでいたし、休日だって二人で色々な所に遊びに行っていた。




僕がフラれた理由の容姿も、見れないほど酷くはないと自分では思っているんだけど。何故か僕が告白した女の子は、みんな一様に同じセリフを吐くんだ。




「棗君の気持ちは嬉しいけど、ごめんね棗君の見た目だとちょっと……ね?」




 一体傍から見た僕の容姿とは、どれだけ醜く見えてるんだろう。




……そんなにひどいのかな? 流石に少し傷つく。まぁ、確かに男らしい見た目とは言い難いけど。うーん、自己評価が高すぎるのか……。








 ……――パァンッ!








 痛っったーーーーー!!




 途方に暮れながら、呆然と走り去る彼女を見送る僕。その猫背になって脱力した背中に突然衝撃が走った。誰だ、いきなり人を叩いたやつは!! 僕は勢いよく後ろを向き、不意打ちをかました不届き者を睨みつける。




「――ッ痛ったー!! もう誰だよ……って、先輩!?」




 睨みつけた先には僕のよく知る美少女が満面の笑みを浮かべて立っていた。




「見てたぞぉ棗くん! またスッパリフラれてしまったね!」




 傷心の僕に容赦のない平手打ちを決めた少女は快活に笑う。一見すると清楚な雰囲気を纏う美少女は、武原 葵たけはらあおい。彼女は僕の隣家に住む一歳年上の女性で、幼い頃から何かにつけて僕に絡む姉のような存在だ。




黒く艷やかな髪を風に流し佇む姿は、黙っていれば正に大和撫子そのもの。事実、学校では猫をかぶっているので、男子からの人気は絶大なものがある。と。言うか、ファンクラブとかもあると聞いてるので、下手すれば学年一の人気者かもしれない。




――でも、僕の前ではそんな清楚さなんて欠片も見せないんだよね。それに、なんだよその顔は……。




「……なんでそんなに嬉しそうなんですか先輩」




「何だ何だ、そんな他人行儀な呼び方は止めたまえよ! 何時もみたいにお姉ちゃんと呼びたまえ!」




 痛みと失恋のショックで、涙目になってる僕のジト目を受けてるくせに、全く意にも介さず爽やかに笑う葵先輩。なんとも腹立つ顔してる。どう言う訳か、僕が告白玉砕する際には必ず現れる先輩。センサーでも付いてるのかな?




「……それと、何で毎回僕の玉砕の場に居るんですか」




「お答えしよう! それはね棗君、私が君のストーカーだからだよ!」




「怖っ、何カミングアウトしてるのこの人!? 衝撃すぎてドン引きだよ!」




 真夏に咲き誇る向日葵のように爽やかな笑顔で、とんでもない発言をする葵先輩。凛々しく澄んだ目で僕をじっと見つめると、いきなり僕の事を抱きしめた。女の子でありながら長身な葵先輩が160cmしか無い僕を抱え込むように抱きしめると、顔がちょうどその豊満な胸に抱き抱えられる形になってしまう。すごく柔らか……息ができない!?




「むぐ、むぐぐ!?」




 突然顔面を襲う柔らかさと窒息。僕は混乱してパニックになっちゃったけど、少し経つと抱きしめる力は柔らかくなって、そのまま優しく僕の頭をなでてくれた。




「私はね、棗くんが悲しい思いをするのが嫌なんだ。君が苦しい時はいつだって守ってあげたいと、そう思っているんだよ」




「……先輩」




 子供の頃から僕が泣いていると、いつだってこうして慰めてくれた葵お姉ちゃん。お姉ちゃんに抱きしめられると、悲しい気持ちや、辛い気持ちが徐々に収まっていくのを感じられる。




「それに君の泣きそうな顔は、私の大好物だからね。こんな絶好の機会を逃すわけにはいかないんだよ、グヘヘ……」




「台無しだよ!?」




 顔を上げればそこには、だらしなく顔を歪ませ、よだれを垂らしながら僕に興奮する葵先輩の顔があった。先程までの爽やかさは完全に消え失せ、ドブ川のようにネットリと濁った視線を僕に向けてくる。その目を見た瞬間、僕の中で警報がMAXで鳴り響いた。




「離して、離せー!!」




「おうふ、激しいボディブローだね!? お姉ちゃんそう言う激しい棗君も大好きだけど、肝臓にえぐりこむのは、グフッ、あまり女の子にしちゃだめなやつだぞぉ!?」




 口や鼻から美少女が垂らしていけない何かを撒き散らしつつ、それでも葵先輩は僕を離さない。葵先輩は何時でもこういう具合に僕とのスキンシップを取りたがる。正直、学校でもTOPクラスの美人である葵先輩が、万年玉砕男の僕にどうしてこんなに構ってくるのか良く分からない。普段の彼女は凛とした空気を纏った生徒会長、成績優秀スポーツ万能と非の打ち所のない美少女なのだ。でも、僕とあいつ・・・の前だけではダメ人間と化すんだよね。正直僕の前でも普段の凛々しい葵先輩になってほしいと思う。




 なんとか先輩の腕を振りほどいて距離をとり、乱れた息を整える僕。ふと横をみれば、葵先輩は口や鼻から何かをボタボタたらしてる……うわぁ。




「まったく、僕はいま傷心なんだから放っておいて下さいよ!」




「なんで傷つく必要があるんだい? 棗君が行き遅れてしまったら、いつだって私のお嫁さんになってくれて構わないんだよ?」




「なんで僕が嫁なんですか!!」




 僕らがギャイギャイ言い合っていると、僕の後ろから足音が聞こえてきた。




「……お前らなにやってんだよ」




 突然後ろからかかる声に振り向くと、僕と同じ制服を着たゴリラが立っていた。ゴリラはそんな僕の視線から何かを感じ取ったのか、不機嫌そうな顔をしている。




「おい、なんか今、不思議と侮辱されたような気がしたんだが?」




「なにいってるんだよゴリ……秀彦」




「……おい!」




 この日本語を使いこなす賢いゴリラの名前は武原 秀彦たけはらひでひこ。今の目の前でいろんな体液を垂らす美少女の弟で、僕のクラスメイトだ。実は僕と秀彦は部活も一緒で、二人共柔道部のレギュラーを務めている。




「んで、姉貴がそんなに嬉しそうにしてるって事は、お前またフラレたんか?」




「う、うぐぅ……」




 心を抉ってくるな、ゴリラ。




「そうなんだよヒデ、やはり棗君は私のお嫁さんに成る運命にあるんだと思うよ!!」




「だからなんで僕が嫁なんですか! あと、何でそんなに嬉しそうなんだよ、もう!」




 とは言え、いつもこのやり取りで少し気が紛れるのは事実だから、ゴリラと先輩にはちょっとだけ感謝する。絶対言わないけどね。




二人は僕がフラレると、毎回こうやってからかってくる。それで騒いでいる内に、いつの間にか気持ちが軽くなるからなんとも複雑である。まあ、何で僕が告白するのを毎回嗅ぎつけてくるのか、深く考えると気持ち悪いのだけど……特に葵先輩。




「でもさー、なんで毎回フラレるんだろう。僕の勘違いじゃなければ、それなりに仲良かったと思うのに……」




「そりゃお前……向こうもプライドって物があるだろうからなあ」




「プライドってどう言う事さ?」




「うーん、まあ、強いて言うなら、顔だな、容姿が原因だ」




「身も蓋も無いな!! そんなにボクの顔は酷いかよ!!」




「う、うーん……そんな事はねえんだけどな?」




「なんだよそれぇ……」




「まぁまぁ、ここで話すのも何だから、帰りにキングバーガー寄って行こう。今日はお姉ちゃんがご馳走してあげるよ!」




「お、良いな、俺も出してやるから、パーっと食おうぜ!」




「……うぅ、有難うヒデ、葵先輩。じゃあメガチーズワッパーセット。あとナゲットLサイズも付けて」




「お前見た目によらず良く食うよな……メガってお前あれ重さ1kgだぞ」




「いいんだよ。失恋の傷を癒すのは、メガサイズのカロリーだけなんだよ!」




「なんだそりゃ……」




 そんなバカなやり取りをしつつ、僕は二人の後を付いていく。失恋というイベントがあったものの、いつもの日常。良くある光景。




しかし、そんな日常を破るかのように、突然空から鐘の音が鳴り響いた。直後、世界が色を失っていく。




「え……え?」




「なに?」




「なんだこりゃ!?」




 どうやら二人も僕と同じ状態らしい、やがて鐘の音が大きくなり、耳を塞ぎたくなるほど大きくなった時、僕らの意識は暗転していた。










 ――――








 気がつくと、僕は真っ白な部屋に立っていた。周りを見渡すと、何もない白い部屋に葵先輩と秀彦も立っている。――先輩、何でそんなワクワクしてるの……。




「な、なにこれ……」




「知らねえよ。なんだ、拉致ってやつか?」




「……待ちたまえ、なにか聞こえて来ないかい?」




 嬉しそうな顔を崩さない葵先輩に言われて僕と秀彦も耳を澄ませる。




「……ヵ……キコエ……聞こえますか?」




 確かにノイズのような音が聞こえてる。よく耳を澄ませると、徐々に女性の声が聞こえ始めた。




「何、この声……」




「嗚呼、どうやら聞こえるようですね。初めまして皆様、私は異界の女神です」




「「「え!?」」」




 訳も分からず間抜けな顔をした僕達は、これまた間抜けな声をハモらせた……。




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