第89話

「どのくらいだったかな、あの時は時間なんて気にしてなかったから定かではないけど、2週間くらい経った頃、彼女から連絡が来たの。"連絡遅くなってごめんね、明日帰るよ"って。たったの一行だったけどあの子が無事ならよかったって思った」



でも無事じゃなかった。私は軽く考えすぎてたの。約1ヶ月、あの子が一人でいた時間を考えれば"無事"って言葉一つで片付けていいものじゃなかった。



「学校に来たあの子はすごく元気そうだった。久しぶりに来た彼女のことをみんな心配して笑顔で迎えてた。彼女も笑顔で返してた」



「少し経ったころ、彼女の笑顔に違和感を感じたの。前の彼女の笑顔じゃなくて少しだけ作った感じの笑顔。ずっと一緒にいたから分かっちゃうんだ。だから昼休みに二人で話をしたの」



何があったのか、直接聞けばいいのに私は聞けなくてちょっとした雑談から入ってしまった。あの頃の私は臆病で親友が辛い時に側にいてあげられなかった。



最初は不安な気持ちとか全部隠そうと頑張ってた彼女。気づかせたくないのに気づかせてしまう、気づいてしまうのは長く一緒にいたから。



隠したいことほど相手に伝わるのは、きっと時間のせい。



「不安な気持ちでいっぱいなはずなのに少しずつ話してくれた。あの一ヶ月で起こった出来事を聞いてるとき心がすごく痛くなった。どうして私は側にいなかったのか、どうして会いに行くって言われた時止めなかったのか、どうして、もっと早くあの子の痛みに気づいてあげられなかったのか…!」



私しかいなかったのに、私にしかできない事だったのに、私が気づくべきなのに、彼女は一人で抱えてた。

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