第36話
家が見えてきた頃、鍵を取り出して前を見た瞬間目を奪われた。白いワンピースと綺麗な黒髪を靡かせながら、彼女はそこに立っていた。
僕と過ごしたあの時と同じ姿。一つだけ違うとすれば彼女が"ちゃんと"そこに存在しているということ。
彼女はまだ僕に気づいていない。いつからそこに居たのか、どうしてそこに居るのか分からないまま。僕以外に用事があるとは思わない、思えない。
数秒だったか数分だったか分からない。彼女が不意に振り向いて僕と目が合った。綺麗な瞳が大きく開いてクシャッと潰れる。そして笑った。彼女が笑うと周りに花が咲くみたい。
上手く出ない声を無理矢理出す。
「どうしてそこにいるの」
やっぱり言い方がきつくなってしまう。彼女はそんなこと気にもせず言い放つ。
「あなたに会いに来たの」
その言葉に涙が出た。留まることをしない雫はぽろぽろとこぼれ落ちていく。それを少し雑に拭って彼女の元に歩き出す。
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