クラウンオブザワンダーランド⑥
焚火に戻ると皆、思い思いに座ったり寄り掛かったりしていた。
リヴさんとビッドさんは楽な姿勢で自分の武器の手入れ。
アクスさんとホッスさんはボードゲームの『シールドボード』をしていた。
定番のボードゲームだ。シールドでやっていたからシールドボードという。
ふたりがプレイしているのは『キングロード』というルールだ。
アクスさん負けそう。
まぁさすがに『クルム』はやらないよな。
あれはギャンブル性高過ぎて探索中は禁止されているんだったか。
そういえばアクスさん。女性たちと話をしていない気がする。
ホッスさんも様子が変だ。レルさんは相変わらず。
レルさんは入り口近くで外を見ていた。
普段通りだけどなんか皆、よそよそしい感じがある。
女性が多いからかな。
あっ、そういえば雷撃の牙は異性とあまり接していないから苦手だったな。
ミネハさんとは普通に接していたからすっかり忘れていた。
確か女性は。
ルミナスさん。パキラさん。リヴさん。ビッドさん。ミネハさん。
それとたぶん居ると思うメガディアさん。6人だ。
それで男性陣は、えーとまず、僕。アクスさん。レルさん。ホッスさん。
アレキサンダーさんも一応こっちか。5人
1人差か。
そしてルミナスさんの号令でレルさん除いて焚火に集まる。
レルさんは門番だ。
「それでは話をしますわ。まずはアクスさん」
「お、おう……俺達からか。まぁいいけどよ。俺達は元々―――」
アクスさんが説明する。
ホッスさんも話して、レルさんがいないから僕も補足を入れる。
「そういうことっスか」
「アレキサンダーさんネ」
「……はあ、陸ナマズですの」
「そうですけどなにか?」
ルピナスさんの言い方が少し癇に障った。
「なにかって言われるとっスね」
「ふむ。そうじゃのう」
なんだ。なんか嫌な感じだな。
魔物だからだろうか。それは魔物だけど、でも魔物だって討伐者になれる。
なれるのがおかしいけど、なんだろう。変な空気になってきた。
「……ん。地震……こっち関連……」
「次はわらわたちじゃな」
パキラさんがこれまでの経緯の説明を始める。
ダンジョンの異変討伐チームは順調に階層を進んでいた。
調査団が異変のある階層を見つけていた為、そこまでの道のりは険しくなかった。
なによりも第Ⅱ級がふたりもいる。
【滅剣】のアガロ。【黒呑み】のメガディアは圧倒的だった。
だからパキラさん達は異変討伐はすぐに終わるだろうと思った。
そしてついに異変討伐チームはダンジョンの異変と対峙した。
その階層には半壊したコロシアムがあった。
観客がいない寂蒔とした闘技場。
その中心に巨大な陸ナマズとザ・フールが居た。
ザ・フール。道化師の人型魔物だ。アンデッドらしい。
白黒の道化師の衣装を着て、赤青の四股帽子。
歓喜に笑う化粧面をしていた。
そうクラウンだ。
派手過ぎて陳腐な玉座に足を組んで座っていた。
クラウンはパキラさん達を見ると馬鹿馬鹿しいほど笑った。
それでまずメガディアさんがキレた、らしい。
倒そうと意気込んで行くと巨大な陸ナマズが吠える。
そしてクラウンは指パッチンで巨大なミミックを闘技場の四方に出した。
巨大なミミックは3つ。
ミミック・パニックボックス。ミミック・ストレンジボックス。
ミミック・モンスターボックス。
あのブラックボックスは無いみたいだ。
「わらわたちとメガディアはそれぞれ巨大なミミック。アガロはクラウンへ。そのときも、わらわの【マウソレウムの光不】でストレンジボックスを倒したのじゃ」
「あーもう。あんときの時間稼ぎはきつかったっス」
「そもそも、いやらしいんですの。あのミミック」
「い、いやらしい?」
ルピナスさんの言葉にアクスさんが反応した。
ビッドは嫌そうに笑う。
「……まぁーそうっスね。女の敵っス」
「汚らわしいのは確かじゃな」
「どんなミミックなんですか」
思わず僕は聞いた。リヴさんが答える。
「ん……沢山の触手……出てくるやつ……」
「あ、ああ、そういう……」
一瞬で察した。あらゆる触手が出てくるボックスか。
それは、女性陣は嫌いだよなあ。
「ん……あとクルトン。死にそうだった……」
「じゃからとっておきで治したじゃろう」
それってひょっとしてあの小瓶か。
ビッドさんが疑わしそうに眉を顰める。
「あれ、本当にハイポーションっスか?」
「高品質でも腹に空いた穴は塞がらないネ」
すかさずエイジスさんが援護する。
「そうっスよね」
「ん……確かに」
「言われるとそうですわね」
「特別なヤツじゃ。なんじゃ。おぬしら。それ以上の追及は料金を請求するぞ」
パキラさんは苛立って言う。
「さて続きっス」
「どうぞどうぞネ」
「ん……続き……」
「わたくしは言われるとそうだと思っただけですわ」
あっさりと下がる面々。
思わず苦笑する僕。
「まったく。それで巨大なミミックをなんとか倒してのう。後はクラウンと巨大な陸ナマズだけとなった。戦っていると巨大な陸ナマズが地震を起こしたのじゃ。するとわらわたちは別の階層におった。ウォフたちと同じような現象じゃ」
「あの巨大な陸ナマズはレリック【地震】とレリック【転移】持ちっスね」
「厄介じゃったな」
巨大な陸ナマズ。
確かに前世の記憶でも大きなナマズは地震を起こすと伝えられていた。
まさか異世界でもそうだとは思わなかった。
いや陸ナマズはオオサンショウオだから違うか。
巨大なオオサンショウオ……超有名SFに出てくるマフィアのドンかな?
「戻ったらザ・フールが増えておってのう。巨大な陸ナマズはメガディアに穴だらけにされ、その直後にまた地震があった。気付いたら此処にいたんじゃ」
「あの巨大な陸ナマズが倒されたとき地震を起こしたんですの」
「まさかの最後っ屁っス」
「ビッド。女の子が使っていい言葉ではないですわ」
「さーせん……それで、巨大な陸ナマズの近くにいた。リーダーとクルトンとロモモとアガロさんは転移してないっス」
「4人も向こうに残ったってわけか。メンツ的に心配はなさそうだな」
「そうですね」
第Ⅱ級のアガロさんがいる。
「さ、ヒシモチの串が焼けたべ。皆、食べるだ」
ホッスさんがヒシモチ串を配る。
ヒシという実とパン豆を混ぜて練ってだんごにしたモノを焼いた。
これも神殿街の貯蔵庫にあった。
ヒシモチは素朴な味だった。甘タレとか塩とか合いそう。
「では、これからどうするか。話し合いたいと思いますわ」
「ん……リヴから……クラウンに関して……あいつの……レリックは……【バニッシュ】という……らしい。透明な球体を……つくり出せて当たったら……その部分が……消去される……ん。レリック…………」
リヴさんの情報に皆はザワッとした。
「見えないジャグリングの正体っスか」
「見ないし喰らったらアウト……酷いレリックだ」
「なんとも肝が冷えるのう」
「ん……でもリヴのタユゲテで防げた……」
「対処はできるってことっスね」
「リヴ。その情報はどこから仕入れたんですの?」
「ん……それは……少年……」
皆の視線が僕に集まる。
「え、えと、あの」
「ウォフくんっスか」
「おぬし」
「ん……」
「どうなってますの。子供。どうしてあなたが知っているんですの?」
「そ、それは、あの僕のレリックに【危機判別】というのがあって、それで敵のクラウンのレリックが見えるんです」
リヴさんの勘違いに便乗する。
「【危機判別】……そういえばリヴが言ってましたわね」
「なんっスかそのレリック」
「ん……敵とか分かる……レリック」
「便利っスね!」
「ふむ。確かにそれならば見えないモノでも分かるわけじゃな」
「は、はい」
「わかりましたわ。でも【バニッシュ】という敵のレリック名まで知っているのはどういうことですの。子供」
「それは……」
「———ウォフは魔女の弟子だ」
アクスさんが言った。更にザワっとする。
「あの魔女の弟子ですって」
あの魔女。
「ん……あの魔女……いろいろ…………すごく納得」
あの魔女。いろいろってなに?
「なんと、のう。あの魔女の……ううむ」
あの魔女。なんでパキラさん。嫌な顔をしているんだろう。
「ウォフくん。魔女ってあの魔女っスか!?」
あの魔女。はい。あの魔女です。
「は、はい。あの魔女です……」
なんだ、このあの魔女連発な反応。あの魔女め。
ルピナスさんは大きく息をつく。
「わかりましたわ。貴重な敵の情報が知れました。子供。感謝しますわ」
「い、いえ、僕は」
流されて思わずウソをついてしまった。
「他に何かやりたいことがあるひとはいますの」
「やはり捜索じゃな」
「巨大なミミックはどうするっス?」
「ん……それも……ある」
「そうだネ」
「なあ、その……メガディアさん。本当にこの最深部に居るのか?」
アクスさんがぽつりと尋ねた。
「どういうことですの?」
「四人みてえに向こうに残っているかも知れねえぞ」
「それはありませんわ。あのときメガディアはザ・フールの1体に回し蹴りを放ってましたから
「なるほどな。って回し蹴り?」
ゴスロリ衣装で?
「あとアレキサンダーも戻って来ないのは気になるべ」
「ああ、探さないといけないな」
「アレキサンダーさん。僕達の為に行ったきりで」
まだ戻って来ていないが、きっと無事だろう。
なにせ元第Ⅰ級探索者。
「それって陸ナマズ……っスよね」
ビッドさん?
ルピナスさんが遠慮なく言う。
「失礼ですが、そのアレキサンダーという魔物。信用できるんですの?」
「おい。本当に失礼だぞ。相手は魔物でも元第Ⅰ級探索者だ」
アクスさんは怒った。ルピナスさんと睨み合う。
あーこれはやばい。ルピナスさんは腕組みしたまま言う。
「なんですの。当然の疑いですわ」
「陸ナマズだから、お仲間だと思っているのか」
それは誰もが巨大な陸ナマズと陸ナマズで少しは思ったことだろう。
僕もそれは過ぎった。しかしこれはまずい。
アクスさんとルピナスさん。たぶん水と油だ。
そしてこのまま対立すると折角の団結が崩れてしまう。
今はそんなことしている場合じゃない。
するとホッスさんがハルベルトの石突で地面をついた。
ドンっと重い音がする。全員が振り返った。
「アクス。そこまでルピナスは言ってねえべ。皆も落ち着くんだば」
「ホッスさん」
「———分かりましたわ」
「……ああ。すまん」
ルピナスさんとアクスさんは離れる。
「わたくしはただ似ているから……疑っただけですわ」
「ん……ルピナス。信じよう」
リヴさんの言葉にルピナスさんは溜息をついて、僕を見た。
な、なんで?
「子供。あなたはどう思いますの?」
「僕ですか。えっと、どうして」
「あなたも彼と面識があるのでしょう。子供」
「僕はアレキサンダーさんが敵だとか微塵も思ってません」
「それは何故ですの」
何故か。それは単純にアレキサンダーさん。僕に借りがある。
それはおいといて。
「確かに懸念としてあるのは分かります。大きさの違いがあれど同じ魔物です。それが偶然とはいえ、疑いを持つのは仕方ないです」
「ええ、そうですわ」
「ウォフ……」
「だからといってたったそれだけで、繋がりがあるみたいな言動や反応はおかしいと思います」
「……それは」
「ところでアレキサンダーさんが居なければここから脱出できません」
「子供。どういうことですの?」
「忘れていませんか。帰還転移陣を持っていて設置できるのはアレキサンダーさんだけです」
「そうだったな」
「それもそうだべ。ここ。アクスたちの話だと閉じ込められてる可能性が高いんだ」
「脱出……考えてなかったっス」
「ん……重要……リヴも忘れていた……」
「そうじゃのう」
「そういうわけです。懸念は分かりますが今はそれどころじゃありません。それに何か疑いとかを持つのは結構ですが、この場はそれをどうにかする話し合いの場ではないはずです。ご不満でしたら本人に会って直接、個人だけでやりとりしてください―――これでよろしいですか。ルピナスさん」
「……子供……なかなか、やりますわね」
ルピナスさん悔しそうに言う。
考えたくはない。考えたくはないが―――ルピナスさん。
この場でその疑いを断罪に持っていこうとしていた感じがある。
多くの賛同を得ればどのような行為も正当化できると考えている気がする。
そんなわけがない。正当化なんて出来ない。
少なくとも今回の件は僕も苛立ちを感じた。
そんなことを言うならクラウンと同じレリックを持つ僕はどうだというのだ。
さすがにそれは言えなかった。しかし参ったな。
本当は僕もレリック【バニッシュ】を所持していることを公表しようと思った。
こんな事態だ。出せる情報は出すべきだった。
だけどこの流れだと僕も魔物扱いされかねない。
それにしても、脱出の事を忘れていたって本当かこのひとたち。
僕は一抹の不安を覚える。
もっとも巨大陸ナマズの最後っ屁の地震があった。
このダンジョンにそれがどう影響を与えているのか不明だ。
アレキサンダーさんの考察だと元に戻ろうとしているのなら出口があるか。
ただ、それを確かめるのは……今は後回しだ。
「あと疑問というか。陸ナマズってダンジョンの魔物だったんですか」
それ以前に陸ナマズって魔物だったか。確か動物というのもあったような。
「関係ありませんの。危害があるなら討伐するのが仕事ですわ」
そのルピナスさんの言葉に全員が頷いた。それはそうだ。
それからミミックを倒すのと並行してメガディアさんを探す方向で決定した。
ここは意見が少し割れたが、アレキサンダーさんを優先的に見つけることになった。
「え……なに、この……人の多さ」
突然の声に全員の視線が向く。
ミネハさんが戸惑いながら飛んでくる。
視線を向けられるとビクっとしてオドオドする。
そして僕を見つけると真っ先に飛んで肩に座った。
顔真っ赤で睨みながら説明を求める。
僕はなんだか笑ってしまう。
このメンバーで、なんとか出来るかもしれない。
「盛り上がっているところ悪いが、客人だ」
そうレルさんが案内したのは……まさか。
「やっと着いた。あーしもう疲れたわ」
「やれやれな1日でやした」
ボロボロのゴスロリを着た姫カットで紫の瞳をした妖艶な美少女。
その身長はアクスさんよりも高い。
そして、どうみてもオオサンショウウオ。キセルを咥えている。
「アレキサンダーさん!?」
「陸ナマズ!」
「メガディアさんっス!」
「アレキサンダーだべ!?」
「なんと」
「奇跡ですわ」
「ん……よかったよかった」
これから探す予定の2人と1匹だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます