静かなる者④
現れたのはコボルト。
鉱物の魔物で何故か人狼の姿をして群れで行動する。
その身体は並みの魔物より硬い。
また鉱物なのに俊敏な動きをみせる。
それが6体——-ひとりでは戦いたくないな。
「本当にウォフは戦えるの……?」
「心配いらねえ。俺が保証する」
「あんたが保証しても」
「こいつは魔女の弟子だ」
「えっ」
「え?」
え?
僕の反応にアクスさんが戸惑う。
「ん? いや弟子だよな。魔女が言っていたが」
「は、はい。そうです」
咄嗟に頷いて嘘をついてしまう。
ミネハさんが言った。
「来るわよ」
弟子とは初耳なんだが。
はぁーそのことも含めて後でキッチリ魔女と話つけようか。
『ヴヴオオォッッ』
コボルトが吠えて駆けてくる。その唸り声は震えていた。
どう発声しているのか。鉱物だから打ち付けてふるわせたのか。
すぐ襲い掛からず、警戒するような足取りだ。
「ふたりともコボルトは硬い。注意し」
アクスさんが言い終わる前にミネハさんは大きくなり、スピアーを構えて走る。
手前の1体に向かって突く。
「はああぁぁっっ」
スピアーの先端が当たるとコボルトは抉られて砕けた。
レリック【スパイラル】……恐ろしい破壊力だ。まるで見えないドリル。
「なに?」
ドヤ顔で振り向くミネハさん。
アクスさんは何も言わず剣を抜いた。
コボルトは動く鉱物だ。
普通の剣でどう戦うんだろう。
「見てろ。ウォフ」
「は、はい」
2体目をミネハさんが撃破するのを尻目にして。
アクスさんはコボルトの爪撃を避け、コボルトの首を刎ねた。
「えっ」
首無しコボルトは崩れた。
続いてアクスさんは2体目のコボルトの爪撃を弾き、同じように首を切断する。
な、なにがいったい。どうなっているんだ。
コボルトは鉱物の魔物だ。
首を剣で刎ねるなんて、そんな芸当。石像の首を刎ねると同じだ。
それが出来る? しかもいともたやすく……?
「いいか。コボルトは硬い。だが弱点はある。継ぎ目だ。コボルトの継ぎ目は可動しないといけないから他のより柔らかくなっている」
「柔軟性の確保の為ですか」
「そうだ。難しい言葉を知っているな。その継ぎ目を狙う」
確かに言っていることは合っている。
そして難なく実行しているから間違ってはいない。
でも簡単な事じゃない。
継ぎ目といったが、それが僕には見えない。
まったく見えない。
たぶんアクスさんは目で見ているんじゃなく感覚で覚えていると思う。
そして継ぎ目といっても他と柔らかいといっても。
鉱物だ。それを剣で切る?
あんなに綺麗に刎ねる?
経験の差か。それとも才能か。
アクスさん。レリック無くても充分強い。
「なかなかの腕前ね。アクス」
「そいつはどうも」
「……」
僕には無理だ。
なので僕は僕なりの方法で倒す。
残った2体のコボルトが雄たけびを上げて突っ込んでくる。
素早い。僕は【静者】を発動させ、まずナイフを構えた。
一体目、コボルトAが爪撃を繰り出す。
それを正確に強く弾けるポイントを狙って弾く。
コボルトAは大きくふらついた。チャンス。
僕はナイフで突くフリをして【バニッシュ】を当てた。
コボルトAの身体に穴が空いて崩れる。
ああ、本当はナイフに重ねてそのまま切ると同時に消す。
そんな技を繰り出したい。
でも重ねるのはオーパーツじゃないと不可能だ。
アガロさんの戦いを見てどうしても試したくなったことがある。
それが起因で―――2万オーロのナイフの刃がうっかり消えたことがある。
2000ではない。20000だ。
その日の夜は涙と後悔と屈辱と色々止まらなかった。
そして今も引き摺っている。たぶん今後ずっと心の片隅に残る。
だからナイフを消さないよう慎重になる。
今年に入って何本ナイフを無くしたか数えたくもない。
『ヴオオォッッ!』
最後に残ったコボルトB。
僕は先に攻撃した。狙うは―――組む!
コボルトの両腕を掴んだ。脚を引っ掛けて投げる。
「倒したっ?」
「なにしてんの。そんな程度だとコボルトは砕けないわ」
そう、だから投げ倒すと同時にナイフで刺すフリをする。
コボルトBの腹部に【バニッシュ】を叩き込む。
その部分が綺麗に丸く無くなる。
コボルトは崩れた。
「へえー……やるわね」
僕達はコボルトを全滅させた。
「こんな感じでどうですか」
「いいぞ。さすが魔女の弟子だ」
「本当に戦えるのね。しかも魔女の弟子」
「だろ。魔女の弟子だろ」
「そうね。あの魔女の弟子……」
「……」
魔女の弟子を連呼しないで欲しい。
(それにしてもアクスの剣捌き。師匠とソックリ。習ったわけじゃないのに……やっぱり親子ね)
「? ミネハさん。なにか?」
「なに?」
「いま何か言ってませんでした?」
「何も言ってないわよ」
「どうした?」
「いえ、なんでもないです」
(さっきのウォフの……ナイフ使って無かったように見えたが、まぁいいか)
「……」
今度はアクスさんの声が聞こえた。
でもアクスさんは何も言っていない。
(―――やっぱりアクスにはあのことを話すべきかしら)
今度はミネハさん? いったいどうなっているんだ。
しかもあのことってなんだ?
(もう話してもいいわよね師匠。あの10年前の―――)
10年前? って急に声が途切れた。
同時に【静者】がクールタイムに入る。
僕はすぐにハッとする。
声だ。声が聞こえるとあった。
謎だったけど、これが声なのか。
魂から発して魂に響くような声。
ひょっとして心の声。テレパシー!?
僕は息を呑んだ。
レリック【静者】は心の声も読める。
いや結論付けるのはまだ早い。
クールタイムが過ぎてからもう一度使用して確かめよう。
もしそうなら、このレリックもとんでもない危険な代物になる。
ある意味あのレリック【ジェネラス】よりも。
「そろそろ行くか」
「そうね。ウォフ。敵は?」
「今は反応ありません。大丈夫です」
僕達は歩き出した。
どこまで続くんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます