静かなる者③
僕はついでにレリック【静者】のことをふたりに話そうと思った。
さすがに【バニッシュ】は話せないが、これはいいだろう。
それに【静者】を詳しく知りたいというのがある。
探索者のふたりなら、ひょっとしたら知っているかも知れない。
「実は、もうひとつレリックがあります」
「えっ、アタシと同じ。ふたつ持ち?」
「どんなレリックだ」
「……【静者】です」
「【聖者】!?」
「なんだと!?」
「ち、違います。静かなる者で静者ですっ」
まぁあのスーパーウルトラレアレリック【聖者】を連想するのは無理ない。
僕も真っ先に頭に浮かんだ。
レリック【聖者】は至高のレリック【ホスチア】に関連するレリックだ。
所持していたら確実に第Ⅰ級探索者が確定する。
少なくとも公表されている範囲では現在、所持者がいない。
ミネハさんが溜息をつく。
「なに、パチモン?」
「そうじゃないですけど」
「……静かなる人で【静人】というレリックはある」
アクスさんがポツリと口にした。
「どんなレリックなんですか」
「使用すると一瞬だけ冷静になれるらしい」
「便利のような便利じゃないようなレリックね」
「冷静にならないといけないときに使うと、落ち着けるから便利らしいぞ」
「ふーん。言われるとそうね」
確かに一瞬でも冷静になれるから使えるレリックだ。
探索者にピッタリだけど。
「一瞬だけなんですか」
「そうだな、そう聞いている」
「ウォフ。あんたのその【静者】はどんなレリックなの?」
「えっと、一定時間だけ冷静な状態で行動ができます」
あと声が聞こえるっていうのがあったけど、今のところ不明だ。
たぶん耳が良くなるみたいなのだろう。
「待て。それってなあ」
「【静人】の上位互換ね」
やっぱりそうなる。一応尋ねてみた。
「あの、僕のレリック【静者】を所持しているひとは」
「俺が知る限りいない」
「アタシも初耳だわ」
「……ですよね」
はあ。ですよね。
アクスさんがふむと頷く。
「今は緊急事態だが聞いたが、あまり言っていいことじゃないな」
「アタシの【スパイラル】もそうだけど、希少は狙われるからね」
「そうですよね……」
特に僕は探索者じゃない。
いざとなればどんなモノも排除できるが、それは目立つからやりたくない。
それに排除するのも心が疲れる。
【静者】を使えばそれは無くなりそうだけど……何か失う気がする。
「安心しろ。俺は言わない」
「アタシもよ」
「は、はい。ありがとうございます」
ふたりとも僕の心情を察したのか。
ありがたい。
「にしても、アクス。あんた。妙にレリックに詳しいわね」
ジト目でミネハさんが言う。それは僕も思った。
アクスさんは言われると思ったよと前置きして。
「色々思うところはある。それでもレリックは探索者に必要なモノだ。使えなくても情報として覚えておいて損はないからな。もし対応することがあっても対処できる」
対応。それの意味することは理解している。
探索者同士の戦いだ。ダンジョンには法が無い。
例え国法で探索者同士の争いが禁止されていてもだ。
ダンジョンには関係ない。
ここでは何が起きても許容される。
許される。それがダンジョンの法かも知れない。
「―――情報は何よりも勝る力って師匠が言っていたわ」
「探索者としての基本だな」
よく覚えておこう。
それにしてもアクスさんとミネハさん。
自然に話しているように感じる。
お互いに仲良くなったわけじゃない。
それでも嫌悪感は無くなった気がした。
特にアクスさん。なんだかレリックに対する嫌悪感が薄れているような。
なにかあったのか。
まあ、とにかく良い傾向なのかもしれない。
「それにしてもここはどこなのよ」
「ダンジョンだ」
「そんなの分かっているわよ。3階じゃないでしょここ。明らかに雰囲気が違うわ。3階までじゃなかったの?」
「素人考えだが推測はできる。何階まであるか分からないが、ここは元々普通のダンジョンだった。あるいは普通のダンジョンとして発生するはずだった。しかし」
「ダンジョンの異変」
僕はつい口を挟んでしまった。
アクスさんは頷く。
「そうだ。ダンジョンの異変の地震で普通のダンジョンじゃなくなった」
「それで全3階のダンジョンになったというの?」
「あくまで推測だ。詳しいことは調べないと分からない」
「じゃあ、なんで今こうなったわけ」
「それは、たぶんまた地震が起きたからですよ」
答えたのは僕だ。
「地震……そういえばあったわね」
「それでまたダンジョンに変化が起きたんだと思います」
「ウォフの言う通りかもな。今、異変の討伐を他で行っている。その影響でまた地震が発生したと考えれば、納得できる」
「そもそも地震ってそんなんだっけ?」
前世の記憶だと違うけど、異世界の地震だからなあ。
それにこの国というか大陸は地震が滅多に起きない。
アクスさんは首を横に振った。
「初めてだから分からない」
「僕もです」
「ふーん。それで此処は何階なの」
ミネハさんの質問に誰も答えられない。
僕は言った。
「とにかく現状は進むしかないです」
「そうだな」
「そうよねやっぱり」
他に道はない。
何があるか分からないが今は進むしかない。
すると赤い点が六つ。前方の壁を透けて見えた。
「ふたりとも敵ですっ!」
「なに?」
「それってレリックの?」
「はい。動く赤い点。敵は6体です」
「ちょっと多いわね」
「ウォフ。いけるか。ひとり、2体だ」
「ちょっと、あんた。雇い仔に」
「わかりました」
僕は頷いた。
そんな僕の横顔を見て怪訝にするミネハさん。
「ウォフ……? あんた。戦えるの」
「はい。戦えます」
ナイフを取り出して構える。
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