静かなる者⑤
探索は続く。
今の目的はレルさんとホッスさんを見つけて脱出する。
そして登りが無いのでひたすら下に進むしかない。
ただ今は進むしかない。
それはそれとして僕はレリック【静者】を何度も使用した。
戦闘以外でもこっそり使う。そうして確信できた。
レリック【静者】は人の心が読める。
なんというレリックだ。
(ウォフは気付いてないんだろうな)
アクスさんの心の声がした。え? なにを?
(また目の色が青になっているわ)
今度はミネハさんの心の声?
眼の色が青ってどういう意味だろう。
(【静者】を使っているとあいつの目が青くなるんだよな)
な!? そうだったのか。それはさすがに気付けない。
そうするとレリック【静者】を使っている事はバレバレってことか。
急激に罪悪感を覚えた。
使っているのがバレたからって心を読んでいるとは絶対に分からない。
それでもそれを僕が分かっていることが心に重く圧し掛かる。
残酷な嘘を平気でついている気分だ。いや実際そうだ。
だからといって言えるわけがない。
人の心を読めるレリックなんて危険極まりない。
殺されたっておかしくない。
それにしても青い目か。
別に珍しくはないけど、あの黒騎士の蒼い瞳をどうしても思い出す。
そういえばあのとき声が聞こえた。
今みたいに心の中に響くような……声がした。
それとミネハさんに目がどうとか言われたような。
(綺麗な青く光る瞳ね。宝石みたい)
そうか。それがこの青い眼だったのか。
「ねえ、あの壁。変じゃない」
肩に乗るミネハさんが僕に囁いた。
彼女が指差しているのは真っ白い石の壁だ。
「変ですか?」
「あんたねえ。よく見なさい」
「どうした。ふたりとも」
アクスさんが気付いた。
「ミネハさんがあの壁、変だと言ったんです」
「……白い壁だな」
「あんたも分からないの? あの壁。穴が空いているわ」
「穴?」
「一番下よ」
「お、本当だ。真下に空いているなぁ」
「あっ……確かに」
白い壁の一番下に亀裂が入って穴がある。
これ普通、気付くの難しいぞ。
一番地面に近い背丈だから分かったのかな。
ミネハさんが僕から降りた。亀裂をスピアーでつつく。
「不自然ね。砕くわよ。はあぁぁぁっっせい!」
四角く穴が空いた。
「なんだこれ。変な感じに穴が空いたぞ」
「煉瓦ブロックひとつ分ぐらい?」
「これは自然の穴じゃねえな」
砕いたら真四角に穴が空くのは不自然すぎる。
ミネハさんは穴に近付く。
「アタシ。入れるわ」
「おい。危険だ」
「そういうときの為にウォフでしょ」
僕はレリック【危機判別】を使った。
「白です。危険はありません」
「なら行くわ」
ミネハさんは飛び降りて穴の中に入っていった。
アクスさんは苦笑する。
「度胸あるなぁ」
「そう思います。あの、こういうのってよくあるんですか」
「そうだな。たまにこんな穴を見つけるときはある。だがこんな穴だからな。不思議に思うが大抵はスルーだ」
「なるほど。通れるっていうのが予想外ですからね」
「通れるのが正しいってわけじゃねえと思うが、そんなに関心あるのは変人だけだ。大体の探索者は先に進むことを優先する。その方が依頼以外で儲かるからな」
「依頼以外の稼ぎですか」
初耳だ。そういうのもあるのか。
「小遣い稼ぎ程度だが、例をあげると階層を更新すると貰えるボーナス。新しい魔物を見つけると貰えるボーナス。隠し部屋を見つけると貰えるボーナス。救助すると貰えるボーナス。ゴミ場行き前に遺品やタグの回収ボーナスなどだな」
「色々あるんですね」
「ああ、後はオーパーツ発見ボーナス。レガシー発見ボーナス。レジェンダリー発見ボーナス。滅多に無いがそういうのもある」
「全部達成すればかなりの額になりそうですね」
「そりゃあ……そうだ。ダンジョン攻略ボーナスもある」
「攻略ですか」
アクスさんは思い出したように言う。
「ああ、最近だと例の森だな」
「……例の森ってあの」
「あくまでも噂だが攻略されたらしい」
「あの例の森が、ですか?」
「あくまでも噂だ。ギルドから正式発表がないからな」
「そうですか」
噂でも攻略されたという情報が流れているのが知れて良かった。
バレないよね? バレてないよね?
するとガコンっと壁の一部が割れて開いた。
「隠し扉か!」
「隠し部屋っ?」
僕達が驚いていると、ミネハさんがその中から飛んでくる。
なにやらニマニマニヤニヤしていた。なんだ。
「ふたりとも、凄いの見つけちゃったわ」
「なにかあったのか」
「な、なんですか」
「見ればわかるわ」
そう誘われて僕達は入る。
そこには石の台座に宝箱が設置されてあった。
赤い宝箱だ。
側面に沿って金縁で飾られ、蓋の部分は銀縁に彩られている。
表面と裏面には文字が刻まれていた。
波打つような文字。四角い文字。点打つ文字。読めない。
だがこんな神秘的な宝箱は初めてだ。
「これだけの部屋か」
「アタシも探したけどそうみたい」
石の台座と宝箱以外は何もない。
小部屋で周囲は白い壁に囲まれ、床は黒い。それだけだ。
僕は次に宝箱を【危機判別】で確認する。
赤だ。いや黒っぽい赤。ミミック!?
「違う」
「なに」
「なんだ」
違う。何か違う。僕は【フォーチューンの輪】を使う。
宝箱の中にあるその色を見て、震撼した。
青。青だ。
青か。
「青っ!?」
スーパーウルトラレア!?
「青? なに」
「どうしたんだ。ウォフ。お、おい」
僕は宝箱に近付いた。そして触れる。
襲い掛かって来ない。ミミックじゃない。
じゃあこの黒い赤の反応は……そうか。
「そういうことか」
「あんたさっきからなんなの?」
「ウォフ。その宝箱。おまえのレリックで何か分かるのか」
「はい。この宝箱には罠があります」
「あんたのレリック。そんなことまで分かるの?」
「それもこの罠は死ぬ罠です」
僕の発言にふたりの表情が曇る。
「最悪」
「デストラップか。参ったな。こういうのはレルが得意なんだよ」
「ミネハさんは?」
「ウォフ。人にはね。得手不得手があるの」
つまり苦手と。
「あの、ふたりに相談があります」
「なに?」
「なんだ」
「宝箱。開けたら中身は僕が貰ってもいいですか」
「いいわよ」
「開けるのか。開いたら中身は、まあいいけどよ。大丈夫なのか?」
「ありがとうございます。鍵開けは魔女に習っています」
「そ、そうか。魔女の弟子だからな」
嘘をついた。僕には鍵開けの技術はない。
僕は【静者】を使用して宝箱の鍵穴へ。小さな【バニッシュ】を押し付ける。
鍵穴の機構と罠の仕組み全部を【バニッシュ】で消去する。
単なる箱になるから開いた。
「本当に開いた」
「すげえ」
「こ、これは」
宝箱に入っていたのは、なんだこれ。
僕は中身を手にした。
「は? なにそれ」
「なんだそれは」
見せるとふたりは首を傾げた。
そういう反応になるよな。
これが宝か。
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