荷物持ち⑬
荷物持ちなのでホッスさんの荷物を少しは持つ。
僕の体格と体力から全部は無理だ。
「すみません。荷物持ちなのに」
「気にするでねえ」
「いつもこれくらい持って行くんですか?」
「今回はちょっと多いべ」
「僕がいるからですか」
「それもある。気にするでねえ。オラは料理番だ。ウォフは料理するべか?」
「はい。自炊ぐらいですが」
「それは頼もしいべ。あのふたりはしないんだ」
「どういう食事をするかとても興味あります」
「それなら手伝ってもらうだ」
「はい!」
ダンジョン料理。楽しみだ。
ちなみにミネハさんの荷物を持つと言ったが丁重に断られた。
乙女の持ち物を持ちたいとか変態なのって睨まれた。
僕それが仕事なんですけど、でも納得するところはある。
出発してどのくらい経ったか。
やがて森が見えてきた。その近くで休憩する。
「今回の調査するダンジョンはこの森の奥だ」
「ねえ、入り口までかなり掛かるの?」
ミネハさんが近くの石に座って尋ねる。
なお彼女は今まで歩いても飛んでもいない。
ずっと僕の肩に座っていた。これには理由がある。
サイズ的に僕達と並んで歩くのは困難だ。速度も違う。
飛ぶことは出来る。
ただし長時間飛び続けるのは体力を消費するらしい。
誰かに運んでもらうのが一番だ。
メンバーでそれが出来るのは僕しかいない。
これは絶対に言えないけど。彼女も気付いてないけど。
僕の肩に触る彼女のオシリの柔らかさにちょっとドキドキした。
あとこれも言えないが僕の肩に座る彼女は重かった。
ただ鎧姿なのに凄い重いわけではなかった。
あの鎧。鉄じゃなさそうだ。
鉄だったら彼女も動けていない。
重いけどお尻の柔らかさと相殺されてあまり感じなかった。
女の子のオシリは偉大なり。割と真理だと思う。
アクスさんが空を見上げて答えた。
「今が昼頃だから、夕刻までの間に着く」
「それくらいね。それで今回のダンジョン探索について話してくれるんでしょ」
「あ、ああ、まず今回のダンジョンは異変の地震後に発生した無数のダンジョンのひとつだ。ダンジョンの規模は小さく、地下3階程度しかない。今回で3回目の探索になる」
「3回目ってどういうこと?」
「それぞれ別の探索者が探索する事になっている。全4回だ」
「それって、ギルドの依頼?」
「そうだ」
「あの、ちなみに前2回の探索結果は……?」
「2回とも結果は特に異常なかったらしい」
「それって1回目で済む話よね」
ミネハさんが馬鹿みたいと眉根を寄せた。
アクスさんは苦笑する。
「そうだな。だがギルドは全4回と決めた。俺等の後に別の探索者が俺等と同じように探索するのはもう決まっている」
「まるで意味が分からないんだけど? だってもう結果は出ているじゃない。それなのに無駄なことをまださせるの? いくらダンジョンが驚異だからってそんなに変化は無いのは分かっているでしょう」
「その意見だけには賛成だな」
「オラも前に聞いても今も聞いても無駄しか思えねえべ」
「……そうだよなぁ……」
重い沈黙が少し流れた。全員、理不尽と不可解さを思っている。
それはそうだろう。誰が聞いても意味無しで無駄だ。
僕は仕方ないと口を開いた。
「それはおそらく予算を使い切る為でしょう」
僕の発言に全員の視線が集中する。
「どういうことだ」
「予算ってなに?」
「ふむ。興味深い」
「予算ってなんだべ?」
ミネハさんとホッスさんの反応が一緒だな。
これは予想ですけど……そう予防線を張って言う。
「探索者ギルドは国営ではありませんが、それなりの莫大な支援金を国から受け取っています。そしてそれを補正予算として各支部に与えているんです。そしてその補正予算を組み込んで様々なギルド依頼を出しているんです」
「補正予算……?」
「ほう。今回の依頼もその補正予算を組み込んでいるというわけか」
「……国から金貰ってたんだべか。そりゃあそうだべよな。元々国の機関だ」
「それが無駄な依頼とどう関係しているの?」
「この補正予算は年度かどうかはさておいて、しっかり使い切られないといけないんです。余ったりしたら、次から予算が減らされるからです」
「なにそれ。うまくやりくりしたら減らされるって」
「やりくりできるから減らされるんだろう。それで出来るってことだからな」
「うまくやったら馬鹿をみるって納得いかないべ」
「―――だから予算を使い切る為に無駄と思える依頼があるんだな」
アクスさんの理解度に僕は頷く。
「そうです。ちなみに依頼があって予算があるんじゃないです。予算があって依頼があるんです。つまりどれだけの予算を使うことを決めてから、その予算に合う依頼を組むんです」
「なにそれ。普通は逆じゃないの!? そんなの探索者のこと考えてないじゃない」
「考えていないからだろう。予算を使い切る為にある依頼だからな」
「真っ黒でひどい話だべな」
「……あまり知りたくない事実だったな」
全員が少なからずショックを受けている。
「そうですね」
夢も希望もない話だ。
「ふむふむ。だからギルド依頼は3番目の姉みたいに無駄が多いのか」
「変な依頼も多いって師匠も愚痴っていたわ」
「嫌われるのも納得だべ」
「失敬な。3番目の姉は嫌われていないぞ」
「そんな話はしてないだ」
「あくまでも予想ですからね」
でもまあ大体は合っているだろう。
ギルド依頼について評判が悪いのは知っていた。
いくつか内容を聞いて、なんて無駄と意味が分からないことが多いのか。
少し調べて国から支援されていると知る。
支援つまり支援金か。理解した。
だからこの予想は前々から立てていたものだ。
「ったくそんなことするなら依頼料を上げろってんだ」
「まったくその通り」
「その話を聞いたら依頼料に納得いかないべ」
アクスさんたち苛々している。
僕は気になった。
「そんなに低いんですか」
「ギルド依頼が嫌われる理由に依頼料が低いのが真っ先にあがるほどだ」
「もちろん。今回の依頼料も低い。同じ依頼の半分ぐらいだ」
「ええぇ……それならどうして引き受けたんですか」
「昇級の覚えが良くなるのよ」
ミネハさんが答えた。
僕は一瞬で納得する。
「ああ、そういう」
ギルドの貢献度で昇級の合否が決まるのか。
それってどうなんだ? 実力主義で決めないと危なくないか?
「それにしても、あんた。変なことに詳しいのね」
ミネハさんが感心半分呆れ半分で僕を見る。
「むしろ詳し過ぎだろ。本当に13歳か」
「8番目の姉みたいに素晴らしかった。良い知識になった」
「オラにとっては知りたくない現実だっただ」
「はははは……前に読んだ本にあったんです」
ちなみに前世の記憶が知っていた。
官僚だったのかどうかは分からないけど、子供じゃないのは確かだ。
休憩が終わって森へ入る。
魔物とあまり遭遇せず僕たちはダンジョンの入り口に着く。
それは森の中にぽっかりと空いた穴だった。
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