荷物持ち⑫
危なかった。ふう。
すぐに彼女が来なかった理由は分かる。
身体を拭いてタオルを巻いていたんだろう。
その間がなければバレていた。
いやよく考えると僕の家なんだから……でも裸を見てしまったからなあ。
あんな綺麗な女の人の裸……一筋の雫が胸から腰に伝って……ちがうちがう。
泥棒?
この家に盗む価値の―――ああ、あるなあ。
しかも三つもある。
レジェンダリーの水筒・三日月の器。多機能。
エリクサーを掛けたら対アンデッド最強になったナイフ。
そしてレジェンダリーで名称を知らない卵型の器。エリクサー無限湧き。
レジェンダリーがふたつとか。
どう考えてもこんなところにある代物じゃないな。
特に最後のやつは……戦争が起きてもおかしくない代物だ。
窃盗目的なら僕の部屋に入ったとき探っていた。
いや僕を殺していた。
しかし彼女は僕を確認して出た。
盗みが理由じゃない。
大体、それ以前に盗みに入った家で暢気に身体を洗うとかしないだろう。
じゃあ彼女はなんなんだ?
「…………」
実は答えは分かっている。
というかもうこれひとつしかない。
ミネハさんだ。
背丈や体格全て違うけど、ミネハさんだ。
「……ミネハさんなのか……」
それでも疑問はある。
一番は大きさ。フェアリアルのサイズじゃなかった。
でも彼女にはミネハさんの面影があった。
フェアリアルの彼女が普通の人族サイズになったらああなるんだろう。
なるのか……? 彼女10歳だよな?
あれは間違いなく女性だった。少女じゃない。
胸は豊満で揺れて、腰はくびれ、尻も桃みたいに丸かった。
あのモデル体型の身体と外見で10歳……?
しかも僕より背が高い。
「いやそれはまだ成長期だから」
そうこれからだ。僕はこれからだ。
にしてもミネハさんスタイル良すぎないか?
それよりもだ。フェアリアルの彼女が普通のサイズになった。
どう考えてもレリックだ。
実際知らないがそういうこともありえるのがレリックだ。
だとすると【人化】か【巨大化】か。
ひょっとしてフェアリアルが必ず所持しているレリックなのかも知れない。
彼女に訊くことが出来ないのがなあ。
だって尋ねたら裸を見たことがバレる。
「さすがに言えないなぁ……」
そして彼女がレリック主義になる一端に気付く。
フェアリアルという妖精みたいな種族。
よく考えもしなかった。
あの体格だと普通に暮らしていくには不便が多いだろう。
だから普通の人のサイズになれるレリックがある。
それならレリックを大切に思うのも分かる。
「…………」
僕は反省しないといけない。
思ったよりも、あの例の森の出来事が自分の中で大きくなっていた。
僕は負けた。敗北した。
レリックが無ければ生き残れなかった。
僕はレリックが嫌いだ。
感謝はしている。恩も感じている。
でもレリックは自分の本当の力じゃない。
道具だ技術だ。だからレリックで誇れるものはなにもない。
「……」
ミネハさんからすれば怒って当然だ。
彼女はレリックを生きる為に使っている。感謝するのも当然だ。
レリック選民主義者になるのも分かった。
だからといって彼女にアクスさんたちを卑下する権利も資格もない。
アクスさん達には……彼等にしか分からない苦悩がある。
それは僕とミネハさんには分からない苦しみだ。
「…………はぁ」
魔女の思惑通りになっている気がする。
たとえどんな結果になったとしても終わったら魔女に問い正そう。
そしてどんなことになっても依頼が達成出来ればそれでいい。
冷酷だと思うけど、どうしようも出来ない事はこの世にある。
空の星よりも沢山ある。
僕は前世の記憶でそれを知っている。
だから栄達も栄光も成り上がりもいらない。
日々を生活できればそれでいい。それだけで充分だ。
「……なかなか、うまくいかないな」
それが人生だ。
きっと明日は今日以上に衝突が起きるだろう。
どう転んでどうなるかは分からない。
誰にも、分かるわけがない。
翌朝。
塔の上。タオルを巻いて、すやすや眠るミネハさんを起こす。
「んーなによ」
「時間ですよ。朝食、用意してあります」
「……んー……わかったわよ」
「ただ、出来るだけ大盛にしましたが、さすがにあれほどは無理です」
「……いいわよ別に……そんなの期待してないし……ふぁっ……なに?」
ジッと見ていたら怪しまれた。
しまったつい。やっぱり面影というか……本人だな完全に。
着痩せするというのが当てはまるのかどうか。
今は鎧を着てないので分かる。でかい。胸がでかい。
「あっいや、こんなところでよく寝ていたなと」
「そうかしら……ふあぁ、悪くないわよ。ここ」
サイズ的になのか。
少なくとも僕はここで寝るなんてことはしない。
大人が横になるスペースはあるがそれでも狭いところだ。
ミネハさんは顔を洗って僕が用意した朝食を全て食べ、準備して出発した。
東門にはアクスさんとレルさんが居た。
「おはようございます」
「おはよう」
「うむ。おはよう」
「……おはよう」
「ああ、おはよう」
「おはよう」
「ホッスさんは?」
「彼なら少し遅れている」
「行った傍から、来たぞ」
リュックを背負ったホッスさんが走ってきた。
「申しわけねえだ」
「いつものことだ」
「荷物多いな」
「おはようございます」
「おはよう。準備で寝遅れて」
「そんなのどうでもいいわ。行くんでしょう」
呆れたように、それとも面倒くさそうにミネハさんは言葉を切った。
「あ、ああ」
「そうだな」
「めんぼくねえ」
「……」
「よし。出発だ」
こうして僕にとって不安しかないダンジョン探索が始まった。
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