灰の花②・霧深い墓標。


例の森。

そう呼ばれている。


森については数々耳にする。

でも僕が知っていることは少ない。


入った探索者は多い。

誰一人も戻ってきていない。


その中には第Ⅱ級の探索者もいる。

入ると笛の音がする。


それだけだ。僕はそれしか知らない。

何故なら興味ないからだ。


入ったら二度と戻って来れない森なんて誰が行くか。

絶対に行かない。なので興味はこれっぽっちも無かった。


「少しは興味もっておけば良かったな……」


どこにあるかぐらい。霧深い墓標だらけの森。

前も後ろも左右も何もわからない。


レリック【危機判別】は使えない。

使用するとさっきみたいに全て真っ暗になる。


使えるのは【バニッシュ】だけか。

二度と戻って来れない。


なにかいるんだろう。

警戒するとまた聞こえてくる。


「―――~♪~~♪~♪♪~♪~~~♪」


周囲に響く奇妙な笛の音。

すると墓近くの地面が蠢いた。


僕は咄嗟に【バニッシュ】で身構える。

掘り起こされるようにして墓から這い出たのはスケルトンだった。

それも1体や2体じゃない。


「……っ!」


数えきれないほどのスケルトン。

それぞれ錆びた剣や斧や槍など武装している。


しかも革や金属の鎧を身に着けているスケルトンもいた。

どれも汚れ褪せているが、それでも防具だ。


どのスケルトンも赤い幽火を眼窩に宿している。

奇異だ。


アンデッドのスケルントンは見たことがある。

13体ほどだがどれも眼窩の幽火は青かった。


何か違いでもあるのだろうか。

それよりも、どうする。


警戒しつつ見通しが立たなく困っていると動いた。

近場の6体のスケルトンが僕へと接近してくる。


絡み合う骨を軋ませた音を弾ませる。

間合いに入ると先端が欠けたロングソードを振った。


「っ!」


速い。咄嗟にナイフで受け、重さが無いのが救いだった。

これに重量があればナイフは弾かれていた。それほどの振りだ。


スケルトンは骨だ。骨だけで振るわれた剣は軽い。

受け止めて弾き、腹部を【バニッシュ】で叩く。


通常の武器でアンデッドのレリック【不死】は打ち消せない。

効果があるのは光属性や付与された武器。


またはポーションなどの回復アイテムで濡らした武器だ。

しかし例外もある。


【バニッシュ】で腹部を消されたスケルトンの他の部位は霧散した。

再生もせずに消えた。

僕はその他のスケルトンも消去した。



霧深い森の中、笛の音がする。

僕は木の陰で溜息をつく。


「この数を相手にするのは……しんどい」


なんとか逃げられたが、見つかるのは時間の問題だ。

一瞬、頭を過ったのは第四のレリック。


あれならば、あれなら……でも使いたくない。

キマイラで使ったのは時間が無かったからだ。


あの状況は使わざる得なかった。だが今はそうじゃない。

まだそうじゃない。


まだだ。

まだ!


でもさすがに死ぬのは嫌だ。

本当に本当に危なくなったら使う。


だけどそれは本当に命の危機が迫って絶体絶命のときだけだ。

僕は第四のレリックが嫌いだ。


あれは僕が持っていていいレリックじゃない。

いいや。あれは人が扱う、扱っていいレリックじゃない。


「…………」


それに敵の正体が分からない。

おそらくあの笛の音を奏でているのが例の森の……正体だ。


どうする。

どうする。


僕の手には普通のナイフ。

対抗できるのは【バニッシュ】のみ。


【危機判別】は使いモノにならない。

残るは【フォーチューンの輪】だ。


他にも、まずい。スケルトンがゆっくりとだが接近してきている。

何かなんでもいい。ポーチの中を必死に探る。


指にそれが当たった。

僕は目を見開く。


「あっ……そうか」


これがあった。

これなら僕のナイフでもスケルトンに必ず効く。


それよりもだ。

どんな光属性の付与やオーパーツより強力かもしれない。


それと打開策かどうかわからない。

やってみたいことが浮かんだ。


とにかく希望かどうかはさておき。

やってみるか。

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