第6話 黄衣の王
side…ダンジョン省
ダンジョン省は騒然としていた。突如第三ダンジョンの深淵に現れた伝説級の物品を取り扱う謎の商人イタカがダンジョン省が交渉に出した使節団に対して危害を加えて来たという情報が入ったのだ。
使節団25名の内、18名の死亡と2名の行方不明者が確認され、無事に逃走出来たのは5名のみであっり逃走出来た5名も試験運用されていた非常時用転送装置を使用する事でしか逃げる事ができ無かったと語っている。
ダンジョン省は使節団への聴き取りを並行で行いつつ、第三ダンジョン緊急対策委員会を開いた。
対策委員会ではイタカの危険性、所有する商品によって他国に逃亡可能な事から特殊災害級モンスターに指定された。現在指定されている災害級モンスターは29体おり、イタカは30個体目となったのだ。現在イタカに居住圏である、黒山羊軒の捜索が行われている。
また使節団の聴き取りも余り進んでいない、理由としてはイタカの所有していた大鉈に精神干渉機能が存在していると思われ事にある。使節団の冒険者全てが精神汚染「恐慌」状態にされており発言がほぼ要領を得ないのだ。治療師などによる治療も遅々として進まず、精神科医などによる根本的治療に切り替えている為、いつ終わるか分からない状態になっている。
使節団の責任者である田中部長は
「平和的、かつ互いの利益になる様、対話を試みたが、相手は所詮モンスターであり、人間に対する憎悪によって何の罪も無い使節団を殺害した。非常に冷酷な討伐すべき、モンスターである。」
と強く発言し、強行派の先鋭でもある。
対策委員会もといダンジョン省としては、これでようやく黒山羊軒の品々を独占できると安堵していた。ただ一つ全員が分かっていながら無視している問題がある、イタカが討伐可能かその点に、災害級モンスターの撃破記録は30個体中7個体しか無い事に。
Sideイタカ
lv.4638 種族バイアクヘーロード 個体名・kl「2;… 称号「翼ある貴婦人」
「空の騎士の友」
「Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa」
太古に存在した翼竜を更に凶悪して、空虚な眼窩を付けたような不気味な見た目のバイアクヘーロードは叫ぶ。
これで探知結果では女性だと出るのだから驚きだ。
バイアクヘーに精神干渉を効かない為、イタカは武器を大鉈からアヴェリン二弩流に切り替える。直径1500m程の深淵の大穴中央にはバイアクヘーが思いの外、流麗に舞っていた。そんな大穴の際を走りながら結晶矢を撃ち続ける。
決戦型アヴェリンに付与されたスキルは7つ、「結晶魔法強化」「軌道調整」「風切り」「高速演算」「自動追尾」「肉軋み」「剛弓“英雄”」である。反動軽減スキルが無ければ、肩が外れる程の反動を誇るアヴェリンを両方の手に持ちながら走りつつ乱射できるイタカはやはりモンスターと言うべき身体能力だ。
「チッ、、、」
イタカは舌打ちをする。想像以上にバイアクヘーロードが疾く、撒き散らかす風魔法は凄まじくアヴェリンの矢の勢いが殺され威力が半減している奥の手の効果も遠距離戦では余り役に立たない。イタカは焦っていた。
(不味いな、奴の作戦はこちらを風魔法である程度削って、手札を晒してからフィジカルで轢き潰すつもりだ…なら、初手で「分からん殺し」をすれば良いんだ。普段は
デメリットがデカ過ぎて使えないが、まぁやるしか無ぇな。最悪だ、気色が悪くなるんだありゃ。それに“商人”らしくなくて嫌だ、が命には変えられーー)
瞬間イタカの視界は黒い体躯で埋め尽くされる。
「ガハッッ」
数瞬後、イタカの目に映る世界が二転三転する。奥の手を発動していなければ体がバラバラになっていただろう。イタカは深淵の層を区切る岩盤に叩きつけられ、口角からは藍色の体液が漏れ出した。
イタカは自らが人間ではない証である毒々しい色の体液を拭い、起き上がりながら再びこちらを突貫するバイアクヘーロードの嘴を避ける。
巨大な音の波がイタカに叩きつけられる。
イタカの元いた所にはバイアクヘーロードが佇んでおり、高速で岩盤に突貫したというのに傷ひとつない姿を見せていた。
そんなバイアクヘーロードにイタカは苦し紛れの戯言を飛ばす。
「痛ェなぁ、おい。俺に旦那でも殺されたかよ」
イタカの言葉を知ってか知らずか、バイアクヘーロードは先程よりも数段上の速度で突貫してくる。今回はタネが分かっていたので、限り限りで避ける事が出来た。
轟音が鳴る。イタカは自らの読みが当たっていた事に笑う。イタカはこちらを睨みつけてくるバイアクヘーロードに向かってアヴェリンで打ち続ける。
「Grrrr?!」
バイアクヘーロードは驚愕の声を漏らす。先程とは違い矢が刺さっていたのだ。
バイアクヘーロードの異常な速度の突貫は彼女が風魔法でカタパルトの様に自らを打ち出し、こちらに突貫してきたのだ。その速度は音速を超えており、生半可なモンスターでは粉微塵になる。唯、その代わり突貫直後には風魔法を身に纏う事は出来ない為、攻撃をする事が可能である。
そんな諸刃の剣を使う程バイアクヘーロードはイタカを、いや 厳密に言えばイタカから漂う、「白痴の魔皇」の肉片を狙っているという証左であるのだ。
奥の手によって傷は埋まったが回復効率はかなり悪い。
イタカの奥の手「屍山血河」
イタカの持つ奥の手の内、副作用が無い方だ。今まで自らの手で流した血、積み上げた死体の量によって自らにバフと高速自動回復を行うスキルでその効果は絶大である。だが効率が恐ろしく悪く普段使いは出来ない為、奥の手の一つに数えられる。
そんな「屍山血河」をイタカは惜しげも無く発動し続けている。そんな「屍山血河」の制限時間は残り17分で一刻の猶予も残されてない。
イタカは苦々しく笑う。遠距離戦では勝ち目がないし突貫してきてもお得意の疾さで逃げられる。
なら…
「俺と踊ろうぜ、婆さん」
イタカはワイヤーフックが取り付けられた矢をアヴェリンで打ち出す、狙いは勿論バイアクヘーロードだ。突貫直後の彼女にフックは刺さり、巻き取り機能によって一気に距離は詰まる。
ローブから生える黒い腕には斧槍が握られている。
斧槍の名はザイン斧槍:resonance13
共鳴する影、というモンスターから手に入る素材によって作られた物で基本的な攻撃力がかなり低い代わりに他の効果を一切受けない貫通力に富んだ斧槍である。
そんな斧槍をバイアクヘーロードの柔らかそうな頸部に突き刺す。
「Grrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr‼︎」
余りの痛みにバイアクヘーロードが身を捩り暴れ回る。その中で何とかイタカを引き剥がそうと岩盤に体を叩きつけ、彼女自身ごと風魔法で払い落とそうとする。
それでもイタカは斧槍とアヴェリン、結晶魔法を至近距離でバイアクヘーロードに打ち込む。
二人が壮絶な戦いに演じているなか、深淵いやダンジョン中に轟音が鳴り響いていた。
しかし何度目かの岩盤への突貫が原因でイタカは振り落とされる。
「カハッ‼︎」
運良く岩盤の取っ掛かりに引っかかったが力はもう残っていない。
イタカを自らの体を見やり苦笑する。
腕は一本捥げており、足は片方擦り切れている。全身の至る所から体液が流れ出し見るも無惨な状態だ。とてもではないが回復も追いついているとは言い難い。
対してバイアクヘーロードは多少消耗しているがまだ体力は半分以上は残っているだろう。
イタカは自分の不幸を呪う。なぜ、よりにもよって魔力に引き寄せられたのがこいつなのかと。舌打ちは吐き出す体液によって掻き消される。イタカは諦めたかのように体液を吐き出しながら呟く。
「最悪だ、本当に最悪だこんなモノに頼らなきゃなんねえ、本当にクソッタレな運命だ発動「黄衣の王」。」
瞬時バイアクヘーロードは過去を幻視する、過去の恐怖の享楽の支配者の姿を。
その時彼女は恐怖していた。あの頃を、虐げられ、支配されていた頃が蘇る
イタカの姿が変わる。イタカの体には自分の中に、自分ではない高次元の「ナニカ」に体を侵蝕され、自らの尊厳を奪う様な気色の悪さを歯を食いしばって耐える。
数瞬後、イタカは宙を浮かぶ山吹色のローブを纏う深淵と化していた。
ローブからは土気色の木乃伊の様に細い腕が伸びおり、頭上には錆びた金の光輪が鈍い光を放っていた。
ローブの中の深淵には微かな光が点々と存在し、さながらそれは星々が光る宇宙のようだった。
イタカは、いや神を降ろす為の依代は笑う。
その笑い声は月面に響く物と瓜二つであった。
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