第4話 深淵外で行われる闘争(尚イタカは何も知らない
side 迷宮省日本第3ダンジョン深淵対策課
東京、某地区某ビル内にて
官僚達が忙しく室内を走り回る、中には昨日から一睡もしていない者もおり、室内には常に緊迫感が漂っていた。
一昨日、1組のパーティが深淵にて店と人を発見したのだ。これだけでも相当の価値がある情報であり対策、利用が必要な事案であったが、それ以上に店で売っていた品々は殆どが恐ろしい程の価値を持ち、尚且つ市場価格を考慮した場合恐ろしい程、低価格で販売されているため、迷宮省としては独占して利益を得なければならない状態にあった。
迷宮省は最近国内外の信用が薄く、その信用復旧、それに業績を残すという2つを同時に取る事ができるかもしれない今回の事案で、黒山羊軒を独占する必要にかられた。
また、国内外問わず迷宮関連企業も反応しており、迷宮省を通さない直接取引によって迷宮省を出し抜こうと考えていた。
特に日本最大クランである〝明星の雫〟は有する設備、冒険者の練度では迷宮省を上回っており、早く行動しなければ明星の雫に出し抜かれる恐れがあった。
それに2年前明星の雫には深淵の攻略を許可してしまったのが痛い。
「やはりあの店は押さえなければならない」
「現在稼働可能な蒼玉級以上のパーティは?! 明星の雫にだけは先を越させるな‼︎」
「外務省にも通達して、海外への抑えも効かせろ‼︎」
騒然としている室内に若い官僚が走り込み叫ぶ。
「白薔薇と北海道連盟、迷宮研究連盟からそれぞれ5パーティ程出せるそうです‼︎
それと、明星の雫のバックには、東京重工がつくと。」
中年の官僚が応じる
「クソッ、ハイエナ共が。大人しくこっちが卸す物を大枚はたいて買っていれば良いものを、、、」
「仕方ない、先に付近にいる冒険者を向かわせろ‼︎この際報酬に糸目はつけん。先に押さえる事ができれば利益は後からいくらでも帰ってくる‼︎」
「了解しました。」
「最初に遭遇したパーティである「夜明け」が明星の雫の参加であるのも辛い、明星の雫の奴ら、彼らには休憩が必要などと嘯き事情聴取を延期しやがった。」
喧騒の届かない奥の部屋でデスクワークをこなす男がいる
男はオールバックにした銀髪を掻き回しながら立ち上がり小さく呟く。
「さて、吉とでるか凶とでるか、、、」
立ち上がった男の机には
“日本第3ダンジョン対策部長 田中波流”
の文字が彫られた台が置かれていた。
side クラン“明星の雫”
クラン明星の雫本部役員会議、会議室にて
4人の幹部達が話合っていた。
「うーん、俺らだけでもう行っちゃった方がよくね?」
と発言するのは金剛級14位に位置するパーティ〝自由〟のリーダー二宮渉。明るい茶髪の雰囲気の良い男で、人望は高い。
「いや、相手に警戒心を与えない為に志島達も連れて行くべきだ。それに準備も必要だろう、利益よりは安全だ。」
そう反論するのは元金剛級8位のパーティを率いた、深澤颯太。品の良さそうな少壮の男だがかなりの毒舌家でパッと見でクラン中で最も苛烈な性格だと分かる者は少ないであろう。
深澤は5年前、自身を除くパーティ全員が深淵に無断で挑んでいる、深澤自身は反対して一人残されてしまったが、パーティリーダーとして責任を取り、資格取り消し処分を受けた。現在は教官として働いているが未だ世界有数の実力者である事は確かであり、単騎の実力では明星の雫でも5指に入る。
「取り敢えず、今行ける奴はオメーらだけか、、、うし、アタシが例のイタカに会いに行く、志島達にはコラボとして話を通そう。深澤は迷宮省に抑えを効かせろ、二宮てめー顔が良いから志島達への説明とコラボを通せ。」
そう言い放ったのは齢29で日本最強冒険者パーティかつ金剛石級3位のパーティを率いる女、弥生月華である。
「「了解」」
と二宮、深澤が応じる。
一人、反応の無い者に弥生は声をかける。
「クラン長、これでいいかい?」
少し奥の席に座る、中年のややくたびれた風貌の男は応じる。
「うん、いいんじゃないかなぁ?」
この何処にでもいそうな、優柔不断をそのまま表したかのような男こそ
日本最大クラン〝明星の雫〟を率いるクラン長であり、
元金剛級1位〝絶界〟パーティメンバー
役職 斥候 麓原 耀 である。
麓原は呟く
「矢田部達のスキルの残滓が少し見えた、やっこさんどっか関わってるな。」
その目は僅かだが復讐の色を含むものだった。
その頃、深淵にて
「ぶぇっくしょぉい!!
うーん誰か噂でもしてんのかね…」
またしても何も知らないイタカさん(年齢不詳)
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