第2話 店を作ろう(イタカ視点)

よし店を作ろう。


皆さん、こんにちは。武器商人にめっちゃなりたいイタカです。


現在深淵38層の木を切り倒しているのですが非常に硬い。えぇ勿論、斧などなく素手のみで切り倒さなきゃなんない。腕が痛ぇ。

武器、生産系のスキルを取ったもののスキルのレベル自体はスキルを使わなければ上がらない、大変だ。

今までの自分はスキルを深淵を生き延びる為、生まれながらに備わった物しか使ってなかった事が裏目に出たという訳だ。


まぁ、そのお陰で深淵における食物連鎖の上位に立つ事ができた


それでも最上位では無いのが、深淵たる所以である。

最上位勢はやばい、まじでやばい、何度か殺せた事があったけど漁夫の利、闇討ち、弱っている所を嵌めるなど、まともな勝ち方をしていないのに毎回死にかけている。正面からだと太刀打ちできるはずがない。


幸いにもそいつらの素材やスキル結晶は収納スキルでちゃんと取っといてある。

というか腹を壊す程の魔力量だった為、収納スキルに入れるしかなかった。他にもまずかったり、その時満腹だったりした時は素材全て収納スキルにぶち込んでいる。そのお陰で武器やアイテムの素材には暫く困らなさそうで助かる。

他にも武器やアイテムを持つモンスターの所持品なども収納している為、生産系のスキルレベルが低いうちはこいつを売って場を凌ごう。

だが将来的な食糧しか収納されていない為、食えない資材などは収納していないのだ。


だから収納スキルにない木や石、鉱石などを集めて店の材料にしようと思ってる訳だ。

今俺がいる深淵38層の森林地帯の木は実はモンスターの一種で、常に格下のモンスターから少しずつ魔力を吸う事で、ここまでの硬さを誇っている。

そんな木を100本ほど切り倒した後、今度は階層中央の大穴から下に降りる。

鉱石資源は俺が行けた階層の中で最も深度の高い、深淵41層になら大量にある。

単純に今回はレアメタルや石材などを回収するつもりだ。


人間達は階層のボスを倒す事で使えるようになる転移門で移動してるらしい。

…がモンスターである自分に扱えるはずがないし、何より深淵23層以降のボス達はどいつもこいつも怪物揃いで倒せる気がしない。


だから、全ての階層に繋がるこの大穴を飛び降りなけれなんないのだ。たまに俺ですら行った事のない程、下の階層のモンスターどもが駆け上がって上層、下層を蹂躙しているのを見る。

例えば「銀鹿」。こいつは子供を安全な所で育てる為に夫婦で一時的に下層で生活する。勿論、親自体は下層如きのモンスターだけの捕食では魔力量が足りないので、ある程度子供が大きくなったら深淵に戻ってくる。


冒険者の記憶によると銀鹿の子育ては数年に一度の災害扱いらしく、子育ての数ヶ月は下層に立ち入る事が出来ないらしい。


一度、運良く深淵に戻って来ている途中の銀鹿の子供を仕留る事が事ができたのだが怒り狂った銀鹿に追いかけて回され、当時根城にしていた深淵19層の迷宮の3割を吹き飛ばされ、死にかけた。

正直言って二度とやりたくない。


他にも大穴自体の中央に巣を作る巨大飛竜、バイクアヘーなどもいる。こいつは同種以外の飛行物体に必要以上の敵愾心を抱いており深淵調査用のドローンをほぼ叩き落としている。こいつが深淵調査が進まない原因だ。


そんな怪物達が出てくるリスクがある為、隠密スキルと索敵スキルを併用しながら慎重に降りていく。バイクアヘー達が飛び回る大穴は地上まで続いている。

大穴から差し込む光は何故か神秘的な雰囲気を纏っていてとても美しい

冒険者の記憶では大穴を登っていけば地上に辿り着けるとある。


いつかモンスターである自分も地上の光景を見れるのだろうか。





そんな感傷的な事を考えている内に41層にたどり着いた。

41層は鉱石系のモンスターが多く生息している。


その一例が41層の食物連鎖の最底辺に位置する結晶喰いだ。今回の目標のひとつでもある。


結晶喰いは30cm程の大きさで楕円形の甲羅を持つ蜥蜴で「結晶魔法」を操る。「結晶魔法」のスキル結晶もこいつから取れる。

それに大量のレアメタルを背中の甲羅に付着させており、いい素材源になる。結晶喰いは群れを作るモンスターで、小さな群れなら問題なく蹂躙できるが、大きな群れだと返り討ちにされる、というか一度撃退されてる。本当にやばい。

逃げるのが少しでも遅れると洪水のように溢れかえってきた結晶喰いに体を端から削り取られるという地獄を味わう事になる。


やはり41層ともなると食物連鎖の底辺でも気を抜けば殺されるような強者揃いだ。


結晶喰いは食うと「結晶魔法」のレベルが上がる為、一時期結晶喰いしか食べてない事もあった。

まぁとても美味しいとは言えない味だ。

あの頃は切迫詰まっていた時期で味はは二の次だったとは言え二度と食いたくない。

そんな結晶喰いを狩りつつ鉱石、石材を集める。


14時間ほど作業していたが幸いにも結晶喰い自体の数も少なく丁度いい量の資材も確保できたから、大穴を通り普段根城にしている12層に戻ってきた。


深淵12層はボスも倒してあり、モンスター達も定期的に処理してスキル屍山血河の糧にしている。


集めた材料で自分の理想の店の姿を形作る。冒険者の記憶の影響か手間取るかと思われた店は半日程で完成した。

看板にはモンスター生で一番やばいと思った怪物の名を頂く。

             


「黒山羊軒」



店自体はそこそこ広くしたが雑多に置かれた商品により狭くなっている。

そして店自体に「指定位置転移」のスキルを付与した。

転移位置はここ深淵12層と深淵1、2、3層に設置した。正直これに一番時間が掛かった。

よしこれで開店だ。

ドアについている看板のcloseをopenにする。

イタカは一番の悩みを口にする。こればかりは冒険者の記憶を除いても答えは出ない。


「で、客はどうすれば来るのだろうか。」



虚しく響く声、当然だ。深淵への冒険は現在、国が許可していない。

しかもここは12層である。記憶の主のように特別な方法で来ているのなら兎も角、その方法はまだバレていない為、12層まで来る様な者はいない。

イタカのため息が店の中に響いた。





イタカは知らない

近い未来、イタカ自身と黒山羊軒が世界を揺るがす事を、黒山羊軒を巡って国同士での諍いが起きる事も。

全てを知るのは月面で笑う旧支配者だけである。



side…

山吹色のローブを纏った深淵そのものである旧支配者は肩を振るわせる。

久々に深淵を覗いて見れば中々面白そうな玩具があるではないか。土壌も出来上がっているし、手助けに運命を少々弄って、もっと面白い方向に向かわせるのも有りだ。

しかし、手出しを控え眷属の好きにするのも中々乙なものではないか。

そう考えつつ眷属に待ち受ける未来を想像し、言葉を紡ぐ。



「うちの眷属の運命 波乱万丈でワロチャ」



その旧支配者は少しばかり、いやかなり性格が悪い事をイタカは知らない。

旧支配者と結託した運命は更に歪んだ性格をしている事も、、、

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2024年10月29日 07:00 5日ごと 07:00

ダンジョンに潜む商人 ごろんただ @12244221

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