18
嘘か本当か定かじゃないけど、
「高校生の時に、先に志乃を可愛いって言い出したのタナキなんだよ」
プチ同窓会でのタナキ君の言葉が、彌をどういう意味で焦らせようとしたのか説明してくれた。
何をムキになってるのか知らないけど、
「でも好きとかじゃないぞ!? 勘違いすんなよ!? 可愛いって言っただけで好きじゃないからな!?」
その後、必死の形相でそう説明した。
嘘か本当か定かじゃないけど、
「ここ最近、仕事が忙しかったのは本当だよ。部長に文句言われないようになりたかったから余計な仕事も抱え込んでた」
彌は最近の事情を話してくれた。
何が嬉しいのか知らないけど、
「でも明日は休み」
ニンマリと笑ってわたしを見つめた。
嘘か本当か定かじゃないけど、
「週明けに会議があって、それまでにやっておかなきゃいけない仕事があったから、昨日も今日も仕事してたんだけど、折角の連休だし、一日くらいは志乃と一緒にいたいから、どうにか片付けたんだよ」
少しだけ得意げに詳細を話してくれた。
何を残念がってるのか知らないけど、
「だから今日は帰ったら志乃に連絡するつもりだったのに、こんな事になって……」
ガクリと項垂れた。
そんな彌には悪いけど、わたしはこうなってよかった気がする。
あの気持ちのまま彌と会ってても、楽しくも何ともなかっただろうから。
タナキ君の事を長い間誤解して、意地悪だと思ってた事を、彌は「仕方ない」と笑ってくれた。
「最初にそんな勘違いがあったら、そう思って当然だし、俺がもっと早くに色々話してればよかったんだし」
優しい声でそう呟いた彌は、「ごめん」とわたしに深く詫びて、また今度二人だけでタナキ君の料亭に遊びに行こうと約束してくれた。
そして何より、あの女の子の事を、
「もう俺に構わないでくれってはっきり言う」
自ら約束してくれた。
それが嘘か本当かは分からない。
タナキ君曰く、「優しい彌」がそこまではっきり言えるのか
それでもその約束は守られそうな気がする。
だって彌にも、不安要素がある。
「つか、タナキに聞いたんだけど、志乃、男と飯食いに行ってたって?」
きっとタナキ君が、彌への意地悪の為に報告したんであろう、千石さんとの密会を、彌は不安に思ってる。
あれは、最近キッコちゃんに想いを寄せてる千石さんの気持ちに、たまたま気付いたわたしが相談に乗る為に設けられた席なのに、不安に思ってる。
でも。
「うん。行った」
「誰と?」
「内緒」
その事実は、もう少ししてから彌に教えよう。
2年って歳月が、恋人の付き合いとして長いのか短いのかは分からないけど、誤解し続けてる年月としては、長すぎるものだと思う。
だから心底彌の言葉を信じられるかってなるとまだ微妙で、それはこれからの時間の使い方に掛かってる。
「俺、志乃があんなに喋るって知らなかった」
「幻滅した?」
「ううん。ただ、今まで我慢させてたんだなとは思った」
「我慢してない」
「でも俺と一緒にいる時、あんな喋らなかったろ」
「面倒だから」
「え?」
「喋るのが面倒だっただけ。何を言っても無駄だって思ってたし」
「怖いな」
「怖い?」
「ギャンギャン文句言われるより、そっちの方が怖いかも」
「そう?」
「だって、何が悪いのか分からないまま、切り捨てられていくんだろ?」
「まぁ、最終的にはそうかな」
「そんな事にならなくてマジでよかったと思うよ」
苦笑気味にそう言った彌は、
「俺にチャンス
好きじゃないって言ったのに、それでも構わないって感じで、そんな事を言う。
そして、
「わたし、彌の事好きじゃないよ?」
「うん。でも俺は好きだから」
わたしの言葉に、真剣な表情でそう言うから、胸がキュンと小さく
その昔、彌の事が好きだったって話は、もう
あの気持ちが戻ってきた時に、彌に“告白”しよう。
きっとわたし達の時間は、まだ先が長い。
「今日で丸2年だな」
意外にもそれを覚えていた彌は、口許に笑みを作りながらわたしに顔を近付けてくる。
「これからはもう少し会ったりしような。3日に1回くらいのペースで」
その提案を口にして、わたしの返事を聞かないままに唇を塞ぐ。
重ねられた唇から、肉厚の舌がわたしの口の中に入り込んできて、
その動きが、今まで以上に気持ちいいと思うのは、わたしの気持ちが今までと違うからかもしれない。
「彌っ、」
「ん?」
「何してんの!?」
「脱がしてんの」
キスの途中から動き出した彌の手は、わたしの服を脱がせていき、
「階下におばさんもおじさんもいるのに!」
「激しくしない」
ベッドに押し倒すのと同時にその手がスカートの裾から入ってくる。
「そ、そういう問題じゃないでしょ!?」
「大丈夫、大丈夫」
わたしの焦りは短絡的な彌の言葉に流され、
「大丈夫じゃない!」
「親も気にしないって」
「は!?」
「ガキじゃないんだし、ヤる事くらい親も分かってる」
「そういう問題じゃ――」
「静かにしないと親にバレるぞ?」
内腿を撫でる彌の手が奥へと辿り着き、直後にわたしの口からは文句以外の声が出た。
最後までずっと、彌の唇はわたしの唇と重なってた。
わたしの口から洩れる甘い吐息が、彌の中に吸い込まれていく。
「み、つ……」
ほんの僅かな隙間から洩れるその名が部屋に響き、その声がいつもよりも柔らかいものに思えた。
「志乃、好きだよ」
2年間の、誤解が招いた混沌とした感情に終止符を打ったのは、わたしの行動がきっかけだったにしろ、彌が先だったのかもしれない。
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