倦怠感けんたいかんから、うつ伏せでベッドの上に寝転んでるわたしの、胸元にじかに触れるシーツの感触は心なしか湿っぽく。



 腰の辺りからすっぽりと下半身を覆う薄い布団が、脹脛ふくらはぎまとわりついてる感じがして少し不快。



 目を閉じてても、横向きにして頭を載せてる枕の下に手を入れようと動かしたてのひらでシーツの乱れ具合が分かる。



 手の動きに合わせてシュッと小さな音がして、シーツのしわが形を変える。



 汗で湿っていた体が少しずつ乾いていくのを感じる。



 だけどそれは決してシーツに汗が吸い取られてる訳じゃない。



 ラブホテルのシーツに吸収性は然程さほどなく、乾いてきてるのは利き過ぎだと思う程の空調の所為。



 ゴォゴォと、今にも壊れるんじゃないかって思うような音を立てる空調。



 その空調音に混じって、



「俺、明日早いから帰るけど、志乃しのは泊まってけばいいから」


 掛けられた声に閉じてた瞼を開いてみれば、彼――みつ――が、ベッドの端に腰掛け、半分こっちに背中を向けてワイシャツのボタンを留めていた。



 普段はムースできちんとセットされてる彌の前髪が今は顔に掛かり、その前髪の隙間から覗く黒い瞳がわたしの耳元辺りを捉えてる。



 彌の手が、留め終わったボタンから結ばず首に掛けられていたネクタイに伸びる。



 その一連の動作を見ていたわたしは、倦怠感を追い払うように、「ふぅ」と小さく溜息を吐いた。



「わたしも帰る」


「いいのか?」


「うん。急いでるなら先に出ていいよ」


 肘を突いて体を起こすと、ベッドがかすかにギシリと鳴る。



「いや、待ってるよ」


 彌の声を背中で聞きながら、わたしは着替える為にバスルームに向かった。

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