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わからなくなんかないのに。


この先誰と出逢っても、何があっても美波より好きになる人は現れないと思うんだ。


もしいるとしても、未来の‘もし’にかけるより、今、美波を失う方が辛い。



だけど、美波は優しすぎる。


そして、俺は、ガキすぎる。



美波は自分のことより相手のためを想うのに、俺は自分のことでいっぱいで、自分の想いを吐き出すばかり。



そんな俺なんて嫌われたって当然だろうけど、


「美波、俺のこと好き?」


「……」


そう聞けば、君は困ったように笑って、


「好きじゃない?」


そう聞き直せば、


「……嫌いじゃないよ。嫌いな人にこんなことしないし、こんなこと、言わないから」


珍しく真剣な顔でそう答える。



‘嫌いじゃない’そう答えたのは、きっと君の優しさ。




「咲也くん。

咲也くんが大人になって、もしその時も私のことを好きでいてくれて、それでお互いフリーだったら…その時は付き合おうか」



そう言っていつものようにふわりと笑ったけれど、その目はまっすぐで、嘘でも誤魔化しでもなく真剣だったから、やっぱり俺は何も言えなかった。



‘大人になったら’それはどういう意味?


‘大人になったら’わかるのだろうか?


俺が‘大人’だったら――…



ここでもやっぱりどうしようもない壁にぶち当たる。




真っ赤な夕日は眩しすぎて、涙が出そうだった――…

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