P.29

「キャッ」


俺は、そんな美波の腕を引いて抱き寄せた。



「咲也、くん…?!」


それに驚いている美波。



「嫌がってんじゃん。やめたら?」


それを無視して俺は男を睨みつける。



ふざけ合ってるだけどということはわかってるんだけど、その親しげな様子が無性にムカついた。



「あー、ごめんね?」



そうヘラッと笑いながら言った男の目は、美波ではなく、俺に向いていた。



ムカツク。


全てを見透かすような目も、余裕そうに笑う口元も全部、大人っぽさを見せつけられているようでムカツク。



そして、自分の感情を抑えきれないガキくせぇ自分に腹がたった。



頑張って大人になろうとしてるけど、俺はいつまで経ってもガキで、美波のことになると、どうしても余裕がなくなる。


かっこわりぃ。




「ありがとう。でも、大丈夫だよ」



そう言ってふわりと笑う美波は、俺を余計惨めにさせるだけだった――…

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