オナラまで愛して ~おならテロリスト綾子の物語

さや

プロローグ マヨラーじゃなくてオナラー

 臭いオナラにこだわり続けて、はや10年。 モットーは一日一発、お詫びに一日一善。

 田中綾子、22歳。東京生まれ東京育ち、現在も東京で暮らしている、新卒1年目のOL。外見は可愛い系の女子で、友人からは  『綾ちゃん』と呼ばれ親しまれている。だが、彼女には誰にも言えない秘密があった。

 それは――“おならテロリスト”としての活動。


 今、彼女は朝の満員電車の中で静かに機会を伺っていた。人々が押し寄せ、誰もが動けないこの空間こそ、彼女の真骨頂が発揮される舞台。綾子の心臓は高鳴り、下腹部には緊張と期待が広がる。


(今日こそ、最高のすかしっ屁を…!)


 思い返せば、始まりは小学校6年生の時だった。体育の授業中、ふとした瞬間に放ってしまったすかしっ屁。その時のクラスメートの顔が歪む様子――あの驚愕と苦悶が入り混じった表情を見た瞬間、綾子の欲望は激しく疼き、急に下腹部が熱くなった。

 そして、犯人探しが始まると、彼女の興奮は最高潮に達した。


「綾ちゃんがオナラなんてするわけない!」


「こんな臭いオナラをするのは、きっとデブのみや子だ!」


 無実の罪を押し付けられた女の子が必死に否定する一方で、綾子は心の中でえもいえぬ快感を噛み締めていた。


(あぁ、もし私が犯人だってバレたら……しかも、こんなにくっさいおなら……これだ……これが私の生きる道だ……!)


 そう想像するだけで、綾子はさらに興奮した。あの日以来、彼女は“臭いオナラ”に目覚めたのだ。


 そして今、満員電車の中で彼女は静かに勝利の瞬間を待っている。やがて、周りの人々が気づかないうちに、ぷす~っと小さな音とともに、彼女は目的を果たした。

 誰も気づかない……でも確実に広がる異臭。最初は誰も何も言わないが、次第に眉をひそめ、顔をしかめる乗客たち。その光景を見た綾子は全身をプルプルと小刻みに震わせながら、心の中で淫らで下品な笑みを浮かべる。


(あぁ……たまらんっっ……)


 謎の達成感と爽快感、そして身も心も溶けてしまいそうな快感がマグマのように押し寄せてくる。

 そうして、次の日も、またその次の日も……いいえ、生のある限り、綾子は屁をこき続ける。


 ぷす~――――


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