クロウマン

武士部者灯油

誕生日

小さい頃、僕はヒーローに憧れていた。


どんな時でも絶対に諦めない。

助けを求める声を絶対見逃さない。

相対する敵にすら優しさを見せる。

どんなに凶悪でも、どんなに強大な相手だろうと絶対に逃げも隠れもしない。


正義の為、平和の為、そして人々の為に必死に戦うヒーローが好きだった。


だから、僕はそんなヒーロー見たくなろうと小さい頃から"人助け"をしていた。


落とした荷物を拾ってあげる(その時に自分の持ち物も落としたけど……)

迷子の手を引いてあげる(一緒に迷子になったけど……)

いじめられている女の子を庇った事もある(その後ボコボコにされたけど……)

一人で遊んでいる子と遊んで友達になったりとか(その子はそれで自信がついて友達がたくさんできていた……僕はいないけど)


とまぁ気持ちや志こそ一丁前だったが、いまいち空回りしたり上手くいく事は少なかった。

そんな事が続くばかりで、ある時妹から「お兄ちゃんぽんこつだね!」と天真爛漫に言われてしまい、枕を濡らしヒーロー的な事を辞める事にした。


過去の事があり変な奴と噂を立てられてしまい、小学生時代、中学時代、そして今も友達なんて一人もいなかった。



「あー……友達出来ないかなぁ……」






◆◆◆






「私達は友達じゃなかったのぉ〜?」



僕の二の腕をツンツンと叩きながら、ジッと見つめてくる女の子。

彼女の名前は星本しおり。

白黒のツートンカラーの髪色に、地雷系みたいなファッションの女の子。

僕みたいな人にも優しくしてくれるし、校内では超いい子と専ら評判だ。

席替えやクラス替えを複数回行っても、毎回隣であった事から多少話す中になった。



「いや……友達の定義が曖昧って言うか、僕は友達がいなかったので分からない……」


「えー?流石に小学生の時とかはいたでしょ?」


「……………」


「あっまじ……ごめんね」


「…………!(泣)」



泣いてないもん。


だが、僕と星本さんは友達と呼んでいいのかもしれない。

もう一年以上の関係があるし、もしかすると友達と言う間柄であるかも!



「じゃ、じゃあ……僕らは友達で良い……ですか?」


「……考えさせて」


「何でですか」



今のは行ける流れだと思ったんですけど。

何で何ですか?



「もっと……しん…ゅぅ……とか」


「しん……何です?……親密?」


「そ、そそう!もっと親密になったら友達になろ!」



さっき友達じゃないのとかいってたじゃん。

僕の聞き間違いだったのかな?(泣き)

………まぁ良いか。






◆◆◆






「すごい雨だなぁ……」



時刻は18時ぐらい。

もう大半の生徒が下校してて、学校にいるのは教師ぐらいだ。

外は物凄い豪雨であり、傘を刺しても完全に凌げるとは到底思えない。

傘を持ってきていなかった僕は、星本さんから一緒に帰ろうと誘われていたが、用事があると断ってしまった事を後悔していた。



「傘持ってないし……走って何とか」



僕は無謀にも覚悟を決め、走り出すのだった。






「カラス?」



豪雨の中、僕は鞄を頭部に置いて傘がわりにしながら走っていた。

とてつもない程の豪雨だと言うのに、こちらをジッと見つめてくるカラスに思わず視線が写ってしまった。


何やら足や羽、至る所が赤く染まっていて痛々しい姿だった。


ただの野良カラスであるし、僕が気に掛けるメリットなどは無いが……



「動物病院って、ここから近くにあるかな?」



僕はカラスに近付き、鞄を置いてスマホを取り出す。

カラスは防衛本能か、それとも別に何かあるのかは分からないが、大きな鳴き声を発している。

僕はそれに耳を塞ぎながら、動物病院の場所を検索しようとした、まさにその時だった。




「あっ」




凄まじい衝撃と音を立て、車が突っ込んで来たのだ。

カラスは不吉の象徴だとか、カラスが鳴くと人が死ぬとか言われているが、どうやらそれ本当だったらしい。


あまりそう言う非科学的な事は信じたくないけれど、実際起こったし迷信ではないのかも知れない。


公園に突っ込んできて、そのまま僕を撥ねた車の運転手は何事もなかった様に、車を血に濡らしながら去っていった。

カラスは大丈夫かな、なんて呑気にそんな事を気にしていると、段々眠くなってきた。

腕に何かが伸し掛かっている感覚に襲われながら、凄まじい痛みと共に意識はそこで途絶えたのだった。






◆◆◆






『病院……じゃないな』



目を覚ますと、そこは意識を落とした公園と同じ場所であった。

時間帯は恐らく深夜であり、未だ雨は止んでいない。

この大雨だから人が外出しないし、ましてや公園なんて絶対に来ないだろう。


いやそれよりも他に問題がある。

猛スピードの車に撥ねられたと言うのに、僕は死んでおらず生還しており何故か体の調子もすこぶる好調だった。



『どうなってるんだ……?』



さっき自分の声を聞いた時異常を感じた為、もう一度声を出してみた。

エコーが掛かっているような、謎の引っ掛かりを感じたのだ。

撥ねられた影響で喉がイかれたか、それとも耳が可笑しいのか確かめる為。



『耳も問題無い、なら喉か?』



雨の音も、木々が揺れる音と鮮明に聞こえる。

息苦しさなど微塵も感じないし、寧ろ喉がスッキリした気分だ。

一体どういう事なんだ。

僕の体に何が起こっている。


僕は体を起こし、水たまりを見つめ自分の姿を確かめた。




『何だこれは。僕の体が……真っ黒になってる…』



僕の真っ白で女子の様だった体が、カラスの様に真っ黒へ変化している。

僕のひ弱で貧弱だった体が、ゴツゴツと逞しく変化している。

肩にはカラスの嘴見たいな物が突起している。

頭部はハット坊にも見える形状へ変化しており、顔は"人"と呼べる者とは微塵も思えない。



『どうなってるんだ……力が凄い沸いてくる。それだって飛べそうだ』



よく見ると、背中には大きな翼が生えておりこの姿はまるでカラスの様だった。



『可笑しいなぁ……確かに殺したはずだったんだが。』



自分の体をペタペタと触っていると、背後から低い男性の声が聞こえた、

不謹慎すぎる発言に、僕は勢いよく振り返り、その男と対峙する。



『殺したのに生きているなんて、お前も人間じゃないみたいだ。』


『どうやら……そうらしい』



男は明らかに人間じゃなく、蛇の様な姿をしていた。

赤黒い鱗がビッシリと生え、ギョロっと僕の事を見つめている。

その発言から鑑みるに、こいつは運転手と考えて良さそうだ。



『ようこそ、同胞よ』


『こんにちは、敵さん』

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