猫と家族 編

ep.21『夜猫の家出』

とりあえず、昼猫を落ち着かせてから話を聞いた。


声のトーンなどは大きくは違わないが、青い顔に少しの震えで焦っていることが分かる。


「それで……何か、あったのか?」


「夜猫が。消えた」


そう言うと、昼猫はポツポツと説明し始めた。

まるで、自分でも確認していくように一つずつ丁寧に話していく。


まず、昼猫が学校に来なかった理由。

それは朝、学校に行ったはずの夜猫の行方が分からずに探していたからだった。


息切れしていたのも、ここら辺を走り回っていたからだろう。


だが、結局、夜猫は見つからず、もう一度家を見てみようと戻って今らしい。


「朝はいたのか?」


「うん。朝はいつも通り。

でも、仕事があるからって早めに出て行った………」


「昼猫は何で分かったんだ?」


「夜猫の学校から。連絡が来た」


「なるほど……」


家の電話にかかってきたのだという。

夜猫がいなくなり、油断から二度寝をしていた昼猫はその着信音で目覚めたのだとか。


「仕事って学校のだよな?」


「分からない。ウトウトしてたから。

うぅ……不甲斐ない」


「一応、私、お母さんに聞いてみます!」


そう言うと、一楓はスマホで母親に電話をかけた。


そうだ。

夜猫は一楓の家のカフェでバイトをしている。

仕事……がバイトという可能性は低そうだが、何か知っているかもしれない。


「ダメです……出ないです!すいません!」


しかし、一楓母は絶賛仕事中のため電話に出なかった。

仕方がないが、他に当てはないしな。

どうしようか………


そういえば、昼猫は親に連絡したのだろうか。

何だか話に聞いていると、昼猫だけが探しているように思えるのだが。


「なぁ、昼猫………

その……親には連絡したのか?」


「した。けど、返信はない」


「そうか」


夜猫がご飯を作っていたり、実質、姉妹二人暮らしだ。

新谷家の事情に首を突っ込む気はないが、流石に娘が失踪中なのに無反応ということはないだろう。


「きっと、仕事が忙しくて、見られてないんだよ」


「うん。かも」


少し、いや先程よりも昼猫の気分が低い。

父親を恐れている、というよりは頼りたくないという感じだ。


「とりあえず、私………

家に戻って、お母さんに聞いてみますね!」


「じゃあ、俺も周辺を探してくるよ」


「私も。行く………」


フラフラと昼猫が立ち上がる。

しかし、俺と一楓は慌ててそれを座らせた。


「とりあえず、昼猫は父親からの連絡を待って休んでろ」


不貞腐れているが、自分でも体力が限界なのを分かっているのか、大人しく頷いた。


「じゃあ、何かあったらお互いに連絡すること」


「はい!では!また、あとで!」


「ありがと。東雲蘭。部長」


「おう!しっかり、休んだけよ!」


一楓は俺よりも一足先に家を飛び出した。

俺は、昼猫にもう一度だけ言い聞かせてから家を出る。


「まずは、天高らへんから………」


俺がスマホの地図アプリを確認しながら、探す場所をピックアップする。

すると、到着したエレベータから大柄のやたらとガタイの良い男が降りてきた。


スーツに取り付けられた名札を見て、俺は息を呑む。


「もしかして………昼猫の父親ですか?」


俺のその言葉に男が異様なオーラを放ちながら振り向いた。


「君は。誰だ?」


俺は、苦笑いをしたまま硬直した。

何だか嫌な予感がしたから引き止めてしまったが………どうするの?コレ。

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