ep.20『犬と放課後』
「蘭さん!昼猫さん!」
俺が教室で帰りの支度をしていると、元気に一楓が駆けてきた。
きっと尻尾が生えていたなら、ブンブンと振られているだろう。
「あれ?昼猫さんはいないんですか?」
「昼猫なら、今日は休みだよ」
「そうですか……せっかく、クッキーを焼いてきたのですが………」
「へぇ、美味そうだな!得意なのか?」
「はい!蘭さんも、どうぞ!」
渡されたクッキーを一つ取り出して、食べてみる。
美味しい。
形は少しだけ不恰好だが、味はお店レベルだ。
俺はもう一つ、取り出して口に放り込んだ。
お、味が違う。
今度はバターだ。
ちなみに、さっきのはココア味。
「どうですか!!」
「美味しいよ!お店のみたいだ!」
「ふふん!それは、良かったです!」
分かりやすく喜んでいる一楓を見て、思い出した。
「そうだ。
俺、昼猫に手紙、届けないといけないんだけどさ。
一緒にクッキー渡しに行くか?」
「はい!ぜひ、ご一緒させて下さい!」
◇◆
「確か、昼猫さんって双子の妹がいるんですよね?」
「あぁ、
もしかしたら、今日、会えるかもな」
「おぉ!それは、楽しみですね!」
夜猫もそうだが、家を見ても驚くだろうな。
想像の数倍デカい部屋に、外見。
俺も今でも、緊張するからな。
一楓の反応が楽しみだ。
「ですが、突然でも大丈夫なのでしょうか?」
「一応、連絡はしてあるから、返事があるまで近くで時間潰そうぜ」
「はい!」
とりあえず、自販機を見つけたので、ジュースでも飲むことにした。
「何がいい?買ってやるよ」
「ほんとですか!
なら、リンゴジュースで!」
「ほいほいっと………」
確か前にここで、昼猫とメロンパンを食べたな。
優太の告白を応援した帰りだったっけ。
「そうだ。すげー美味いメロンパン売ってる店が近くにあるんだけど、行かないか?」
「いいですね!行きましょう!!」
というわけで、メロンパンを買ったところで昼猫から連絡が来た。
【大丈夫】の一言だけで、元気がないように思えた。
熱でもあるのだろうか………
俺たちは食いながら、向かうことにした。
やはり、美味しいな。
今度、姉さんにも買ってあげよう。
甘いの大好物だし、絶対に好きだろうな。
一楓を見てみると、目を輝かせながらメロンパンを頬張っている。
リスのように頬を膨らませて、次から次へとかぶりついている。
すると、俺が見ているのに気が付いたらしい一楓が恥ずかしそうにこちらをジーッと見てきた。
「わ、私の顔に何かついてますか?」
「あ、いや。
美味しそうに食べるな…って思って」
「おぅ……
見られていたとは、恥ずかしいですね!」
そう言うと、顔を真っ赤にして、そっぽを向いた。
別に美味しそうに食べるのは、良いことだと思うのだが……
確かに、食べてる姿を人に見られるのは恥ずかしいか。
「そういえば、昼猫さんにも買えば良かったですね!」
「忘れてたな。
まぁ、クッキーあるし、いいんじゃないか?」
そして、しばらく歩くと昼猫の住むマンションに到着した。
一楓は予想通りに、良い反応をしてくれた。
「うぉ……凄いですね……」とビビりながらも、興奮しているようだ。
「えっと、確か—————」
部屋番号を打ち込むと、やはり少しだけ元気のない昼猫の声が聞こえた。
やはり、風邪でも引いているのだろうか。
エレベーターを使い、しばらく上がると昼猫の階に到着した。
途中で住人らしき人と遭遇したが、どこか余裕を感じる。
場所とか雰囲気で、結構、人への見え方って変わるよな。
チャイムを鳴らすと、すぐに昼猫が出てきた。
その顔は疲れが出ており、焦りも見える。
「大丈夫か?」
「……………東雲蘭。夜猫が、助けて」
そう言うと、昼猫は俺に寄りかかるように倒れてしまった。
夜猫を?助けて……分からないが、何か重要な事のようだ。
「とりあえず、話を聞かせてくれ」
俺は昼猫を連れて、部屋に入り座らせた。
そして、一息……落ち着いた昼寝は話し始めた————
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