ep.19『犬の歓迎会 その後』
「悪かったって………」
一楓はプイッとそっぽを向いてしまっている。
それに、俺と昼猫は、許してもらおうと、必死である。
一楓が怒っている理由は、先日の事件が原因であった。
歓迎会にて、勝者が俺のあ〜んの権利を得られるという謎のご褒美があった。
それで、勝者である一楓に俺は恥ずかしがりながらもあ〜んを実行。
何とか終了したのだが、問題はその後、起こった。
いつも、俺はダラけている昼猫にしている餌付けという名のあ〜んを無意識にしてしまったのだ。
それに、何故か、本気で怒った一楓が今である。
正直な話、そこまで怒ることかと思うが……せっかく勝ったのに、敗者と同じというのは気分が良くないのかもしれない。
「じゃあ………」
「じゃあ??」
「じゃあ……私にも、もう一回………
いや、お昼はあ〜んしてください」
「そこまで!?」
「だって、ズルッ…じゃなくて、おかしいじゃないですか!
負けた昼猫さんが毎日あ〜んしてもらって!
勝った私が一回だけなんて!!」
まさか、一楓がここまで負けず嫌いだとは思わなかった。
が、しかし、ようやく新聞部として活動が始まったのにあ〜んごときで、解散は悲しい。
「わ、わかった………」
俺は、一楓の提案を了承した。
◇◆
「よ〜し、蘭!
お昼食べようぜ!」
久しぶりに、優太と一緒にお昼を食べることになった。
どうやら今日は、彼女こと澤田さんが委員長会議があるらしく先に食べてしまったらしい。
「あれ?新谷さんは一緒じゃないのか?」
「なんか、部室に忘れ物だとか言ってたぞ」
「あぁ、そういえば、お前ら部活始めたんだったな。
どうよ?新聞部だっけ?」
「いや……それが、色々と大変でさ」
俺が優太と久しぶりの会話を楽しんでいると、教室のドアが勢い良く開いた。
開けたのは一楓だ。
「蘭さん!約束覚えてますよね!」
「え?うん、覚えてる、けど………」
まさか、今じゃないよな。
部室で食べる時じゃないのか………え?
時と場所は問わない系??
いや、でも、流石に昼猫じゃあるまいし……
「それじゃあ、約束通りに、あ〜ん!
してください!」
「うぇあ!!」
俺の変な悲鳴と共に、教室に静寂が流れる。
しかし、今の一楓には届いてないらしい。
「おい!?まさか、お前!?
新谷さんだけじゃ飽き足らず、他の子にも手を出したのかよ!」
「違ッ…くないけど!ちがーう!!」
「さぁ!お願いします!
今日は、あ〜んしやすいおかずをチョイスしたんですよ!」
「準備良いな!」
お弁当箱を開けた一楓がグイグイと俺に押し付けてくる。
それに、クラスからの注目が集まる。
「ちょっと待て!
分かった!分かったから!落ち着け!」
何とか、一楓を落ち着かせると、近くの席に座らせる。
一楓はムスーッとしており、明らかに不機嫌だ。
「だ、大丈夫か?蘭」
「あぁ……」
大丈夫だ。
いつもの昼猫みたいに、失礼だけど餌付けするような気持ちだ。
別に恥ずかしくない……いつも通りに………
渡された箸でおかずを持ち上げて、俺は一楓の口に運んだ。
それを一楓はモグモグもしている。
「「「おぉ〜」」」
と、謎にクラスで拍手と歓声が怒った。
顔を赤くして恥ずかしそうな一楓。
やっと正気に戻ったらしい。
「し、失礼しました……」と言い、戻ろうとすると飛び込むように昼猫が戻ってきた。
「つ、疲れた………」
「お疲れ、遅かったな」
「途中で先生に捕まって。説教されてた」
「そりゃ、災難だ」
机にとろけた昼猫は、お弁当箱を開けるが力尽きてしまったらしく、こちらに口を開けて待機している。
俺は、優太に弁明しながら、昼猫におかずを食べさせる。
「なぁ!?!?」
それを見た、一楓が俺にタックルするように戻ってくる。
しまった………つい癖で………
昼猫も「あっ」という風に口元を抑えた。
「なら、私も、もう一回です!」
「じゃあ。私も」
「でしたら、さらにもう一回です!」
昼猫と一楓は競うように次から次へと俺にあ〜んを求めてくる。
これじゃあ、照れも何もない。
ただの大食いである。
そして、この日から俺はクラスから飼い主やら飼育員やらと呼ばれるようになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます