ep.18『犬の歓迎会 ③』

そうして、始まった歓迎会での、『あ〜ん』をかけたゲームが始まった。


ゲーム内容は、お互いを知れるという理由で昼猫考案の『嘘か真実か』を俺が提案した。


一楓は楽しそうだとノリノリだったが、以外にも昼猫は不服そうだった。

もしかしたら、という最高の切り札を使えないからかもしれない。


「じゃあ、順番はどうする?」


「私と部長が対決。勝った方が蘭のあ〜ん権利を獲得。どう?」


「いいですよ!望むところです!」


「えぇ……俺は参加できないじゃん」


そんな事を言いながらも、勝ったから俺のあ〜んとは嬉しいか?

やっぱり、もっと違うご褒美があった方が……と言いかけたところでやめた。


二人とも負けず嫌いなのか、完璧に真剣モードだ。

顔つきが違う。

勝負師の顔をしている。


「よし。私が先行」


「うぅ……後攻は不利なんですかね……」


どうやら、先行と後攻がジャンケンによって決められたらしい。

初である一楓は後攻が不利なのか、と難しい顔をしている。


多分だが、そんな不利などないと思う。

昼猫だってテキトーに決めただろうし。


「じゃあ、私の好きな食べ物はお肉。

………どっち?」


「お肉ですか。

あまり、イメージはないですね」


「なぁ、昼猫。

これって質問アリなのか?」


「うん。アリ」


「じゃあ!何のお肉が一番好きですか?」


「……グロテストニック・ブワァン」


「お、おぉう…です。

せ、正解は嫌い、ですかね?」


「クッ……当たり」


悔しそうに昼猫が言った。

それに、一楓は「や、やった!」などと戸惑いながら喜んでいる。


いや、確かに今のは素直に喜べないよな。

勝手に自滅してたし。


しかも、何だよ、グロテストニック・ブワァンって。

凄いマズそうな部位だな。


「まさか、種類を聞かれるとは。不覚」


「もっと分かりやすい名前あっただろ……」


「咄嗟に答えないと怪しまれるかな。って」


「しかし、何だよ、グロなんとかって。

よく咄嗟にスラスラと言えたな」


「アレは、ゲームに出てくるゾンビの名前」


「何で、肉の種類でゾンビなんですか……」


昼猫が得意なゲームに登場するゾンビ。

グロテストニック・ブワァン。


どこかで聞いたことある名前だと思ったら、こないだ姉さんと昼猫と三人でゲームした時に戦った奴か。

確か、ドロドロの嘔吐みたいな奴だったよな。

気持ち悪い………


「じゃあ、次は私ですね!」


「バッチこい。準備万端」


「えぇーと、じゃあ、私が1番好きな食べ物は、ドーナツ。

どっちでしょう!?」


「うむ。悩む」


昼猫って俺と対戦したとき、全敗だったよな。

裏をかくとか言って、無駄に失敗したり。

今回はどうなのだろうか………


「チョコドーナツ。美味しいよね」


「私は苺派ですね!

でも、チョコも大好きです!」


「………分からない」


確かに、俺も一楓が嘘を言っているようには見えない。


それから、昼猫は一楓に質問を続けていた。

しかし、どれも正解に近づける要素はなく、確証を得られぬまま、新たに設けられたルールである制限時間3分が終了した。


「それじゃあ、正解はどっちですか!?」


「部長は。ドーナツが好き」


「残念です!

ドーナツは好きですけど、1番は栗きんとんです!」


「思ってたより、渋いな!」


「ふふん!」と自慢げに解答の書かれたメモを表にする。

これも、今回、一楓によって設けられたルール。

あらかじめ、出題者は答えを変えられないようにメモに書いておくというもの。


「やりました!私の勝ちです!」


「うぅ……負けた……」


しょぼん、と昼猫が机にダラけた。

確かに、自分考案のゲームで2回とも負けとは辛いよな。


えっと、俺は勝者にあ〜んだっけ。

え?一楓に……嫌じゃないけど、なんか恥ずい。


「それじゃあ、蘭さん!お願いします!」


覚悟を決めたらしい一楓が大きく口を開けて、待っている。

その顔は真っ赤であり、恥ずかしがっていることが一目で分かる。

確かに、ここには親もいるし、恥ずかしさで言ったら俺よりも断然に上だ。


だが、部長である一楓は、歓迎会を盛り上げようと羞恥心を捨てて頑張ってくれているのか!

なら、覚悟を決めろ、男蘭。


俺はスプーンを握り、パフェをすくう。

そして、ゆっくりと、震える手で一楓の口に運ぶ。


「あ、ありがとう……ございます………」


モグモグと食べ終わると、一楓は口元を抑えて恥ずかしそうにお礼を言った。

それに俺は、平然を装って返事をする。


「私も、お腹空いた。

蘭、うわぁ〜ん」


「まったく………ほら」


俺は無意識に、スプーンで昼猫の口にパフェを突っ込んだ。


「ぬぅわぁぁぁ!!!!!」


「うぉ!?どうした、一楓!?」


「なんで!?ですか!?

私がせっかく、ゲームで勝ち取ったのに!!」


そう言われて、俺はハッとした。

俺は、今、昼猫にあ〜んをしていた。


いつも昼休みに、膝で寝ている昼猫にしているから特に考えてなかった!!

てか、なんかみたいな感覚で、これがあ〜んだと言うことを忘れていた!


「確かに。ごめん、部長」


「悪い!なんか、いつもの癖で!」


「いつも、こんな事してるんですか!?

ズル…じゃなくて、おかしいですよ!!」


店内に、一楓の元気な声が響いた。

そこに母親がいることを忘れて………




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