ep.17『犬の歓迎会 ②』


「————という事なんです。すいません」


俺は、テーブルに頭を擦り付ける勢いで謝罪をする。

それを聞いていた一楓は、ホッとため息を軽くつくと「そうですか!」と言った。


「しっかりと、金は払いますから!」


「いや、いいわよ。

新聞部に入ってくれた事をパフェ代として受け取っておくわ」


「ありがとうございます!」


俺の謝罪に合わせて昼猫も頭を下げた。

その昼猫を見て、一楓の母親は話が終わったのをキッカケに聞くことにしたらしい。


「あの……夜猫ちゃんじゃないのよね?」


「うん。夜猫は双子の妹」


「えぇ!?昼猫さん!双子だったんですか!」


ずっとチラチラと昼猫を見ては、不思議に思っていたみたいらしい。

しかし、母親よりも驚いたのは、一楓であった。


どうやら、一楓は夜猫の存在を知らなかったらしい。

何でも、一楓が手伝えない日に夜猫がシフトに入っているのだとかで、顔を合わせる機会がなかったのだとか。


「昼猫さんの双子ですか………気になりますね!」


「ビックリするぞ。まるで、姉妹が逆だからな」


「おいこら。東雲蘭。私が姉だ」


ドスッと昼猫に押される。

その力は強くはないが、顔はムスーッという風に怒っているのが分かる。


「冗談だよ……」と機嫌を取っていると、一楓の母親がポンッと手を叩いた。

何か、思い出したらしい。


「あら、そういえば歓迎会だったわよね!」


「歓迎会?誰のですか?」


何も聞いていない俺と昼猫は首を傾げた。

他の客は見当たらないし、これから予約でも入っているのだろうか。


「実は、今日、お二人の歓迎会なのです!」


「俺たちの?」


「はい!やはり、部長として新入部員を歓迎しないわけにはいきませんので!

今日は私の奢りです!存分に食べて下さい!」


拳を高く突き上げて、一楓がそう言った。

顔は「決まった……」という喜びと自慢が入り混じっている。


俺たち二人は、一楓の姿を見て、パチパチと手を叩き始めた。

少しだけ置いてかれてる感はあるが、俺たちのために考えてくれたのだろう。


「奢りだなんて、言っちゃって。

ジブンのお店なんだし、お金は発生してないわよ」


「もう!お母さん!!」


パフェを運んで来た、一楓の母親によってバラされてしまった。

一楓は顔を真っ赤にして、母親をポカポカと叩いている。


一楓は、誰に対しても敬語だが、やはり母親の前ではいつもと違うんだな。

そんな風に思っていると、パフェに目を輝かしていた昼猫が口を開いた。


「部長。私たちにも敬語不要」


「うぇ!?」


「確かにな。

友達だし、何より一楓は部長だろ?

そんなんじゃ、後輩に舐められちゃうぞ?」


俺も昼猫の提案に乗ってみたが、一楓は「うぅ……」という風に小さく丸まっている。


何か敬語でないといけない、理由でもあるのだろうか。

だとしたら、悪いことをしてしまったな。


俺は一楓に謝ろうとすると、頭を上げて少し恥ずかしそうに言った。


「今更、キャラ変はちょっと………

(あ…コイツ、高校デビューか?)って思われそうで怖いんですよ!」


「「たしかに……」」


俺と昼猫の声が重なる。


高校デビューは気を付けないといけない事が溢れてるからな。

一歩間違えれば、高校生活終了の危険すら伴う。

新しい自分を手に入れるための、命懸けの選択ってやつだ。


しかし、昼猫も難しい顔をしており、まるでデビューを知っているような感じだ。


もしかしたら、昼猫も高校デビューだったりするのだろうか。

前に夜猫が、「前は違っていた気がする……」的な事を言っていたよな。


昼猫を眺めて、どんな感じなのか想像する。

マジメ系でメガネをクイッとしてるか、はたまた髪を染めて不良だったか……ウッ、胸が痛む。

俺は消し去りたい過去を思い出し、顔を青くした。


各々が黙り込み生まれる静寂……


「と、とりあえず、パフェでも食べましょー!」


それを、終わらせたのはやはり部長。

少し無理矢理だったが、楽しい歓迎会が始まった。


俺たちの前に用意されたのはデカいパフェ。

何でも、一楓の母親が言うには「張り切ったら、とんでもサイズになっちゃって……」だそうだ。

余り物の果物なども詰め込まれているため、何味か……いや、何味もある気がする。


「ちょっと。待って」


俺と一楓がパフェにスプーンを伸ばすと、昼猫がストップをかけた。

その顔は真剣である。


「せっかくの歓迎会。何かしよう」


「何かって……パフェ食うんだろ?」


「違う。もっとデンジャラスに」


「何を言ってるんだよ……」


俺が昼猫に呆れていると、奥から一楓の母親が戻ってきた。

その顔は昼猫同様に真剣である。


「じゃあ、負けたら『あーん』なんてどう?」


「「えっ!?」」


俺と一楓が驚いて声を上げた。

流石に女子2人の状況で『あーん』なんて恥ずかしすぎる。

するにしても、されるにしても……死ねる。


「よし。やろう」


「正気ですか!?」


「うん。楽しそう」


昼猫はワクワクと書かれた顔でスプーンを持った。

恥ずかしいけど、でも………俺は満更まんざらでもなかった。


「ゲームはどうする?」


「え!?蘭さん!?」


俺たちの『あーん』をかけたパフェゲームが始まった。




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