ep.16『犬の歓迎会 ①』
蘭と昼猫が入部した夜………
一楓は悩んでいた。
足をバタバタとさせて、リビングのソファーにダイブする。
念願の部員を獲得できた。
しかし、部長として歓迎会か何かをするべきではないのか、と。
「うぅ……しかし………」
少し出遅れた気がしていたのだ。
確かに入部したのは今日であったが、それ以前から手伝ってもらっていた。
なんだか、二人が入部した感覚がないのだ。
実感が沸かない……というやつだ。
「どうしたの?」
リビングのソファーで、クッションを抱えながら悩んでいたもとに来たのは、母親だ。
若々しく、姉と間違えられる事に快感を覚えている変態。
だが、40前半には見えないのは、日頃の努力の賜物であった。
「なるほど……
なら、クイズ大会なんてどうかしら?」
「部員三人ですよ!」
「なら、新部員ちゃん二人を戦わせて………
【副部長の座を奪い取れ!クイズ大会!】なんて、どうかしら?」
「いきなり殺伐ですよ、雰囲気が!」
だが、確かに副部長はこの場合どうするのだろうか、と一楓は頭を捻った。
順当に行けば、先に入部した昼猫だろう。
引き受けてくれるかは、分からないが、一応は聞いてみるつもりだった。
「じゃあ、無難にお菓子持ってパーティーすれば?」
「うぅ……普通すぎる気がする」
せっかくの念願の部活が始まったのだ。
一楓はもっと盛大にしたいという、曖昧だが大きなイメージがあった。
それを理解したのか、母親が「う〜ん……」と考え始めた。
「あ、じゃあ、うちのお店はどうかしら?
デッカいパフェを皆んなで食べる会!」
「うわぁ!いいね!たのしそう!」
急いで二人に連絡をする一楓。
そして、蘭はこの時は知らなかった。
あんな事になるとは…………
◇◆
—————放課後
今日は、部室には行かずに一楓の家……でしているお店に行くことになった。
何でも歩いてすぐの所なんだとか。
何だか、昼猫は嬉しそうだ。
優太の告白作戦の時もノリノリだったし、こういう皆んなで何かするのが好きなのかもしれない。
まぁ、ただ家の近くで、帰りが楽になるから………という可能性もあるが。
「一楓の家ってこっち側だったんだな。
しかも、店までやってるって凄いな」
「はい!たまに、私も手伝ったりしてるんですよ!」
こっち側は、店が多いイメージがある。
それに、住宅街からも近く、人も多い。
店を開くにはうってつけなのかもな。
前に来たカフェだってここの近くだったし。
「つきました!」
そう言ってヒラリと手を振って紹介した店を見て、俺と昼猫は顔を合わせた。
そこは、二度も来たことのある、例のカフェ。
名前は【ワンダフル】。
確かに、あのカフェだ。
「
「今日はいるのか?」
「いない。確か。テスト勉強してる」
「天高だったよな?
大変なんだろうなぁ」
しかし、このカフェ。
これで三回目か。
しかも、友達の家兼店ときた。
奇妙な縁を感じるなぁ……
「それじゃあ、レッツラ・ゴーです!」
店へと急ぐ一楓を二人で追いかけていく。
その後ろ姿は楽しそうだった。
先輩に憧れて、とか言ってたよな。
今までも部活に所属していても一人だったし、こういうのもしたかったのかもしれない。
ならば、俺も全力で楽しもう。
高校生活で部活に入ったのだし、青春を謳歌しないとな!
俺はトボトボと歩いている昼猫の手を取って、店へと入っていく。
何だか昼猫が「マズイ……」と言わんばかりの顔でコチラを見てくる。
「あら、いらっしゃい。
一楓がいつもお世話になってます」
「あ、どうも。
おか……ッ!!お、お姉さんですか!?」
「もう!お若いなんて!母ですよ!」
危ねぇ!!
と、俺はドッと押し寄せる疲労に深いため息をついた。
口調や立ち振る舞いから、母親だと確信していたが、口に出した瞬間……殺意を感じた。
息が詰まるような、心臓を鷲掴みにされたような圧力。
「蘭さん、昼猫さんね。
あら?見たことある顔ね!」
その言葉で俺は、昼猫の表情の意味を理解した。
そうだ……一回目の時。
俺たちはカップルを偽っている!!
「確か、二回来てくれたわよね。
あ、思い出した!
初めて、カップル限定パフェを食べに来てくれた子ね!」
「…………え?」
一楓がコチラをゆっくりと振り向いた。
目が怖い!闇が深い!
一楓には、俺たちが付き合っていないことは確実にバレているはず。
そりゃあ、自分の店が優しさで【限定】をしているのに嘘をついて友達が食べに来ていたら、幻滅するだろう。
………どうする?
土下座するか???
俺は真っ青な顔で昼猫の方を振り向いた。
昼猫はと言うと、顔を俯かせたまま動かない。
「あ、あの……これは………その………」
「なんですか?蘭さん」
「ひぃぃ!!」
一楓が段々と迫ってくる。
俺は、恐怖で背筋を伸ばして姿勢を正した。
この時、蘭は恐怖で気が付いていなかった。
一楓が怒っているのではなく、《焦っていると》。
自分でも曖昧な感情であるが、蘭に一目惚れした一楓は焦っていたのだ。
だが、気が付かない蘭!
泡を吹き出し、倒れる昼猫!
「え!?昼猫!?」
一旦、その場は昼猫が倒れたことで逃れる事ができた。
「ふぅ……」と俺は安堵したが、油断大敵。
地獄はまだ、続いていたのだ。
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