ep.22『夜猫と父親』

天空高校1年、新谷夜猫よるね

彼女は、進学校と知られる天空高校で優等生として皆の中心で憧れであった。


「夜猫、よくやったな!」


「ありがとございます」


高得点のテストを受け取り、夜猫はホッと胸を撫で下ろす。

書かれている点数は、98点。

100点ではないが、許容範囲内であった。


それから、流れるように返却されるテストを受け取り、その日の授業は終了した。

すべてではないが、多くが返されて、そのほとんどが100点近い。


H.Rホームルームが終了すると、すぐさま、スマホを取り出して何かを打ち込み始めた。


送信先は、父親。

教科と点数、反省点などを事細かに入力して、送信した。


母親が逃げ出してから、数年。

元々少なかった父親との接点は次第になくなっていき、今はメールでの連絡だけとなった。


衣食住と金こそ提供してくれているが、そこに恐らく家族の愛などない。

姉と一緒に自立するには、今はまだ父親は必要不可欠。


見捨てられないように、夜猫は父親の理想に応えられるように自分を押し殺して、完璧な夜猫を演じていた。


そして、今も——————


(とりあえず、今回は安心かな)


と、夜猫はに足取り軽く、バイトに向かった。

父親からの返信は、いつも通り【そうか。】の一言だけだった。


◇◆


次の日、夜猫はいつも通りに学校に登校して、席についた。

少し遅れてやってきた友人と挨拶を交わして、勉強を再開する。


中間が終われば、すぐに期末テストが始まる。

休んでいる暇などないのだ。


「それじゃあ、朝のH.Rを始めます」


数十分後、時間キッチリに入室した先生が出席簿を確認しながらH.Rを始めた。


今日に返されるテストは二つだけ。

夜猫は油断からか緊張しておらず、妙に嫌な予感がしていた。


そして、それは的中する。

二時間目に返却された、本日二つ目のテスト。


点数は、平均点よりも少し高い。

だが、60点を下回ってしまっていた。

理由は凡ミスの連続。

たった一つ、誤って記憶していたものが点数に繋がってしまったのだ。


だから、何だと言うわけではない。

ミスはミスだ。

言い訳は出来ないと、分かっていながらも夜猫の頭は真っ白になっていた。

焦りから働かない頭を動かし、必死に言い訳を考える。


それから、数時間かけて完成させたメールを何度も確認した後、父親に送信する。


しかし、父親から返信が来ることはなかった。


◇◆


時は進んで、新谷父と蘭。

二人は少し睨み合った後、会話を始めた。


「君は?」


「えっと、俺は東雲蘭……です」


緊張しながらも蘭は、目を逸らさずに挨拶をする。

それに対して巨体の男である昼猫の父親は、怖い目元に浮かぶ瞳をギャロっと動かして蘭を睨んだ。


「そうか。話は聞いてるよ」


地に響くような低い声、強弱のないトーンでそう言った。

そこにある感情は読み取れず、蘭は若干に恐怖する。


何を考えているのだろうか、と。

娘に近寄る虫として邪魔者と思われているのではないかと、震えた。


だが、蘭はその父親を見て、あることを思い出した。

昼猫だ。

メッセージを送ったが、返信は来ていないと言っていた。

もうここにいるって事は、随分と前に読んでるはずだ。


「あの、昼猫のメッセージって見ましたか?」


「あぁ。見たさ」


「じゃあ、その、返信は?」


「……………してないが」


「えっと、理由をお聞きしても?よろしいでしょう………か」


精一杯に申し訳なさそうに、蘭はそう言うと、新谷父は少しムッと驚いたような表情をした。

そして、何か考えた後、まるで言葉を選びながら喋り始めた。


「君は、その。他人との境界がないのかな。

ズカズカと来て。一応、初対面だよね、私たち」


「ハッ!?すいません。

気になってしまったもんで………」


自分でも驚き、謝罪する蘭を見て、新谷父は深くため息をついた。

そして、首を回して、自分の家。

つまり、新谷家の方向は少しだけ眺めた。


「分かった。だが、ここでは話せない。

ついてこい。君には話しておこう」


「わ、分かりました」


蘭はポチポチと、一楓に簡単に状況を伝えてその後を追う。

どこへ行くのだろうか。何を話すのだろうか。


だが、ここまで来て、臆してられない。

と、蘭は覚悟を決めた。


















「……………………えっと、ここは?」


「見ての通り、猫カフェだよ。

私の行きつけさ」


蘭は強面のおじさんと向かい合わせで、猫を撫でる。

その頭上には無数の「?」が浮かび、首を傾げた。


「それじゃあ、話そうか」


「え!?あ、はい」


新谷父が優しく猫を眺めていた視線を上げて、話し始めた。

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