ep.14『犬と廃部』
「
俺は、新聞部と書かれた部室の扉を叩いた。
すると、ドタバタという音を立てて、やがて一楓が転がってきた。
「よ、ようこそ!お二人とも!」
少しだけ息を切らしており、まるで隠し事のある子供のように目をキョロキョロとさせている。
「新聞、できたのか?」
「あ、はい!勿論です!」
すると、少し躊躇った後、俺たち二人を部室へと案内した。
椅子を用意されて大人しく座る。
「これです!こちら、廃部を逃れる希望です!」
「「おぉ〜!!」」
俺と昼猫は、パチパチと一楓を褒める。
すると、少しだけ「ふふん」という様に自慢するように腰に手を当て、胸を張った。
俺たちは、それから、しばらくの間、一楓を褒め続けた。
二人……いや、全校生徒と言っても過言ではない人数が嫌いであろう教頭に復讐を出来るであろう事への喜びもある。
しかし、それよりも、昨日の今日で記事を完成させた一楓への賞賛が大きい。
目元には大きなクマが出来ており、寝ないで頑張ったことが伺える。
「ん?なんだ、この写真」
「のわぁ!?」
ピラっと箱の下敷きに敷かれている一枚の写真を見つけた。
それを取り出すと、見るからに一楓が慌て出した。
さっき、部室を訪れた時に慌てていた理由はこれなのか?
だとしたら何をそんなに………と、俺は折りたたまれた写真を開こうとした。
すると、一楓が己の全てを捧げるようなタックルを仕掛けてきた。
俺はそれに「ぶえっはぁ!?」などと言う意味不明な悲鳴を上げながら吹っ飛ばされる。
「ふぅ、取り返したです!」
ハァハァハァハァ………と、息を切らしながら、口元を拭う一楓。
その他には先程まで俺が持っていた写真が握られていた。
そんなに大事な物なのだろうか。
新聞はパソコンで作成されており、写真を別にプリントする必要はない。
だが、あの一枚だけはプリントされている。
「こ、これは秘蔵写真なのです!
新聞部に入部した者だけが見られるのです!」
「ひ、秘蔵写真………余計に気になる」
「中身は多分。とんでもない。特大ネタ」
昼猫がむくりと起き上がりながら、そう言った。
どうやら、昼猫も秘蔵写真の中身が気になるらしい。
「と、取られる物ですか!」
「「うぉー!!」」
しばらくの間、三人の鬼ごっこは続いたが、昼猫が途中でダウンしたところで中断された。
結局、俺たちは写真の中身を見ることは出来なかった。
しかし、秘蔵写真か………どんな物なのだろうか。
(危なかったです………)
ふぅ……と、一楓は胸を撫で下ろす。
そして、その写真を今度は絶対に無くさないように財布に収納した。
ここならば、取られる心配も、見つかる可能性も低い。
一楓は、完成した【教頭のズラ特集】の新聞を持って二人を連れて出発した。
その写真の中身は………あの時の写真。
そう、蘭に助けられた時の写真であった。
ふと思い付きでプリントしたところに二人が来たものだから一楓は焦ってしまった。
写真を撮ってしまったならば、言い訳は出来る。
しかし、プリントまでしてしまったら、どう思われるかか分からない。
一楓は、もう一度、安心からため息をついた。
◇◆
「プッ……面白いわね」
顧問である先生に見せると、つい吹き出してしまったらしい。
諦めて、正直な感想を述べてくれた。
だが、いくら先生が面白いと言ったからといって採用して貰えるかは分からない。
普通なら「ダメ!」と言われて終わりだろうが………一楓には何か作戦があるらしい。
「でも、こんなの張り出したら廃部まっしぐらよ」
「大丈夫です!
この新聞には教頭先生とは書いてないですから!
写真も粗くしたし、個人を特定できません」
「なるほど!
そうすれば、教頭…先生が自分から名乗りあげることはない!
もし、そんな事すれば認めたことになるもんな!」
「ですです!」
「犬山一楓。頭良い」
そう言われると一楓は、頭を擦り、顔をとろけさせながら照れた。
教頭先生ズラ説は周知の事実だ。
これだけの情報でも、多くの者が気がつくだろう。
顧問は少し考えたあと、苦笑いした。
「まぁ、それならいいか」
そう言うと、新聞を一楓に返して俺たちを職員室から追い出した。
どうやら、許可を貰えたらしい。
「それじゃあ、早速、掲載してきます!」
そう言うと、一楓はまるでオモチャを買って貰った子供のように走って行ってしまった。
◇◆
———————次の日
昨日、一楓が張り出した新聞に皆んなが集まっていた。
「これで、廃部は免れたな!」
「はい!二人ともありがとうございます!」
俺たちは、そんな皆んなの光景を見ながら妙な達成感に浸っていた。
しかし、俺たちの元に歩いてきた顧問はベシッと頭を軽く叩いた。
「廃部までの期間は伸びたが、しないわけじゃないぞ。
部活の規定である部員5人集めないといけないしな。
あと、残り4人……頑張れよ」
「えぇ!?そんなの、聞いてないです!!」
「だって、聞かれてねぇーもん」
そう笑っていう顧問に、一楓は頬を膨らませる。
そして、膝から崩れ落ちるように、座り込む。
「まぁ、次の新入生歓迎会まであるし、頑張れよ」
「壁はまだ。続いてる」
「うわぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁ!!」
昼猫の言葉が最後の一撃となったらしい。
一楓の悲鳴が廊下に響き渡った。
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