ep.13『犬の作戦と初恋』
「確かに言われてるけど………
確証はあるのかよ【教頭がズラ】だって」
「あります!
私は【教頭がズラ】だと確信しています!」
「私も。思ってる。【教頭がズラ】だと」
職員室前でそんな会話を繰り広げ始めた俺たちに少し慌てた先生たちに気が付き場所を移すことにした。
移動した場所は、部室。
俺たちは椅子を並べて、話し合いを始めた。
前にはホワイトボードが置かれ、何か作戦があるらしい一楓が書き始めた。
「まず、狙うときは教頭がタバコ休憩に向かうときです!」
「でも、行くタイミングなんて分からないだろ?」
そう言うと、一楓は、一冊のノートを取り出した。
表紙には『いつか狙う!大スクープの種』と書かれており、開かれたページには【教頭のズラについて】とかなりまとめられていた。
「教頭先生は、5時間目が始まると毎日、タバコ休憩に向かいます。
理由はおそらく、昼飯の買い出しなど生徒や先生などが終えた直後で少ないからだと思います!」
「そんな、コソコソして行く理由あるのか?」
「美人の保健室の先生に健康アピールをしまくってるからバレたくないんでしょうね」
「なんだよ、ソレ………」
確かに、保健室の先生はダウナー系美女だ。
だからって……相手にされないだろうに。
きっとタバコの話だってテキトーに流されているに違いない。
なんだか、教頭先生が哀れに思えてきた。
いや、教頭だし、いっか。
いつもセクハラまがいの事してるし、良い反省の機会になるのではないだろうか。
「でも、5時間目って………」
チラッと昼猫の方を向く、授業をサボってしまうのはともかく、昼猫の活動時間外だ。
つまり、お昼休憩を終えて、睡眠タイム。
「私は。戦力外。無念……」
「じゃあ、俺と一楓で行くしかないか」
「頑張りましょう!」
少し不満そうな昼猫だったが、睡眠欲が勝ったのか「起きてたら、行く……」と信用できない
セリフを呟いた。
「じゃあ、とりあえず明日にだな」
「はい!よろしくお願いします!」
◇◆
「よ、一楓!」
「蘭さん、シーッ!」
昼休みが終わりに差し掛かった頃、裏門あたりで待機していた一楓に俺は声をかける。
すると、笑顔で振り返った一楓だったが、突然に口元に指を当てる動作をした。
「あ、すまん」
「まだ、教頭先生は来てませんが……
多分そろそろです!」
隙間から二人して覗き込む。
結局、昼猫は起こしたが無理そうだったので、手紙を置いてきた。
「蘭さんっていつから昼猫さんと仲良いんですか?
私が知る限りだと……その、昼猫さんって結構、1人のイメージがあったんですけど」
「あー……いつからだろ。
最初は、先生に言われて何となく話しかけたんだよ」
「そうなんですか!」
「あぁ、手に負えないからって、隣の席だった俺にお世話係なんて意味不明の役割押し付けてさ」
「でも、蘭さんって世話焼きですし!
ピッタリですよ!
新聞部だってお世話になってますし。
ほら、私、犬山一楓に新谷昼猫って!
犬と猫の飼い主さんみたいですね!」
「ハハ……俺は鳥派なんだけどなぁ」
「なぬ!」
笑いながらそう言うと、ショックを受けたらしい一楓はガクリと肩を落とした。
確かに犬と猫は可愛いが、昔にインコを飼っていたのもあり、鳥好きなのだ。
あと、自分で『犬と猫』という人の前で「犬と猫、可愛い!」なんて照れて言えない。
そんな、真ん前で女子を褒められる程に俺のコミュ力や恋愛スキルは高くないのだ。
「あ、教頭先生」
「ほんとです!」
キョロキョロとしながら、校門を出ていく。
懐に腕を突っ込んでおり、どこか怪しい。
きっと、タバコを隠してるんだろう。
高速で振る頭は緩い城壁が揺れて、今にも風と共に旅立ちそうである。
しかも、休息場へと急ぐその速さは己の威厳を守るソレが落ちるの加速させているようだ。
「急ぎましょう!!」
「おい!走ると危ないぞ!」
鮮やかな転びよう。
カメラを両手に持った一楓の視線は、廃部から守るために残された秘宝に注目し段差に気が付かなかったらしい。
足を絡ませて、綺麗に倒れていく。
普通なら両手で着地できるであろうが、一楓は今、カメラを持っている。
カメラを庇うように、身を捻った一楓の背中が地面に衝突しそうになった瞬間、俺の伸ばした手が間に合った。
グッと身体を引っ張る。
一楓の顔が近づき、その身体を受け止めた。
まるで、抱き寄せるようになってしまい、慌てて俺は引き離す。
「あ、ありがとう………ございます」
「次から気を付けろよ」
何となく気まずい空気が流れ、視線を泳がせていると俺の目に教頭先生が映った。
高速で飛ばす車。
それが起こす爆風に教頭の命が宙に舞い上がった。
「あ、おい!一楓!」
「え、あぁ!!」
◇◆
ベットにダイブした一楓のスマホがピコンッと音を立てて鳴った。
メッセージは、蘭から。
昼休みに奇跡的に撮れた教頭先生の写真が大丈夫かという確認だった。
それに、「大丈夫でした!」と返信すると鞄からカメラを取り出した。
最新の項目を開くと、見事に狙っていてズラの写真が出てくる。
そして、前の写真にスライドすると、こちらもたまたま撮れた奇跡の写真。
一楓の目に残っているあの時の風景。
こちらに手を伸ばす蘭の写真だ。
それは、見事に逆光で顔は陰となっているが、それでも思い出すには十分な威力を持っていた。
「…………うぅ」
思い出しては、枕に顔を埋める。
一楓にとって初恋であり、一目惚れだった。
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