ep.12『犬の新聞』

—————新聞部、部室にて。


少し大きめの机を間に挟み、一楓ちはやと優太・澤田さんが対面している。


学校新聞に掲載するインタビューをすることに許可を貰った次の日、一楓はワクワクと緊張のもと二人を部室に招いたのだ。


「そ、それじゃあ、し…質問を!」


「落ち着けよ、一楓」


汗ダラダラで、震える声の一楓を一旦、落ち着かせる。

ついに憧れの新聞部として活動をしていることを実感し始めたのかもしれない。


「とりあえず、告白したのは—————」



数十分後、インタビューは終了した。

最初こそ緊張していた一楓だったが、時間が経つにつれて余裕が出てきていた。


あの元気で好奇心旺盛な性格が表に出ており、普通の人が遠慮する話題にまで手を伸ばすので何度かヒヤヒヤとした。


しかし、確かに普通じゃ聞けないような話を聞き出す事が出来ていたし、こういう事が向いているのだと思うことが何度もあった。


「じゃあな!新聞、楽しみにしてるぜ!」


「ありがとうございました、一楓さん」


二人は少し雑談をした後、仲良く帰っていった。

付き合いたての頃は、少し恥じらいや初々しさがあったが今はもうない。


どこまでしたのだろうか………

と、考えると少し顔が引き攣る。

友達の恋愛事情に深く考えるのは良くないな。


「やっと。見つけた」


「あ、昼寝。話は終わったのか?」


「うん。任務完了」


先生との二者面談が終了したらしい昼猫と合流した。

話の内容は聞いていないが、おそらく小テストについただろう。

古文の成績が上がっている一方、英語と数学の成績が下がり続けている。


俺も教えてはいるが、お互いに苦手分野なのもあり、上手くいっていないのだ。


「なにしてる?」


「今聞いたインタビューをまとめているのです!

そのままだと、分かりづらいですからね!」


「記事を盛ったり、捏造したりするなよ?」


「な!?心外です!

私はそんな事しませんよ!?」


一楓は少し不貞腐れながらも、メモを確認しながら記事をまとめ始めた。

スラスラと、上手に言葉をまとめていく。


「お前、字綺麗だな」


「えへへ……

こう見えても書道を習ってましたので!」


機嫌が直ったのか、「ふふん!」いう風に自信満々な一楓を見て、単純だなと少し不安になる。

将来、悪い男に引っ掛かりそうだな………


しかし、新聞が全て手書きなのは自信があるからなのか、プライドでもあるのだろうか。

正直、パソコンを使った方が明らかに早いだろうに。


そう思い、ふと…棚を見るとノートパソコンが埃をかぶってしまいこまれていた。


「なぁ、パソコンあること……知ってるよな?」


「何言ってるんですか?

うちの部活にパソコンなんてありませんよ!

あったならわざわざ手書きなんてしませんですし!」


おそらく、俺の視線からパソコンの存在に気が付いたらしい昼猫と目を合わせた。


本当は優太たちとの繋ぎ役を出来たのなら、安心して帰ろうかと思ったが………もう少しだけ、世話を焼こうかな。

迷惑かもだけど、不安だ。


「一楓、落ち着いて聞くんだ………」


「ん?なんですか?急に真剣になって?」


「昼猫、例の物を……」


「ん、了解」


少し背伸びをして昼猫がパソコンを棚から取り出した。

結構に高い位置にあった気がしたが……

いつも、猫背だったので分からなかったが、昼猫って意外にも身長が高いのかな。

スタイルだって良さげだし……


「はい。東雲蘭」


「ありがと、昼寝」


「何ですか?それは?」


「これは——————」



◇◆


「ふぅ………終わったな」


あれから、パソコンを使い始めた一楓だったが、さらに問題が発生した。


一楓は、機械音痴だったのだ。

慣れるまでに時間がかかり、手書きの方が早いのではないかと思うペースになったのだ。


「あとは、先生に提出するだけです!」


「私も終わった宿題、出さないと」


隣で宿題をしていた昼猫が疲れ気味にそう言った。

ならば、一緒に職員室に行こうとなり、俺たちは部室を出た。


そして、少し歩いて職員室。

扉を叩いて、先生を呼び出して、提出して終了。


と、なると思ったが……違った。

先生は受け取った新聞をパシッと一楓に返したのだ。


「最近、新聞の印象が薄い。

読む人も減ったし、新聞部の必要性がなくなりかけてる。

もっと、印象に残る大スクープでも狙え。

そろそろ、私が守るのも限界だ」


「わ、分かりました………」


確かに、優太たちの名前が書かれなくなったことで【委員長の恋愛】というインパクトが消えた。


先生の言うことも一理あるだろう。

しかし、注目を引く大スクープなんて、残りの少ない時間で見つけられるのだろうか。


「大丈夫なのか?大スクープなんて……」


「ネタはあります………

ですが、1人では難しいので手伝ってもらえますか?」


「俺はいいけど……」


「私も。手伝う」


俺と昼猫は、その並々ならぬオーラを放ち始めた一楓を前に息を飲んだ。

この状況を打破できるネタとは一体なんだ?


「大スクープのネタは…………

嫌われ者、教頭のズラを暴きます!」


「「——————!?」」


こうして、新聞部の廃部を逃れるため、大スクープを狙い【教頭のズラの真相】作戦が始まった。







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