犬の新聞部 編
ep.11『犬の気配』
「ふぅ。おわった」
「おつかれ」
汗を拭うような動作をした昼猫が宿題を終えた。
最近は集中力が上がっているのか、早いペースで解けるようになってきた。
しかし、宿題を終えると次の授業でウトウトしてしまう問題点がある。
だが、それは追々だ。
「ん?」
「どうしたんだ?」
「何か。視線を感じた」
居眠り体制に突入していた昼猫はそういうと、ジーッと一点を見つめている。
俺も少し遅れて、その視線の先を見た。
教室の後ろのドア。
人の出入りがなく、ドアは微妙に隙間を開けて止まっている。
そこから覗く、一人の少女。
背丈は小さく、肩まで伸びた茶色の髪が無造作にハネている。
彼女は、俺たちが見ていることに気が付いたのかビクリと身体を震わせた。
そして、顔を隠すとそーっと再び顔を覗かせる。
「昼猫の知り合いか?」
「違う。知らない人」
「じゃあ、誰かに用でもあるのかもな」
昼猫も話しながらチラッと横目で確認すると、まだこちらを見ていた。
その視線は明らかにこちらに向いている。
「おーい!何か用でもあるのか?」
すると、諦めたのか扉を開けて、こちらに歩いてきた。
肩を落としており、重いため息をついている。
「よよよ……まさか、バレていたとは!」
「見え見え」
顔がクシャッとしており、何かプライドが傷ついたらしい。
自然と俺の視線は、彼女が首からぶら下げている物に向いた。
カメラだ。
まさか、盗撮!?
昼猫の熱狂的なファンなのか?
「名前は?」
「
「もしかして、写真部か?」
「いえ!私は新聞部です!
廊下とかに貼ってあるヤツ作ってます」
確かに廊下に貼ってある。
しかし、アレってかなり不評だったよな。
確か、ロクな情報がないとか……
挙げ句の果てには、デマを書かれたとか噂で聞いたことがある。
「まさかネタ探しにきたのか?」
「はい!あの学年1位の委員長に彼氏が出来たとか、なんとか聞きまして」
「じゃあ、昼猫を撮ってたわけじゃないんだな」
「いえ、まぁ……委員長をスクープしに来たら、あの昼猫さんにも彼氏がいて、見てました!」
「いや、俺は彼氏じゃねぇ!」
とんでもない勘違いをしている一楓《ちはや》に間違えであることを説明する。
すると、後ろで「一夜の関係だったのね?」などと昼猫がふざけるものだから余計に話がややこしくなり、とりあえず放課後ということになった。
「————ってこと!」
「なるほど、理解しました!」
しっかりと説明を理解したらしい
しかし、不安だ………
「そういえば、他の部員はいないのか?」
説明が終わり、一息ついたところで部員がいない事に気が付いた。
もう放課後だし、時間も結構経っている。
その割には部員が来る様子はない。
「新聞部の部員は、私1人です。
去年は2人いたらしいんですけどね」
「確か、部活って5人いないと廃部なんじゃ……」
「はい、次の年までに5人集まらないと廃部になってしまうんです」
そう言う一楓の声には先程の元気はない。
少し俯いて、顔が暗い。
もしかしたら、あんな風にスクープを狙っていたのも廃部にならないためなのか?
一楓の雰囲気からして、何か廃部にしたくない理由がありそうだ。
「なぁ、次の新聞、俺も手伝ってもいいか?」
「それは……私もありがたいですけど。
いいんですか?」
「あぁ、もちろんだよ!
俺、委員長の彼氏のさ、優太と友達だから、ちゃんとお願いしてインタビューしようぜ!」
すると、一楓の顔がパァッと明るくなった。
一楓には部活の先輩がいなかった。
もしかしたら、新聞部としての活動が分からないまま1人で我武者羅に頑張っていたのかもしれない。
そう考えると、何だか手伝ってあげたくなってきた。
「私も。手伝う」
「昼猫も?
多分、放課後とか遅くなるけど、大丈夫か?」
「うん。東雲蘭が手伝うなら私もする」
「人手は多い方が助かります!」
俺の膝に寝転がり、うたた寝していた昼猫がむくりと起き上がり言ったのだ。
あの昼猫が……
いや、最近は昼猫も変わってきている。
珍しくと言うのは失礼かもしれないな。
「よし、それじゃあ、特大スクープ狙おうぜ!」
「はいです!」
「おぉ〜」
新聞部に久しぶりに楽しげな声が響いた。
◇◆
次の日、俺と一楓はラブラブしている優太の元へと向かった。
ちなみに昼猫も目を閉じかけているが、俺の袖を掴んでついてきている。
「というわけで、インタビューをさせて欲しいんです!お願いします!」
「えぇ!?取り上げて貰えるのは、嬉しいけど……ちょっと恥ずかしいかも」
澤田さんが、少し申し訳なさそうに言った。
全校生徒、全員の目に映る学校新聞にデカデカと自分たちの恋愛事情を書かれるのは確かに、恥ずかしいよな。
「なら、恋愛に対するインタビューで、匿名ならどうだ?
とあるカップルの恋愛観って感じでさ!」
「それなら、私はいいですよ」
「オレも全然、構わないぞ」
何とか、「とあるカップルの恋愛インタビュー」を匿名で行うということで決まった。
お互いに納得したとはいえ、一楓のイメージしていた物と違ってしまったため落ち込んでないかと心配したが大丈夫そうだ。
むしろ、新聞部としてしっかりと活動出来ていることに楽しさを感じているようだった。
「なぁ、なんで一楓は新聞部に入部したんだ?」
何となくずっと気になっていたことを聞いてみた。
すると、一楓は斜め上を向くように少し考えてから話し始めた。
「入部したキッカケは、キラキラした先輩たちに憧れたから……ですかね」
そう言うと、少し懐かしむような目線を何もない空間を窓の外へと向けた。
「部員、集まるといいね」
「はい!私もキラキラした新聞部を取り戻します!」
一楓は、拳を高くに掲げてそう宣言した。
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