ep.10『猫とマイハウス』

しばらく歩いているが夜猫さんとの間に会話はない。

友達の妹とか気まずい意外、何もない。


いや、まぁ、コミュ強な人だと平気なのかもしれないけど………俺にそこまでのコミュ力はない。


「お姉ちゃん、学校ではどうですか?」


「昼猫か………結構、自由人だけど、最近は頑張ってるかなぁ。

宿題とか寝ないとか」


「当たり前のことなんですけどね」


「まぁね。でも、進歩は進歩だよ」


「ですね」


学校を通り過ぎて、カフェなどがある道へと向かう。

夜猫さんは聞いていた通りに真面目な人だった。

本当に昼猫と双子なのか疑わしいくらいだ。


だが、身なりを整えていたりと昼猫とは違う点があっても、雰囲気や話し方。

そのような日常的なところから双子だと再認識する。


「昼猫って、ずっとあんな感じなんですか?」


「う〜ん……昔はしっかりしてた気がするんですけどね。気のせいかもしれませんけど」


「昼猫がしっかりしてるイメージが浮かばないなぁ」


「今が印象、強すぎますもんね」


二人して今の昼猫を思い浮かべて笑う。

ぐっすりと寝て、居残りを避けるために必死な昼猫がテキパキと働く優等生。

メガネなんかクイッと上げて「東雲蘭、そこ違いますよ」なんて。


「ありえないなぁ………」


「ですね」


少し打ち解けて来たとき、ようやく家に到着した。

俺の想像では、一般的な一軒家だったのだが………案内されたのは高級マンション。

一部屋、一部屋が広く漫画なんかで見るような家だ。


「金持ち、ですね」


「そうですかね?

あ、お姉ちゃんの部屋はこっちですよ」


リビングを通って扉に案内される。

俺は普通に開けようと、手を伸ばしたが止まる。

ここから先は女子の部屋だ。

家よりも密だ。

いや、何言ってるんだ。

なんか、キモイぞ。


「私が開けましょうか?」


「ごめん。お願いしていい?」


すると、いとも簡単に開けてしまった。ふわりといい匂いが流れ込んでくる。

すると、シンプルなデザインの木の家具が置かれた部屋が見えた。


奥の大きなベッドの上で布団がモゴモゴと動いている。

きっと昼猫だ。

電話した時は起きたのに、二度寝したのか。


「お姉ちゃん。起きて!

東雲さんが来てるよ!」


布団に包まる昼猫を呼びかけながら揺らしていると、その声に反応してか飛び起きた。


猫耳があったなら、ピンッと立てていただろうをキョロキョロとしたあと、俺と目が合った。


すると、昼猫はバタバタとし始めた。

パジャマのボタンが外れて、服がはだけていたのだ。

それに気がついた俺は、慌てて部屋を飛び出す。


「もう……しっかりと着て寝なさいって言ったでしょ、お姉ちゃん」


「うぅ、東雲蘭がいるとは不覚だった………」


「わ、悪い!でも、見てないから!」


嘘である。

少しだけ見てしまった。


しかし、本当に一瞬でピントのあっていない写真のように記憶はボヤけている。


まぁ、だからと見られた本人からしたら何だという感じだろう。

俺は必死に大丈夫アピールをした。


「夜猫、お腹空いた」


「もう。じゃあ、今適当に作るから待ってて」


「やった」


そういうと、台所に移動して夜猫さんが何かを作り始めた。

手際が良く、まるで何人もいるみたいだ。

いつも朝ご飯は心猫さんが作っているのだろうか。


すると、漂ってくる美味しそうな匂いに俺のお腹は朝ご飯を食べていない事を思い出したのか、「ぐぅ〜」という情けない音を発した。


「朝、急いでましたもんね。

一緒に食べますか?」


「いいんですか!」


「はい。一人前も二人前も三人前も変わりませんので」


「ありがとうございます!」


「えっへん」という風に自慢そうにした夜猫さん。

どこか昼猫に似ている。

と、チラッと昼猫を見ると机に顎を乗せてウトウトしている。


「料理、得意なんですか?」


「はい……趣味みたいなもので。好きなんですよね。

東雲さんは料理とかするんですか?」


「いえ……練習はしてるんですけど、上手くいかなくて。

料理が出来るなんて、凄いですね!」


そんな会話をしていると、何を思ったのか昼猫が台所へとフラフラと歩いて行った。


「私も手伝う」


「えぇ!?お姉ちゃんが手伝うなんて珍しいね」


「将来のため。花嫁修行」


「突然に………??」


何か気が変わったのか、昼猫も料理をし始めた。

作ってもらっている身であるため、こんなこと言うのはおかしいが、学校に行かなくていけないのだ。


ただでさえ遅刻しているのに………

もしや,このまま休む作戦ではなかろうか。


しかし、台所で必死に料理している昼猫を見て、俺のそんな気持ちは消えた。

昼猫が必死に取り組んでいるのを何回も見たことがある。

だから、分かる。

あれは本気だ。

何か邪な気持ちなどではないのだろう。



————————数十分後



「出来た。中々の出来栄え」


「おぅ、お姉ちゃんがいいなら、いいけど………」


出されたのは二枚の皿。

一つはベーコンと卵が上手くからまっているTHE・朝ご飯って感じの目玉焼き。


もう一つは、真っ黒だ。

そこにあるのは闇、闇である。

闇が固形を保っている………奇跡だ。


「これ、東雲蘭にあげる」


「あ、ありがと………」


自信ありという風にグイグイと前に出される皿を前に俺は顔を歪める。


しかし、すぐに笑顔に切り替えた。

あの昼猫がここまで頑張ったんだ。

まずは嘘でも美味しいって言うんだ。


震える手を抑えながら、闇をフォークで口へと運ぶ。

パリパリというような妙な音を立てながら闇が崩れている。

大丈夫なのだろうか………腹とか壊さないかな。

恐る恐る口に入れると俺の身体に衝撃が走った。


「お、おいしい!?!?」


「え!?」


美味いのだ。

見た目は0点だが味は100点。

俺の言葉を疑いながら、夜猫さんも食べる。

すると、俺と同じ反応である。


「ふふふ……これが、私の実力よ」


「確かに凄いけど……」


「そうですね。見た目を何とかしないと」


「改良点アリ………」


やはり、料理は見た目も大事なのだ。

とりあえず、昼猫の料理を皆んなで取り分けて、心猫さんのご飯を食べた。

こちらは見た目も味も完璧。

ホテルの朝ご飯で出されても違和感がないレベルだ。


「ごちそうさまでした。

ありがとうございます、夜猫さん」


「はい!また、食べに来てくださいね」

それに、呼び捨てで構いませんよ。

同い年ですし。」


そういえば、前に昼猫が妹の料理を食べたらなんて言ってたっけ。

確かに死ねる料理だったな。


「あ、昼猫、行かないと!

次の授業休んだら、居残りだぞ!」


「そ、それだけは避けなければ………」


そう言うと、昼猫はカバンを持って玄関へと走って行った。

その後を、夜猫と追いかける。


「ほら、早く行こ、東雲蘭」


「それじゃあ、夜猫s……

ありがとうございました」


「ん?夜猫は学校行かないの?」


「あ、うん。私もすぐに行くよ」


夜猫は少し俯いてからぎこちない笑顔を浮かべた。

そういえば、朝の様子もおかしかったような…………

すると、昼猫に引っ張られてしまった。

仕方なく、走りだした。

まぁ、第三者が関わることじゃないか。


遠ざかる夜猫に手を振りながら、学校に向かう。

しかし、途中で昼猫はダウン

………結果、居残りとなってしまった。

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