ep.5『猫とパフェ』
今日は午前授業だ。
そのため、いつもより新谷さんのテンションが高い。
スキップ……はしてなかったが、歩いている姿から楽しさが滲め出ていた。
新谷さんは家猫だな。野良猫にはなれなそうだ。
「東雲蘭。放課後、予定ある?」
「俺?今日はないけど、どうしたの?」
「一緒に帰ろ」
珍しく新谷さんから誘われた。いつもは気が付いたらいないのに。
なにか終わってない宿題でもあるのだろうか。いや、なら学校で済む用事か。
そんな事を考えていると、リュックをガサゴソと漁り始めた。そして、奥から取り出されたのはどこかの店のチラシっぽい。グシャグシャである。
目を凝らして見てみると、どこかのカフェみたいだ。デカデカとスイーツの写真が載せられており、見たところ巨大パフェが期間限定で売っているらしい。
「これを食べに行きたい」
「いいけど。俺でいいの?」
「うん。必要」
「必要??」
新谷さんの言葉に疑問があったが、さっさと歩いて行ってしまった。どれだけ、楽しみなのか。
今日のテンションが高かったのはこれも関係していたのかもしれない。
しかし、新谷さんってスイーツ好きだったんだな。ビックリはしないが、少しだけ以外だな。
食べ物の話なんてツナサンドしか聞いたことなかったし。
「早く行こう。お腹が空いた」
「あ、ごめん」
学校を出て、いつもとは反対方向に進む。
こっち側はあまり来たことがない。一度、優太たちとカラオケに行ったとき以来かもしれない。
お店が多いからか、時間帯か分からないが人が少しだけ多い気がする。
そういえば、新谷さんの家ってこっちの方向だったよな。居残りで一緒に帰ったとき、こっち側方面に帰っていったのを覚えてる。
「ここら辺は、美味しいお店が多い。
あのパン屋はメロンパンが美味しい。でも、ツナサンドは妹のお手製には勝てない」
「いつも食べてるお弁当って妹が作ってるんだね。そんなに美味しいんだ」
「絶品。一度、食べに来ると良い。多分、死ぬ」
「え!?死ぬの!?」
でも、あの新谷さんが絶賛するとは本当に美味しんだろうな。というか、妹さん大変だな。いや、以外にも新谷さんは家ではしっかり者の可能性もある……のか?
想像できないが、学校での行動はその反動なのかもしれない。だとしたら、いつも眠そうなのは納得がいく。
「そろそろ到着する」
「あぁ、あのお店?」
「そう」
少し小さめのお店で、木で建てられておりオシャレな感じだ。
確かに、あのチラシと同じ物が貼ってある。小さい字がクシャクシャで読めなかったが、これだとハッキリと見る事が出来る。
そして、その文字に俺は声を上げて驚いた。
そこには、【※カップル限定】と書かれていたのだ。
「これより、カップル偽装作戦を開始する」
「ちょ、ちょっと待ったぁぁ!!」
「いざ!」と店に入ろうとする新谷さんを一旦、止める。必要ってそういう事か!!
確かに男の俺がいれば、カップルを偽装出来るし、限定品を食べられるだろう。
しかしだ!!流石に心の準備が必要である。
「作戦、とか……ないの?」
「たしかに。じゃあ、スキップして行く?」
「カップルのイメージがおかしいよ、新谷さん!」
そういうと、「むぅ……」と何かを考え始めた。
新谷さんの中にあるカップルのイメージはスキップなのか……どこでその情報を得たのだろうか。その情報源が気になる。
が、しかし、今の問題はそこじゃない。
「じゃあ、ちょっと照れるけど……」
「…………??」
新谷さんが、ちょっと恥ずかしそうにこちらに手を伸ばした。
まさか、手、手を繋………!!
段々と俺の手に近づき………通り過ぎて上がった。
「ハイタッチして行こう」
「ごめん。普通に行こう」
深呼吸をして、店に入る。
すると、女性の店員がこちらに来た。
「席はコチラです。ご注文は………
「決まってる」
そう言うと、壁に貼ってあったチラシを指差した。
店員さんは、その指す場所を目で追っていくと分かったらしく、笑顔で頷いた。
「他にご注文はありますか?」
「あ…飲み物はミルクティーで。東雲蘭は?」
「じゃ、じゃあカフェオレで」
注文を完了し、店員さんが去るとほぉーっと深いため息をつく。
なんだかどっと疲れた。だが、新谷さんは相変わらず楽しそうで顔がにやけている。
まぁ、嬉しそうでなによりだけど…………パフェってどれくらいの大きさなのだろうか。
写真だと相当な大きさっぽかったけど、実物大は違うからな。想像よりも小さくて新谷さんが落ち込まないといいけど。
だが、そんな心配は無用だった。
机に運ばれたパフェは写真で見るよりも大きかったのだ。こんなの二人前でも多いくらいだ。
ラブラブカップルでも「あ~ん」のやりすぎで疲れるレベル。
「思ったよりも多いね」
「でも、二人いるし楽勝」
「俺はあんまり戦力にならないかもだけど………」
そう言うと食べ始めた。最初こそ順調に進んでいたが、途中で俺はギブ。まだ、パフェの半分を残して満腹になってしまった。吐きそうな腹を抑えながら、俺は顔を上げる。
すると、まだまだ余裕という顔で食べている新谷さんがいた。
「これぐらいで、情けない」
「うぅ………すいません」
俺は何とか、スプーンに手を伸ばして口に運んだが無理だった。
もう三年は甘い物はいらないと思う。なんか、肉が食いたい。米が食いたい。
それから、少し経った頃、新谷さんはパフェを完食した。
流石にお腹が一杯になったらしく、さすっている。
「夜ご飯、食べられないかも。
「妹さん?」
「うん、そう」
怒ると怖いのだろうか、新谷さんは身震いをした。
でも、たしかに姉ちゃんもご飯を残すと怖くはないが、注意してくる。うちは姉ちゃんがオカンのように、新谷家は妹がオカンなのかもしれない。まぁ、新谷さんにとってかもだけど。
「じゃ、私の家こっち。だから」
「うん。また、明日ね」
店を出て、少し歩いたとこで新谷さんと別れた。途中でギブアップしたとはいえ、俺もお腹がはちきれそうだ。遠回りして帰ろう。そうすれば、夜ご飯ぐらいは入るだろう。
「あ、お昼ご飯食べてなかった………」
まぁ、腹いっぱいだしいいか。
栄養的に考えたらダメかもだけど。
そして、同じように腹いっぱいで別れた新谷さんは、帰って眠ることだけ考えていたため、夜ご飯を残して叱られたと知るのは明日の話である。
隣席の猫になつかれた。 @iematu
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