ep.4『猫とゲーム』

「今日は、斉藤先生が休みだから自習なー」


代わりに来た先生がそんな風に呼びかけた。

すると、一斉にクラスが騒がしくなる。


「ねぇ、東雲蘭。

ゲーム考えた。しよう」

「新谷さんが考えたの?」

「うん。朝に思いついた」


自信があるのか顔にワクワクと書かれている。

どんなゲームなんだろう。

「しりとり」を改良したりする感じかな。

それか、まったく新しいゲームか……気になる。


「ゲーム名は、嘘か真実か」

「どういうルールなの?」

「お互いに好きな事を言ってそれが嘘か本当が当たるゲーム」


思っていたよりも、ちゃんとしたゲームで驚いた。

そして、面白そうだ。


「先行は私からでいい?」

「うん、いいよ」

「お題は……う〜ん……私は三つ子である」

「三つ子!?」


普通に考えたら嘘だと思う。

しかし、世界には三つ子が存在しているのは事実。

でも、同級生に似てる人なんていないし。

あ、いや、違う学校って可能性もあるのか。


段々と混乱してきた。

新谷さんだからか、どの可能性もありそうという結論に至る。


「答えは決まった?」

「……………嘘だと思う」

「じゃらじゃらじゃらじゃーん、正解。

私は三つ子じゃなくて、双子」

「双子なんだ。え!?双子なの!?」


可能性は三つ子か、一人っ子だとばかり思っていた。

そのせいで、驚いて大きな声を出してしまった。

慌てて口を塞ぎ、辺りを見渡すと周りにはそこまで聞こえてなかったらしい。


「妹は別の学校。私より頭良いからね」

「そうなんだ。凄いね」

「うん。自慢の妹」


それにしても、新谷さんの双子の妹。

新谷さんが二人いる感じなのかな。

だとしたら、問題児2人組になりそうだな。

いやでも、頭良いみたいだし、しっかりしてるのかな?会ってみたいな。どんな感じなんだろう。


「次は、東雲蘭のターン」

「じゃあ……俺には姉がいる。どっちだ?」

「うむ。微妙なライン。ナイスお題」


わぉ、なんか褒められた。結構、嬉しい。

すると、新谷さんは顎に手を当てて考え始めた。

最近、気が付いたのだが、新谷さんは考える時に顎に手を当てる癖があるようだ。


眉間にシワを寄せて、明らかに悩んでいる。

分かりやすいよな、新谷さんって………すぐに感情が表情に出るし。


「質問制度を追加する」

「え!?ずるい!」

「考案者の持つ権利なのだよ、ふふふ」


怪しい笑みと棒読み。

新谷さんがするこのキャラ、結構な頻度で使われてるよな。気に入ってるのかもしれない。


「質問。お姉さんの性格は?」

「う〜ん。のんびりしてるかな。あと、天然」

「答えるまでが早い。本当っぽい」


何か確信したらしく、答えに辿りついたっぽい。

先程までの困惑した表情じゃなくて、自信たっぷりという感じだ。


「それじゃあ、回答は?」

「いると見せかけて、いないと思う」

「正解は、いま………す!」

「うわぁぁ、騙されたぁぁ」


力が抜けるように机にバタリと倒れ込んだ。

「クソォ……」とか「あの時……」など呟いており、新谷さんが珍しく本気で悔しがっている。

なんなら、手足をバタバタとさせて悔しさを全身で表現している。


「勝者:東雲蘭。私の敗北………」

「や、やったー」


それから、「再チャレンジを、勇者」と言うので数回程遊んだ。だが、新谷さんが俺に勝つことは一度もなかった。謎の回答を連発したのだ。

裏をかいて間違い、裏の裏をかいて間違い、裏の裏の裏をかいて間違い………etc.


そんな事をしているとあっという間に自習時間が終了した。今回のゲームで少しだが、新谷さんの事を知れた気がする。しかし、どれも双子の妹がいる衝撃を越えるものはなかった。


◇◆


「ただいま。帰還、無事生存」


新谷の声が静かな家に反響する。

広い家にポツンと一人立ってボーッとしていが、新谷は服を脱ぎ捨てて部屋へと歩いていく。


どうやら、妹はまだ帰ってきていないらしい。

新谷は、パジャマに着替えると、リビングに移動してソファーに寝転がった。しかし、寝れない。


「枕が良くない。やはり、東雲蘭が究極説?」


そう一人で呟いた。

しかし、返事をする人もツッコミを入れる人もいないく寂しいため、新谷はテレビのリモコンに手を伸ばす。

映ったのは、恋愛ドラマ。新谷にはよく理解出来ない内容だが未知の物を見る気分で眺めていた。


こんなキラキラとした生活が学校にあるのだろうか、と新谷は思った。

こんな人が出来たら昼寝する時間も日向ぼっこの時間もなくなるなぁ……と考えながら目を瞑る。


すると、ガチャリという音を立てて誰かが帰ってきた音がした。父親は仕事で忙しく家に帰ってこない。

ならば、帰宅するのは一人だけ。である。


「帰りました……って寝てるんですか」

「いや、起きてる。おかえり」

「珍しいですね。それじゃあ、ご飯作っちゃいますね」


ソファーから手を伸ばしてヒラヒラと手を振って合図をする。顔は見てないが、また呆れた表情をしているだろう。これじゃ、どっちが姉か分からないな……と新谷は眠気に身を任せた。


「お姉ちゃん、カレーとシチュー……って寝てる?」


妹は、だらしない姉に毛布をかけて、ご飯の支度を始めた。

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