ep.3『猫とお昼休み』

「あ……」


今日はいつも一緒にお昼を食べている優太が風邪で欠席なのを忘れていた。

友達の元へと向かおうかと思ったが、今日は何だかゆっくりとお昼を食べたい気分だ。

最近、色々あったからなぁ(※昼猫関係)


今日は人が少なそうな外の場所を探して食べよう。

裏の場所へ行けば、落ち着ける場所だってあるはずだ。


俺はお弁当を持ち、靴を履き替えて外へと向かった。

ベンチなどが置いてある校舎のすぐ下は人が多い。

なら、もっと奥に行こうかな。


少し草が生い茂ってきた。

ここら辺はもう人がいない、向こう側で騒いでいる人の声だけが微かに聞こえてくる。

しかも、人がいないのは、お昼を食べるのに適さないということだ。


「普通に食べるか……」


来た道を戻ろうと振り返ると、すぐ後ろに昼猫がいた。

手をコチラに突き出して、何かをしようとしていたっぽい。


「だーれだ……ってやろうとしたのに」

「なんか、ごめん」


落ち込む昼猫に何となく謝罪をする。

俺に伸ばしていた手は、「だーれだ」をする為のポーズだったのか。

ていうか、いつから後ろにいたのだろうか。

まったく気が付かなかった。


気配をまったく感じなかった。

猫とか動物って気配消したり出来るらしいし、その類なのかもしれない。

俺は一人で納得した。


「お昼、食べるの?」


「あぁ。でも、ここら辺は食べれなそうだな」


「ふふふ、秘密の場所を教えてあげよう」


怪しく笑った昼猫だったが、セリフが棒読みである。

だけど秘密の場所ってどこだろう。

この学校、いうほど広くないし秘密になりそうな場所なんてあるかな。


そんな事を考えていると、俺の手を引いた昼猫がスタスタと奥へと向かった。

すると、日が差す綺麗な場所に辿り着いた。

古びた花壇やベンチがあり、確かに秘密の場所って感じだ。


「ここは、日向ぼっこ最強ポイント」


「こりゃあ、先生が探しても見つからないわけだ………」


すると、どこからかレジャーシートを取り出し、それをベンチに敷いた。

なるほど、これならベンチの汚れも気にならないわけか。

しかし、先生すら知らない秘境があるとはどうなってるんだよこの学校。

それを見つける昼猫もどうなってるんだ。


「お昼、食べよう」


「じゃあ、隣失礼するな」


俺はベンチに座り、お弁当を広げた。

定番な卵焼きなどが詰められた姉お手製弁当である。


うちは母親が早くに亡くなってしまったため、父親が俺と姉を育ててくれているのだ。

家事などは俺も協力しているが料理だけは姉以外、食材の無駄となるため節約ということで姉が担当してくれている。

俺も料理の特訓はしているが、血筋が邪魔をするのか一向に成長しない。


「THE・お弁当って感じ。美味しそう」


「昼猫は、サンドウィッチだけなのか?」


「うん、ツナサンドは絶品」


そういうと小さな口でサンドウィッチを頬張り始めた。

頬が膨らみ、猫というよりハムスターみたいだ。

余程と好きなのか、口の中が無くなる前にかぶりついている。

モシャモシャと両手で頬張っている必死さは、もう少し何かに出せないのか。


「ご馳走様」


「早かったな。何か急いでるのか?」


「うん。この後、睡眠タイム」


「休み時間、短いもんな」


昼猫にしては、急いでいるとは思ったが寝るためだったのか。

というか、こんな最適な場所があるから授業に遅刻してくるのか。

だが、今日は俺もいる。

絶対に遅刻させてたまるか。


すると、昼猫はゴロリと俺の膝に寝転がった。

そのまま数秒で眠りについたらしく、呼びかけても起きない。

これじゃあ、身動きが出来ない。

しかも、俺までも眠くなってきた…………












———————ッ!!


学校のチャイムが鳴り響く。

俺は鳴ってから数秒後、目が覚めた。


スマホを確認すると5時間目が始まる時間だ。

やばい、ぐっすりと寝てしまった。

俺は膝で寝ている昼寝を揺らして起こす。

すると「むにゃむにゃ」と言いながらゆっくりと起き上がった。


「どうしたの?」


「授業が始まるよ!急がないと!」


「えぇ……あと、5分」


「だめだよ!」


俺はウトウトとしており、眠そうな昼猫の手を引いて走り出した。

結局、授業には二人とも間に合わなかった。

あの場所は危険すぎる………禁止区域にしなければ。


「ナイス枕だった、次もよろしく」


席に座り、早々にそんな事を言う昼猫に俺はため息をついた。

そして、昼猫は先程の睡眠時間を取り返すように眠り始めた。


◇◆


「ただいま」

「おかえりなさ〜い」


そう言って玄関まで走ってきたのは、姉だ。

東雲れい、エプロンをつけた姿は姉というか母親のように見える。

別に老け顔とか、そう言う事じゃない。

ただ、漂う雰囲気が大人っぽいのだ。


「ただいま、姉さん」


「あらぁ?くんくん」


そう言うと、大袈裟に俺の匂いを嗅ぎ出した。別に汗臭くはないと思うけど………なんか、嫌だ。

そう思った途端、俺は姉の両肩を掴み、離す。


「どうしたの?」


「いや、蘭ちゃんから女の子の匂いがするから珍しいなぁ〜って思ってね」


「女の子の匂い??」


記憶を辿っていくと、原因が判明した。

今日の昼休みの時の新谷さんのかもしれない。

いや、しかし、頭を膝に乗せてただけだし………そんな分かるほどじゃないと思う。恐るべし姉の嗅覚。


「あらあら、蘭ちゃんも年頃ね。

でも、お姉ちゃん心配だわ。悪い女の子に騙されないか」


「別にそんなんじゃないよ。

それに俺だって子供じゃないし、騙されないよ!」


「ただいマンモス!」


そんな事を言い合っていると、父親が帰宅した。

私服にサングラス、焼けた肌と何の仕事をしているのか不明すぎる。

が、稼ぎはあるので仕事はしているのだろう。


「姉弟で何揉めたんだ。喧嘩はダメだぞ。

あと、家族のラインは越えるなよ!俺が寂しくなる」


「何言ってるんだよ!」


俺はその場をさっさと退散して、自分の部屋に向かう。

うちの家族は危険すぎる。

新谷さんの事とかバレたら絶対に面倒くさい事になる。

絶対に隠し通さなければ…………


そう誓った蘭だったが、すぐにこの決意が無意味になる事はまだ知らない。

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