第三章 クソッタレの人生も悪くないようだ
021 裏側の世界のようだ
どうにも、グレーゾーンに生きる者はほとんど皆、〝キ印〟だ。ごく一部、頭がキレる者もいるが、ソイツらは多分、一般社会でも成功者になれるだろう。
と、自分の置かれた位置を分析できる
日本で一番多い名字と、捕まれば一瞬で周りに避けられる、滅多に聞かない名前。
そんな21歳の青年は、不思議な〝クスリ〟の所為かなにかで、目を真っ赤にする
「キメセクしないの!?」
佐田はなぜか鬼の形相で金粉の塗られた身体を露わにし、氷狩の上にまたがっていた。しかも声が大きい。ご近所迷惑も良いところだ。
「やらねェよ。つか、オマエ〝草〟以外になにかやっただろ? どこで引いたんだよ?」
「近くの公園で〝飴〟引いた!」
「声でけェよ。というか、飴?」
「うん! 氷狩くんも舐める?」
「どういうクスリだよ」
「こういうヤツ!!」
いちいち声のでかい女は、典型的なキャンディーをパンツから取り出した。
「汚ねェなぁ」
「なに言ってるのさ! 3日前、シャワー浴びたよ!」
「3日間もラリってたのか? これ、草どころの騒ぎじゃねェな」
「そんなんどうでも良いじゃん! 私は悲しいんだよ!?
「イチャイチャしてねェよ、って、うわッ!!」
氷狩は主義として〝草〟や〝紙〟といった違法なクスリ全般をやらないが、周りがしばしば溺れているので、それらの副作用はある程度理解している。
しかし、理解はあっても、またがれたまま嘔吐されることはなかった。おかげで5万円ほどした黒いパーカーが台無しである。
「てめェ!!」
「なーに?」
「なーに、じゃねェよ!! ヒトの服にゲロ吐くんじゃねェ!!」
「え、私そんなことした覚えがないよ? げふ、おぶ、ろろろろろ……」
氷狩は佐田を無理やり引き離し、パーカーを彼女の口にぶち込む。そしてタンクトップだけになり、これほどの騒ぎでも起きない金髪碧眼の少女イリーナに呆れつつ、
「クソみてェなクスリ売りやがって……そんでもって、糞まで漏らすと?」
理性を失った猿のごとく、文字通り糞を漏らす佐田。コイツ、女を捨てているとか、男女比率が1:10だから女が男の代用しているとかではない。人間としてどうかしているのだ。
「ああ、チキショウ。イリーナ、いい加減起きろ」
これだけの騒ぎでも起きない、居場所がないがゆえ氷狩と同居している訳あり品の金髪碧眼少女イリーナは、その一声で目を覚ました。ある意味器用なヤツである。
「ん、なに?」
「クソ女が糞漏らしてゲロ吐きやがった」
「通りで臭いわけだね」
「オマエ、大物すぎるだろうよ……。まあ良いや。一応、カエシに備えてホテルに身隠してたけど、こんなところにいたら身体が腐食しそうだ。別のホテル行くべ」
ホテルマンがなんとかしてくれるだろう。通報とか、清掃とか。
そういう末節を氷狩がする必要はない。どうせ、鈴木氷狩は裏社会の人間なのだから。
「面倒臭いなぁ」
「なんかのウイルスに罹りたいのか? 見てみろ。クソ袋がクソを壁に塗ってやがる」
というわけで、氷狩とイリーナは知らぬ顔でホテルから出た。
空は快晴。時刻は夜の10時頃。隠れ家を探すのにも一苦労する時間帯である。
「希依ちゃんのこと、放っておいて良いの?」
「一回パクられるべきだ、あんなヤツ」
わりかし外は寒い。タンクトップと黒いデニムだけでは、職務質問に遭うだけだ。というわけで、氷狩は一番近くに暮らしている女、いや、男に電話をかける。
『んん? ひかるん、なんの用?』
「今からそっち行って良いか? ちょっと面倒事が起きた」
『良いよ~。ちょうど〝撮影〟も終わったし』
「ありがとな」
手短に通話を終わらせる。そうしないと、警察に盗聴される心配が生まれてしまうからだ。
「ヤクザにマッド・ドッグ、しかも
「ポリってなに?」
「警察のことだよ。おれらはポリって呼んでる」
「それって意味あるの?」
「中学のときからそう言ってたからな。セブンスターをセッターって呼んじまうようなモンだ」
「まずセブンスターが分かんないんだけど」
「タバコの銘柄だよ。愛煙してる」
「ふーん。で、これからどこ向かうの?」
「この前、
「ああ、女装しているヒトだね」
「アイツは趣味で無修正ビデオを作ってる。意外と売れるんだと。でも、本業は金貸しだ」
「金貸し?」
「祖父から莫大な遺産を生前贈与されたらしくて、それを元に闇金してるんだよ」
山手夕実。彼女、というか彼は、変わり者だ。なんだかんだ小学校のときから知っているが、趣味がポルノビデオ作成であること、あと、違法金利で色んなヤツにカネを貸していることくらいしか知らない。
「闇金なんて、踏み倒されて終わりじゃないの?」
「アイツは
「どういうこと?」
「潰れかけの会社の社長や事業主を見つけ出し、依存させるんだよ。サラ金や銀行からカネを借りられねェところに、10日1割とはいえ、社員の給料を肩代わりしてくれるヤツがいたら嬉しいだろ?」
「真面目だけど、うまくいかないヒトを探すわけだ」
「そういうこと。お、着いたぞ」
マンションの一角を、氷狩は指差す。
「良いところ、住んでいるね」
「警備員も常在してるし、なにかあったらセキュリティサービスが1分で飛んでくる場所だよ」氷狩はマンションの前で山手に連絡し、「ヤクザは
機械音とともに、正門が開いた。
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