018 宣戦布告っぽいな
カタギであるふたりを厄介事に巻き込みたくない。大事なのは、戦争に勝つことよりもその後なのだから。
「よし、最終確認するぞ。おれと柴田、イリーナの3人で海藤組を襲う。他のヤツらはここで隠れてろ。良いな?」
*
サラも生き残りに必死だ。港に広がる防犯カメラをハッキングし、海藤組の連中の位置知らせてくれた。もしも氷狩たちが負ければ、サラもただでは済まない。
「武器は……
「投げ物なら、10個持ってる」
「準備万端だな。イリーナは持ってないだろ?」
「うん。でも、絶対大丈夫」
港までタクシーで向かい、たどり着いたところで、3人は再確認し合う。
柴田が素朴な疑問をぶつけてくる。「というか、なんで港に武器隠せるんだ?」
「港湾の連中と海藤組が癒着してるからな。揉め事を暴力で解決する代わりに、戦争級の武器を隠させてるのさ」
「まあ、港湾関係なんて昔からヤクザとつながってるか」
「特に、この街じゃあな」
氷狩はサラの出してきた指示に従い、3人を分散させることにした。
「柴田、オマエはサイコキネシスでコンテナの上に乗れ。あの一番高い場所だ。イリーナは、おれからすこし離れたところにいろ。2回も意思の送受信した所為で、頭が割れそうなくらい痛い。だから、ふたりとも援護要員をしてくれ」
「ああ」
「うん」
柴田は糸のような物体で、コンテナの天井に向かっていった。氷狩はハンドガンの安全装置を切り、いよいよ海藤美菜と対峙する。
「なあ、イリーナ」
「なに?」
「シックス・センスに身体を委ねられる時間は、どれくらい?」
「さあ。イリーナの場合は3分くらいかな」
「長くもって3分か……。シビアだな」
「というか、海藤美奈の能力は割れているの?」
「ああ。サラいわく、アイツはビームを生み出すらしい」
「ビーム」
「レーザビームといったところだな。シックス・センスがなければ、近づくこともできない。あの女が四方八方にレーザを撃てば、おれたちは一瞬で丸焦げだ」
「それを剥がして、撃つってこと?」
「いや、まだ隠し玉がある気がしてならねェ。能力と、もうひとつなにかが」
柴田雫と交戦したとき、あれだけの速度で詰め寄った佐田の攻撃をくらっても、彼女はピクリともしなかった。まるで鋼鉄やダイヤモンドみたいに、身体を硬化させる術式を持っているのかもしれない。
「それって、〝闘志〟じゃない?」
「闘志?」
「そう。イリーナも詳しくは知らないけど、この世界での能力の基礎になった力。人間は目隠しされた状態で、水をポタポタ垂らされるだけでも死に至るっていうでしょ。脳が出血多量だと勘違いして。なら、相手を本気で殺してやろうと思えば、身体を鉄みたいにすることだってできるはず」
「殺意そのものってわけだ」
「そういうこと」イリーナは無表情を崩さず、「殺意が高ければ高いほど〝闘志〟の力は強まっていく。だから、殺してやろうと思わせる前に蹴りをつけたほうが良いと思う」
「そうだな。全くもって、そのとおりだ」
相手は
「この距離じゃ届かねェな」
氷狩とイリーナは海藤組の連中を眼中に捉えた。ひとりを除き、全員女だ。ここが男女比率1:10の世界である以上、当然といえば当然だ。
そして9ミリパラベラム弾では、数十メートル離れている彼女たちを狙撃できない。ある程度近づく必要がある。
そこで柴田の出番だ。氷狩はインカムを使い、
「ターゲット発見。見えるか?」
『ああ。豆粒みたいだけどな。おれの能力で無理やりそっちへ近づけることもできるぞ』
「なら、そうしてくれ」
『ああ』
短い会話で、柴田は自身の能力を使い彼女たちを空へ浮かせる。
「さて、イリーナ。ガンダだ」
それにあわせ、氷狩とイリーナは海藤組の幹部と親分との間合いを走って狭める。
声が聴こえてくる頃、氷狩は拳銃を取り出して、空に浮かんでいる連中を撃ち落とそうとする。
だが、照準が合わない。ふわふわ浮いている連中にまともに弾を当てるのは、自衛隊の最精鋭でも難しい。であれば、半グレの氷狩には不可能だ。
『あと数秒も保たねェ。どうする、氷狩』
「なんとかしてみせる。最悪、オマエも地上へ降りて援護してくれ」
『了解』
案の定、連中は地面に叩きつけられた。残った弾数は5発。敵は5人。もう、ピストルは役に立たない。
そんな中、地面に叩きつけられ、本来なら死んでいるであろう連中は、不敵に笑った。
「おうおう! 痛てえじゃねえか!!」
やはり〝闘志〟を身体にまとわせているようだ。身体が鋼鉄で構成されているのなら、納得が行く。
そして、それはつまり、彼女たちの殺意が高ぶっているというわけだ。
「痛いだけで済むなら、まだ良かったじゃないか」
「そういう問題じゃねえんだよな」
黒いロングヘアの女。サラの情報が正しければ、彼女が海藤美奈だ。
「……、イリーナ、下がってろ。カタギのオマエを巻き込むわけにはいかねェ」
氷狩と海藤美奈の激突が始まる。幹部たちは余裕そうな表情で、腕を組みながら虐殺の目撃者になる構えだ。
そんなとき、
イリーナの目が赤く光った。
「ぐっ!?」
海藤美奈を除く幹部たちは、その場にへたり込んだ。おそらく、シックス・センスの送受信を行ったのだろう。露払いには十二分だ。
「おお、シックス・センスか」
それでも、海藤美奈は不敵な笑みを見せるだけだった。
「でも残念。〝威圧感〟の前じゃ、小手先の能力は無意味なんだよ」
(威圧感? 良く分からんが、そうポンポン繰り出せる技でもないだろうな。それができるなら、コイツは今頃世界征服を完遂させてるはずだ)
氷狩は、やはり冷静だった。落ち着き払い、相手の弱点を探す。
そのとき、
明らかに人間の脊髄反射ではかわせないレーザビームが飛んできた。ロックンロールのような音とともに。しかも、そのビームは数十発。港のコンテナや器具をすべて破壊しつくす勢いだ。
しかし、それらは当たらなかった。まるで宣戦布告のように。
ならば、
「……おもしれえ。身体のすべてをシックス・センスに委ねたか」
氷狩の目が、赤色に染まった。
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