015 世の中うまくできているっぽいな
「ッッッ!?」
柴田公正の胴体に、高山の糸が突き刺さった。
「ほらぁ……、公正は私といっしょに死ぬんだよ。そしていっしょに輪廻転生して、別の世界できっと幸せを手に入れて──」
そんなとき、
高山美紗希の頭上に、めくれたアスファルトが落下した。
意識が薄れゆく柴田は、その攻撃を繰り出した者を見る。
「ンだよォ!! しけてるなァ!? 柴田ァ!!」
目が真っ赤に染まった、鈴木氷狩がそこにいた。
「アヒャヒャヒャ!! ここからはおれの独壇場だ!! おらァ!! かかってこいよォ、茶坊主どもォ!!」
氷狩の異変に、柴田は驚愕の表情を浮かべた。親友が、まるで別人になってしまった。
「氷狩……、オマエ──」
柴田公正の意識が薄れていく。もう言葉を発するのも苦しい。
そして、
氷狩のシックス・センスで意識を失っていた警備員たちが、ライフルを担いでこちらへやってきた。
「この、イカレた殺人鬼が!!」
「あァ……?」
瞬間、氷狩はとても人間とも思えない速度で、彼らとの間合いを狭める。そのままライフルを奪い、全く容赦なく乱射していく。
「ぎゃああ!!」
「クソッ!! オマエは、何者なんだ……!?」
「さァな!! オマエらに答える義務はねェだろォよ!!」
命の灯火が乱雑に消されていく。氷狩の凄まじい速度の前に、誰も彼もかなわない。
「怪物、め……」
やがて、数十人配置されていた警備員はすべて息絶える。もはや、氷狩の暴走を誰も止められない。
「ほら、どォした? おれを止めてみろよ」
氷狩はせせら笑う。
柴田は意識を失い、高山はコンクリートに押しつぶされた。この場を手打ちにできる者は、いない。
だが、こんな暴走状態がいつまでも続くわけない。氷狩の目から、徐々に光が消えていく。
そんな中、
氷狩は、膝をついた。彼の目が赤色から元の黒色に戻り、青年は内蔵をやられたかのように、赤黒い血を垂れ流す。
「ぐほォッ!!」
氷狩は意識を失った。
*
『氷狩さんが……やられました』
いつまで経っても戻ってこない氷狩を訝った神谷海凪は、サラへ連絡していた。そして、情報屋はそんなことを言った。
「嘘でしょ……? 氷狩が敗れたってことなの?」
『ええ……。その可能性が極めて高いです。神谷さん、これからどうするつもりですか?』
「まず、氷狩の身柄確保よ。私たちの組織〝カンパニー〟総員で、氷狩を救出するわ」
『正気ですか?』
「本気よ。私たちは少数派。仲間見捨てられるほど、人手が足りているわけではない」
『承知しました。私も今からそちらへ向かいます』
「ええ。すまないわね」
『いいえ』
神谷は、ひとり頭を抱える。氷狩を見捨てるのは現実的な案ではない。もし彼が自白剤で神谷たちの犯罪を吐いたら、彼女たちは一網打尽にされてしまう。
しかし、相手はマッド・ドッグ。日本の裏そのもの。そんなのを相手に、小勢の神谷たちになにができるというのか。
「……んん」
そんなとき、もうひとりのシックス・センス、いや、シックス・センスの原石が目を覚ました。
「なに慌てているの?」
シックス・センスそのもの、イリーナは、至って冷静な口調だった。
「貴方には関係ないわ。子ども巻き込むほど、私たちも腐っちゃいない」
「イリーナ、18歳だよ」
「え?」
「まあそんなこと、どうでも良い。あのヒトは? ああ、いや。答える必要はないよ」
イリーナは顎に手を当て、
「なるほど。マッド・ドッグの幹部を拉致しようとして、返り討ちにあったと。だったら急いだほうが良いね。イリーナの代わりとして、脳髄まで抜き取られるかもだし」
「の、脳髄……」
「大丈夫。イリーナはそんなこと許さない」
*
「大金星だ! イリーナは逃がしてしまったが、今ここにシックス・センスの代用品がいる。それに、柴田公正も、だ。これでCEOに詰められずに済むだろう!!」
マッド・ドッグ幹部の女は、拘束された鈴木氷狩と柴田にご満悦といったところだった。幹部の部屋には多数の警備員、いや、兵士が集められ、アリ一匹も通さない警備が張られている。
部下がなんとなく訊いてみる。「しかし、これからコイツらはどうなるんでしょうね?」
「脳みそをケーキみたいに分割し、能力の解析だろうな。シックス・センスに〝サイコ・エナジー〟にはそれだけの価値がある。それに、生かしておいても良いことはない。こんなところに突っ込んでくるような連中だし」
止血を施されただけの氷狩は思う。(冗談じゃねェぞ……。マッド・サイエンティストどもの餌食になるのはゴメンだ。死に様くらい、自分で選ばせろよ)
柴田はなにも言わず気絶しているが、おそらく同じことを考えているはずだ。
ならば、
イリーナが使った、そして、このマンションへ侵入する前へ氷狩も使ったあの術式を使うしかない。
頭痛がひどく、吐き気も収まらない。次、あんな負担の大きい技を使ったら死ぬかもしれない。
だが、死に様を選ぶとしたら、もうそれ以外に方法はない。
幸いなことに、能力自体は生きている。シックス・センスによる、意思の受信はできる。
問題は、如何に勘づかれずあの術式を使うかだ。
(できれば死にたくねェが……、四の五の言う暇はない。よし──!!)
氷狩は顔を上げた。兵士みたいに装備を整えている警備員も、幹部も、氷狩が顔を上げたことに気がついていない。
ここが人生の分かれ道。やらないで死ぬくらいなら、やって死のう。
氷狩は、目を見開いた。
「──ぐっ!? 意識が、クソッ!! てめえか!?」
「バーカ、油断し過ぎだ……!!」
バタバタ、とヒトが倒れていく。うめき声をあげながら。
だが、ここが氷狩の限界でもあった。シックス・センスで敵性を気絶させても、拘束具は外せない。
(……、そうだよな。これはおれがひとりで請け負った仕事だ──)
そのとき、マンションにロケット・ランチャーの弾丸みたいな、なにかが吹き飛んできた。ガラスが割れるが、氷狩へはかろうじて破片が刺さらなかった。
「……世の中、うまくできてるな」
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