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「わかった」

「えっマジで?いくらくれんの!?」


前のめりになる女に男は懐から如何にも高そうな黒財布を取り出し、中からカードを引き抜いた。


「ほら、コレ」

「えっ……」


差し出されたカードを不思議そうに見つめる女。しかし、男は気にも止めずに言う。


「どうした、受け取らないのか?」

「いや、あの……お金」

「こっちの方が手っ取り早いだろ。好きなだけ使え。支払いは此方でする」

「い、良いのか……?」

「あぁ」


ピッと差し出されたカードに女はゴクリと喉を鳴らした。震える手を伸ばし、女がカードを手にした瞬間、男はニヤリと笑い告げる。


「但し、これを受け取った場合は有無を言わさず私の嫁になって貰うからな?」

「え……はぁっ!?」


急な申し出に思わずカードを手放そうとした女だったが、その前に手を掴まれ、男の方へと引き寄せられた。


「これは共有資産だ。結婚を前提にして貰わねば使えん」

「ふざけんなっ!これって慰謝料だろッッ!?」

「だから払うと言っている……なに、使用するのに条件がつくだけさ」


そう耳元で囁かれた女は戸惑っていた。慰謝料を貰うのが前提だった女にとって、嫁になるなど一切考えていなかったうえに、相手が前世の宿敵となればこの申し出は受け入れ難いものだった。

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