とある早朝の配信者

──はい、じゃあ今日はこの辺でね。今日はっていうかもう朝ですけどね。今何時?えーっと……4時55分!?まじで朝じゃないですか。え、皆さん大丈夫ですか?暇なんですか?あ、ごめんなさい。観てくれてありがとうございます。本当にありがとうございます。良ければチャンネル登録と高評価お願いしますね。本気で収益化目指してるんで。えーと、『登録するよー』。ありがとうございます。『収益化言うな』?いやー、変に隠すのもアレじゃないですか。じゃああんた何のために配信やってんのよってなりません?『正直すぎる』、いいんですよ正直に生きましょうよ。

 じゃあ本当にね、ありがとうございました。またお会いしましょうねー。アーカイブも残しますんで観てくださいねー。それでは、ぽちっと。

「……ふーーー」

 カーテンの向こうが薄ら明るい。ヘッドホンを外すと蒸れた耳がじんじんした。眼鏡も外して鼻の頭を揉む。ちょっと前からガンガン頭痛がしている中、配信をやり切った私を誰か褒めてほしい。

 大学に入ってから色々バイトはしているが、とにかくお金はどれだけあっても困るもんじゃない。配信して収益を得ようという発想になったのも、わりと浅い動機だ。どうしたら金になるのかを考えた結果辿り付いたのが、今のエロゲ実況スタイルだ。

 世の中には「女子大生が」「エロゲやってる」ってだけで見る層がそれなりにいると聞いたのがきっかけだった。セールで安くなっている同人ゲームを適当に見繕った。顔はネコミミヘッドホンと眼鏡かけてフィルタ通せばどうにかなる。体型はもこもこパンダパジャマで誤魔化した。部屋は暗く、デスク周りだけ照らす。うっすらベッドや普段着(笑)が映り込んでいるとより高評価が狙える。まあそんな感じで、コンスタントに配信を続けてもうじき収益化も見えてくる、というところまでチャンネルを育てた。

 それにしても頭痛がひどい。配信中にこっそり頭痛薬を飲んでみたが全然治らない。もう1錠、エナジードリンクの余りと一緒に流し込む。ずっと画面を見ていたせいか視界もおかしい。今日は午後から大学。少しでも寝とかないとダメか。なんかもう体を起こしてるのも辛い。配信用のカメラが物理的に切れているのを確認すると、ゲームは起動したままベッドに倒れ込んだ。ハンマーでぶっ叩かれるような痛みの中、私の目に映ったのは3つの穴に突っ込まれて豊満な乳を揺らしている赤髪の悪役令嬢、カメリアの姿だった。

 これが私が現世で見た最後の記憶。次に気が付いた時には、私は見たこともない豪奢な天蓋付ベッドの中、赤髪の公爵令嬢カメリアに転生していたのだった。

 何言ってるのか分からん?私にも分からん。ひとつ言えるとするなら、頭痛をバカにしちゃダメだってことだね。まじで。

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