破滅回避対策脳内会議 1

 転生した私はひとしきりパニックを起こしたが、適当にあしらう公爵家の優秀な使用人の皆さんに助けられつつ落ち着きを取り戻した。とりあえず寝たら覚める夢ではなさそうなので、まずやるべきことは状況把握だ。鼻息も荒く紙に羽ペンで思い付くまま書き付けていく。

 ここはR18ゲーム『救済の聖処女と運命の番』の世界。某サイトの99円セールで買った。魔法が使えるファンタジーな国の魔法学園で、癒しの魔法が使える主人公スピレアが運命の男と結ばれていくストーリーだ。ジャンルとしては乙女ゲームの区分だろうか。がっつり男性向けエロゲの方が配信向きなのかもしれないが、個人的に絵柄が気に入ったので選んでみた。まあこれはこれで「こういうのでオナニーしてるんでしょニヤニヤ」みたいな客層が釣れたからいいけど。いやそれはともかく。

 この世界で魔法が使えるのはほんの一握り。希少な才能を権力者が奪い合い取り込んだ結果、魔法使いは基本的に貴族身分にしか生まれなくなった。そんな中で、突然変異的に魔力を持って生まれた平民の娘が王立魔法学園に入学してくる。周りにいるのは貴族の子弟。身分と生活水準の違いに苦しみつつも、攻略対象者達と愛を育んでいく。全年齢向けならクライマックスはキスで終わるところだが、このゲームはがっつりヤる。なんならファーストコンタクトがレイプだったりする。なんでそれで愛が育めるのだろうか。主人公のスピレアはちょっと頭とお股がゆるふわなところがある女の子で、私は全く共感できなかった。ゲームのやり込み要素として逆ハーレムルートも用意されているんだけど、複数の男からチヤホヤされるだけではなく全員とヤりまくるんだよ?どうなん?それ。

 で、そんな攻略対象者の1人がミュゼ。私、カメリアの弟。といっても、私が転生してパニクっていた時点ではまだミュゼはいない。これから魔法学園入学までの間に、父である公爵様の愛人の連れ子としてこの公爵家にやってくるのだ。つまり、公爵家の血は流れていないし、カメリアとの血の繋がりもない義理の弟である。当然、ゲームのカメリアはミュゼをいじめ抜く。精神的にも肉体的にもミュゼを傷付けるカメリアを、公爵家の使用人達は止めもしない。母親は低位貴族の未亡人で公爵の言いなり。誰も味方のいない公爵家で愛に飢えて育ったミュゼは、魔法学園で誰にも分け隔てなく接するスピレアと出会い……。というのが、ミュゼルートの導入部分である。

 出会ってからのあれこれはひとまず置いておくとして、私、カメリアは攻略対象をいじめる悪役令嬢、いじわるな継姉としてゲームに登場する。同じ魔法学園に在籍しながら平民の主人公など歯牙にもかけない傲慢な態度。平民女に引っ掛かる愚弟をより苛烈に虐待するカメリアは、やがて主人公の愛に支えられたミュゼに反撃され、魔法学園を退学となり修道院に送られる。全年齢版ならそこまでだが、このゲームはR18。修道院への道中で盗賊団に襲われたカメリアは無惨に輪姦されることになる。それが私が現世で最後に見たシーンである。悪の栄えた試しなし。いわゆるざまぁ展開というやつだ。

 つまりまとめると、この公爵家にやってきた弟を調子こいていじめていた私は、どこぞの小汚いおっさん共の慰み者になる運命。────いや待って!?それは嫌。絶対に嫌。何その雑にレイプしとけば撮れ高稼げるやろみたいな発想。やる気の無い邦画かよ。他人事ならともかくこれは私の身の上に降りかかる破滅なのだ。はいそうですかと受け入れられるわけがない。

 うがーと紙が真っ黒になるまでペンをゴリゴリ走らせた私は、それを暖炉に投げ込むと破滅回避対策脳内会議を始めた。

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