第3話
逃げるように桜木さんが帰った放課後、ボクは好きな小説の新刊が発売されていたのを思い出し、帰り道にある本屋まで来ていた。ここは古本から新作、海外のマニアニックな本から有名な童話まで幅広くおいてある個人経営にしては結構大きめな本屋で、地元の人がよく使うお店だ。
「え〜と、ラノベはこの棚で、〇〇社だからkの………あった!これだ!スライムさんの建国日和!このお店色々あるのに在庫が少ないからもう無くなっちゃったかと思ったよ」
早く読みたい気持ちに急かされて、足早にレジに行く途中、フードを被った同じ制服の子が目に入った。
う〜…ん、と背を伸ばして上にある本を取ろうとしているようだけど、残念ながらその子の身長では届かず、ぴょんぴょんと跳ね出した。
「大丈夫?ボクが取るよ?」
びっくりさせないよう、少し離れた位置から声を掛けたのに、びっくりしたのか肩をビクッと震えさせたその子は振り返りながら言った。
「い、いえ……わたしは大丈夫なので、それではっ!」
僕の肩よりも小さく、ブンブンと揺れるすこし脂の浮いた黒く長い前髪にオドオドした黒目をぐるぐると回した彼女は、挙動不審な指をバババッと手話の如く変えたかと思うとくるりと体を翻し、出口へ駆けていった。
あれ?そういえばココ、R18のBL本売り場じゃなかったっけ?
「だ、誰にも観られないよう出ないと……!」
「きゃ!きゃぁぁーーー!」
僕が一人、未知の領域に震えて出ようとすると、先ほどの女の子の声がして、大きくて重い物が倒れた音がした。
「だ、大丈夫ですか!?」
すぐに出口に向かい、事件現場?を確認しに行くと、そこには先ほどの女の子ともう一人、この本屋の制服を着た桜木さんがお互い頭とお腹を押さえて倒れ込んでいた。
「いたた……何処をどう見て大丈夫って言うのよ、兎塚くん。」
お腹を押さえつつ、段ボールとそこから散らばった本にはぁ、とため息をつきながら僕を非難してくる桜木さん。
「ぼ、ボクは取り敢えず安否確認をしただけで……ってそれより桜木さんがなんでここの制服を!?」
「別におばあちゃんのお店なんだし私が手伝っていても変ではないでしょ」
初耳だった。今更ながらに隣の席の彼女のことを何も知らないと感じた。と、いうかそれが普通なのだろう。そもそもただのクラスメイトに家族構成や普段の生活、バイトの有無なんて中の良い友達にしか喋らないだろう。
「た、確かに変ではないけど……その制服、丈があってなくて少し着崩れしてるね……」
「兎塚くんは結構モラルがないのね……これお父さんの小さい頃のお下がりだからそこそこヨレているのは当たり前よ」
な、なるほど……
と、そこまで桜木さんと話していると、横からにゅっと手が伸びてぶんぶんと主張する人が現れた。
「わ、わぁ〜、わたしの事を無視しておしゃべりとはずいぶんとえこひいきですね!」
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ダウナー少女に兎の愛を 堕落しきっただいてんし(笑)クゥーウェル @kuu--narou-kakuromu
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