第19話 悪役令嬢にざまぁされたくないので、知りましょう⑤
「大丈夫だよぉ。元婚約者だった令嬢は、隣国の伯爵令息と結婚したから。オレ等より五歳上でね、王子に婚約者がいないと周りが煩いだろうからって、仮で婚約してたんだぁ。あ、その令嬢ってのがデフュームの姉ちゃんね。婚約解消、すっごい喜んでたよぉ。やっと開放されたって」
「そうなんだ。デフューム様のお姉さんも大変だったんだね」
「だろうねぇ。嫌がらせも多かったみたいだし。あとから聞いた話だけど、彼女が学園に入学する一年前までって話だったらしいよぉ」
高位貴族って大変なんだなぁ……。
物語の世界みたいなことが当たり前みたいに起きてるんだもん。
「それで、達成報酬が、婚約解消後一年間は雲隠れをして、その後は自由にさせてもらうってことだったんだよ。晴れて自由の身になって、留学先で恋愛結婚したんだよぉ。かっこいいよねぇ」
うん、かっこいい。
この世界の令嬢たちの自由は少ない。高位貴族になればなるほど、家のための結婚が当たり前になってくる。
それを
自由になったとしても、幸せになれるとは限らない。もっと苦労をするかもしれない。不安もあっただろうに、戦ったんだ……。
「すごいね……」
陳腐な言葉しか出なかった。けれど、この一言しか浮かんでこない。
「そう。すごいんだぁ。それで、残ったオレ達は、王子の婚約者となった彼女の傍にそのまま居続けた。オレは婚約者がやっぱりいなかったし、彼女のことが面白かったから。あと──」
「あと?」
「証拠を集めたくってさぁ」
「証拠?」
って、何の? 今の話で証拠が必要なことあった?
「王子は除外になっちゃうけど、それ以外の奴等が婚約者にした仕打ちの証拠だよぉ。だって、自分を一番優先してくれる相手が既にいるんだよぉ? 許せないでしょ?」
あ、悪い笑顔だ。これって、さっき聞いた企んでる話のことだよね?
「集まったの?」
「着々とねぇ。一つでは弱くても、それが重なれば考えなくちゃならなくなる。もちろん政略結婚だから、よその女の尻を追いかけていたって、破棄まではいかないだろうけどねぇ。でも、相手の家には抗議すると思うよ」
「うん。自分の家の娘が酷い目にあってるのに、黙ってられないもんね」
「違うよぉ? 相手の家より優位になるためだよ」
……え? 優位になるため?
まさか、娘のためではなく、そこでも家の利益のために動くっていうの?
「娘のために動くなら、とっくに動いてるはずだからね。あいつ等はパーティーでも最低限しか婚約者の相手をしないからさぁ。知らないはずはないんだよぉ。でも、最低限は守ってるから、黙認してる」
「そんな……」
「それが貴族ってものだよ。家の利益よりも、子どものために動ける家は少ないんだぁ。余程の余力がないとねぇ。だって、家が傾けば、領地の民が飢えるからさぁ。貴族の家に生まれるってことは、領民の命を背負うことなんだよ。まぁ、うちは代々騎士で領地を持たないから、関係ないけどさぁ」
「それなら、何代か前に領地を返上しちゃって、爵位だけ残っちゃったうちも無関係じゃない」
「そうだねぇ」
のん気な声でレフィトは返事をした。
つまらない話と言いながら、レフィトは教えてくれたのだ。教科書にも載っていないし、学園でも教えてくれない、貴族としての一般常識を。
それを知れば、何であんなにも令嬢たちが一丸となって私を排除しようとするのか、少しだけ理解ができた。
マリアンが令嬢たちの絶対的頂点に君臨し、取り巻きの婚約者たちが、不満すら口にしないのかを──。
「無関係だから、できるんだよぉ。きっと、あいつの周りには王子しかいなくなるよぉ。そして、王子も王位継承が危ぶまれるかもねぇ」
「王子は婚約者と一緒にいただけだから、関係ないでしょう?」
「まさか。婚約者を放りだした子息たちと一緒になって、自身の婚約者である令嬢を愛で続けてるでしょ? 本当なら、婚約者を優先するように注意するべきなのに」
うーん。確かにそうだけど、それは王子の責任じゃないよね。
というか、王子からしても取り巻きがいない方がマリアンを独占できるはずなのに、どうして?
「王子はねぇ、未来の側近になるであろう彼等とどう接するのかも見られてるんだぁ。オレには、王子が王の器には見えない。長男だからと王位継承ができるわけじゃないんだよぉ。素質が欠如すれば、他の王子が継ぐことになる。王は、今の彼をどう思っているんだろうねぇ?」
あまりにも不穏な話だ。個室だから周りに誰もいないと分かっているのに、キョロキョロと周囲を警戒してしまう。
「いざとなったら、隣国で一緒に暮らそうかぁ? もちろん、カミレの家族も一緒に行こう。
その伝手が誰なのか分かってしまった。
きっと今でも連絡を取り合っているのだろう。
「デフュームのお姉さんには、惹かれなかったの?」
「あれぇ? もしかして、ヤキモチ?」
からかうように言ってくる。けれど、その視線には小さな期待が見え隠れしている。
頷こうとした。けれど、できなかった。
レフィトに惹かれてる。それは、間違いない。この感情を恋愛感情だとも分かっている。
だけど、これからもっともっと好きになって、レフィトがいない生活があり得なくなって、そんな時にマリアンのところに行ってしまったら?
レフィトはそんなことしない。そう思ってるのに、頭の中で囁いてくるのだ。
ここは、悪役令嬢がヒロインの世界で、私はざまぁされる運命なのだと──。
あぁ、こんなにも与えてくれているのに、不安になる原因は
私はずっと恐れているのだ。向かってくるなら戦うと決め、ざまぁされてたまるかと意気込んだ今でも。
結局、ざまぁされるのが怖いのだ。
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