第17話 悪役令嬢にざまぁされたくないので、知りましょう③
「カミレが何と言おうと、オレにとっての最優先はカミレだから」
どこか硬い声。感じた拒絶は気のせいじゃなかったのか。
「うん。でもね、私はレフィトにとって好きなものがもっと増えたらいいと思うんだけ──」
「オレには必要ない。カミレがオレのすべてなんだ……」
うぐぅ。想像以上に重たい。でも、これって良くないよね。何をするにも、私ありきになっちゃうよ。
説得できるかな? 今は無理でも、気付くきっかけになれれば……。
「私ね、すごく好きなものがあるの。でも、それはレフィトと比べることじゃないと思ってる。両方大切でいいと思うんだ」
「オレ以外に好きな男がいるってことぉ?」
な、何でそうなった!?
さっき、まくしたてられた時も怖かったけど、今の笑みの方がめちゃくちゃ怖い……。
目に光がまったくないよ? え? 闇落ち? 闇落ちしたの!?
でも、元々ヒーローっぽくはなかったよね……。ダークサイドよりの発言が多かったし。いや、私にとっては、助けてくれるしヒーローだったけども……。
「違うよ。趣味嗜好の話だよ。たとえば、好きなシリーズの本の発売日に、私からデートに誘われたとするでしょ? そういう時は、本を優先すればいいってこと。何でもかんでも優先する必要はないって言いたいだけ」
「そういうことかぁ。カミレは好きなことを優先していいよぉ。カミレの大切なものは、オレも大切にしたいからさぁ。でも、良かったよ。たとえが本で……。てっきり、デフュームのことも好きって言うのかと思ったからさぁ」
「…………はい?」
デフューム? 何で? 確かに、彼は前世で推しだった。何なら、今でも見た目だけなら一番好みだ。眼鏡をかけているから。
今日も
「だって、よく見てるよねぇ?」
ヒウッ!! こっわーー!!
怒ってるんだよね? 目は闇落ちしてるのに、笑顔なんだけど……。
というか、何で私が時々デフュームを見てるって、知ってるの? 見てるって言っても、チラッとだよ? 何なら視界の片隅に入れて、直視せずに楽しんでたのに……。
すごい執着……。いや、執着されてるのは分かってたけど、想像以上というか……。
うーん。不安……なのかな? 仕方がない。白状するか。デフュームを見てたのがバレてる時点で、半分くらいバレてるわけだし。このままデフュームのことが好きだと勘違いされるよりはいいよね。
「実は、眼鏡推しなの……」
「…………はい?」
「眼鏡推しなのっ!!」
「眼鏡おし?」
あ、これ本気で分かってないやつだ。
え? 説明するの? 推しについて?
「あー、つまり眼鏡をかけた人に魅力を感じるってこと。デフューム様のことは、今日も眼鏡似合ってるなぁ……とは思ってたけど、恋愛感情はないし……」
「今度、デフュームの眼鏡破壊しとくよぉ」
「えっ!? 何で!!?? もったいない!!!!」
…………あ、やったわ。
衝撃的過ぎて、心の声が漏れてしまった。
怖い怖い怖い……。笑ってたのも怖かったけど、無表情も怖いんだけど……。
「本当に、ただ眼鏡をかけた人が好きなだけなの。そこに、愛でる以外の気持ちは一切ないから!」
「ふーん。愛でてるんだぁ?」
……あれ?
「じゃあさぁ、学園長も推してるの?」
「へっ!?」
「学園長も眼鏡だよねぇ。愛でてるのぉ?」
が、学園長!? た、確かに学園長も眼鏡だ。
眼鏡なんだけど、顔がしっかりと思い出せない。教育熱心そうなおじいちゃんだな……という記憶しかない。
なんと、私の眼鏡推しは、イケメンに限るものだったみたいだ。困った。何て答えたら……。
「やっぱり、デフュームだけかぁ」
「そ、そんなことない!! レフィトが眼鏡をかけたら、デフューム様のことは視界にすら入らないから。存在、霞むから!!」
デフュームと学園長を比べるのが悪い。何でおじいちゃんとイケメンを比較したのよ。イケメンには、イケメンをぶつけないと。
それに、レフィトが眼鏡をかけたら最強なのは事実だし。
だ、駄目だよ。今、想像したら駄目だ……。
わんこの時のレフィトの眼鏡姿も可愛いけど、闇落ちした時の眼鏡姿もまた……。
やばい、よだれ出そう。鼻息、大丈夫かな……。
「……うーん。
首が痛くなるんじゃないかってくらい、何度も頷いた。
そんな私を眺め、レフィトは首を傾げた。
「カミレは、オレが眼鏡をかけたら嬉しい?」
「すんっっごく嬉しい!! レフィトが優勝!! 圧勝だよ!! あ、でも、尊すぎて直視できないどころか、鼻息が荒くなって、下手したら鼻血吹くかもしれない」
「そんなにぃ?」
くすくすとレフィトは笑う。目にも光が戻ってきている。どうやら、闇落ち回避ができたらしい。よかったぁ……。
「できればだけど、眼鏡をかけるとしたら私の前だけにして欲しい」
「どうしてぇ?」
「ライバル激増だから」
「……ライバル?」
「私と婚約した後も、縁談の申し込み来てるでしょ?」
「……え?」
かまをかけたけど、やっぱりかぁ。
そりゃ、来るよね。貧乏な子爵家の娘が相手なら勝てると思うでしょうよ。私が逆の立場でも、勝てると思うもの。
「全部断ってるよぉ? もし、心配なら──」
「断ってくれたら十分だから!!」
危なかった……。また、闇に行きかけてたよね?
何を言おうとしたんだろ? 知りたいような、知りたくないような……。
「もし、レフィトが眼鏡をかけたら、縁談の申込みが今の比じゃなくなると思う。相手もなりふり構わなくなるだろうし、危険だよ」
カッコ良すぎて、血迷う令嬢が出てもおかしくない。
うん、危ない。いくら、レフィトが強くても、危険は避けるべきだと思う。
「デフュームも眼鏡だけど、危険なのぉ?」
「デフューム様? 大丈夫なんじゃない?」
まだデフュームの話題が出るのか。
そもそも、デフュームの婚約者って侯爵令嬢だから、他の家や令嬢から狙われることなんて、ほとんどないんじゃないかな。知らんけど。
というか、デフュームって婚約者のこと放ったらかしで、いつもマリアンといるよね。
あれ? それって普通に考えて、最低じゃない? 他の取り巻きたちもだわ。婚約者、いるんじゃないの?
「今気づいたけど、デフューム様は最低だから、別の意味で危険だと思う」
「だろうねぇ」
「婚約者はどう思ってるんだろう……」
「さぁ……。良くは思ってないだろうねぇ」
そう言って笑うレフィトの目は、本当に楽しそうで……。
「何を企んでるの?」
「別にぃ? 今すぐどうこうしようとは、思わないよぉ? でも、種は蒔きたいよねぇ」
なるほど。私には言えないということか。少しムッとしたのがバレたのか、絡められた指の力をレフィトはほんの少しだけ強くした。
「オレね、婚約者がいるのに別の人にベタベタするの、最低だと思うんだよねぇ。政略的な婚約だから、不満もあるだろうけどさぁ。でも、それってお互い様だと思わない?」
確かに、そうだろう。
放置され、
「いつか破綻するだろうな……。楽しみだなぁって思ってたんだけど、それを積極的に手伝ってもいいかなぁって思うんだぁ。特に、デフュームには地獄を見せたいしさぁ」
それって、私が眼鏡推しだから? 他に理由が見つからないんだけど……。
「何でデフューム様だけ、そんなに……」
「分かってるでしょぉ? オレにはカミレだけなんだぁ。カミレの興味を奪う男なんて、いらないよねぇ。それに、マリアン嬢のことも許さないからさぁ」
あ、何か逸れてた話が元に戻った……。
何が何でも私が最優先。世の中はまるで、私と私以外。
これが、世にいうヤンデレかぁ……。
ヤンデレって、緩和するのかな……。怖い時もあるけど、嫌とかじゃなくて、レフィトの世界がもっと広がればいいのにって思うんだよね。
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