第14話 悪役令嬢にざまぁされたくないので、敵じゃないとアピールしようと思います その後
次の日、学園へ行けば既に噂は広まっていた。
その内容はこんな感じだ。
・レフィトを脅して婚約した。
・レフィトを従者のように扱っている。
・クラスメイトの私物を盗んだ。
・ドレスを貸してくれると言ったマリアンの好意を断り、二度と関わるなと言った。
・男子生徒に色目を使っている。
「何だか、悪女って感じね」
一日も経っていないのに学園中に広まっていることを疑問に思いながら、隣を歩いているレフィトに話しかける。
「絶対に王子たちの仕業だよ。あいつ等、こういうのだけは早いんだよねぇ」
明らかに苛立っているのに、表面上の笑みは崩れない。本人はクセだって言っているけれど、クセでどうにかできることではないと思う。
「人の噂なんて、放っておけばすぐに収まるよ」
「そうかなぁ。元凶を潰した方が早いんじゃない?」
また物騒なことを言ってるよ……。
私、レフィトに告白されたんだよね? 状況が状況だったから、告白されたという事実に気が付いたのは家に帰ってからだった。
明日、どんな顔で会えばいいんだろう……なんてドキドキしていたのに、レフィトは通常営業。
あれは、本気ではなかったのだろうか。マリアンから離れるための嘘なのかな?
本気だったとして、私の中にまだ答えはない。レフィトのことは、好きだ。だけど、恋愛感情なのかと聞かれると、よく分からない。
「元々、レフィト以外の人とは関わりがなかったし、周りに何を言われようが関係ないよ」
「……!!?? カミア、今…………」
婚約を周りに隠さなくなったので、早々に敬語はやめた。
様をつけないで呼んでみた理由は、分からない。
「レフィトって呼んでもいい?」
何度も頷くレフィトには、やっぱり黒色の犬耳と尻尾の幻覚が見える。懐いてくれる大型犬のようで可愛い。
「絶対にオレが何とかするからねぇ」
「ううん。向こうの出方を見よう? 噂を相手にしたところで、新たな噂を生むだけだよ」
「オレが脅されて婚約したってところだけでも、否定していい? カミレと婚約できて幸せだって言いたい」
「いいけど……」
昨日の告白、本気だったんだ……。
熱が籠もった瞳に、おかしいくらい心臓がバクバク言っている。
「顔、赤いよ? 大丈夫?」
そう言って笑うレフィトは、たぶん私の顔が赤い意味が分かっている。
「分かってて聞いてるでしょ……」
「分かんないって言ったら、赤い理由、教えてくれるのぉ?」
「教えませんっ!!」
レフィトを睨めば、楽しそうに笑われる。
そんな私たちを見た生徒のヒソヒソ声が聞こえてきた。
「おい、見たか! 睨みつけてたぞ」
「あの噂、本当だったんだな」
「人は見かけによらないって言うけど、信じたくなかった……」
彼等の角度からだと、ちょうどレフィトの顔は見えない。つまり、私が一方的に怒っているように見えたのだろう。
「なるほど。こうやって、噂は広まっていくのか……」
そして、どんどん尾びれや背びれをくっつけて行くのだろう。
「えー。オレは噂が広がるなんて、絶対に嫌だなぁ。やっぱり潰そうよ」
「大丈夫。どうせ、みんなすぐに飽きるよ」
「だったら……」
おずおずと手を差し出された。
私よりも大きな手は、毎日鍛えているから、マメがたくさんできている。手の皮も厚く、レフィトの努力が手にも現れていた。
「頑張ってる、努力してる手だね……」
「──っっ!! ありがとぉ。でも、今はそうじゃなくって……」
大きな手に私の手が包まれた。
そして、私の手を引いてレフィトが歩き出す。
「仲良く手を繋いで歩いてたら、周りの見る目も少しは変わるかもよぉ?」
「な、なるほど! 仲良しアピールをすれば、脅して婚約させたとか思われなくなるもんね!!」
そう言ったきり、互いに言葉が続かなくて無言になる。これでは、仲良しアピールにならない。
分かっているけれど、昨日のレフィトからの告白と、さっき言ってくれた「カミレと婚約できて幸せ」という言葉、簡単に包み込まれてしまう大きな手の体温、そのすべてが私の言葉を奪っていく。
レフィトにまで聞こえてしまいそうなほど、心臓の音が大きい。
「いつもみたいに、言葉が出ないや。緊張し過ぎて、手汗すごいかも……。ごめんねぇ」
へにゃりと笑うレフィトの耳は、真っ赤に染まっている。
手を繋ぐことに、こんなにも緊張しているのは、私だけじゃないんだ……。
「わっ私も緊張してて、手汗が大変なことになってる気がする……」
恋愛は、前世でもしてきた。お付き合いもしたし、キスもした。それ以上のことだってしたのに、何で手を繋いだだけで、こんなにもいっぱいいっぱいになってるの?
私の好みは眼鏡男子でしょ? 間違っても、すぐに人を殺そうとか潰そうと思い立つような人ではないはず。
まさか、吊り橋効果ってやつ?
確かに昨日は別の意味でドキドキした。アザレアのおかげで思いの外、平和な時間もあったけど。何を仕掛けられるか緊張していたんだよね。
実際に仕掛けてきたしなぁ。まさか、話も聞かずに犯人扱いとはね……。誤解を解きたいって、嘘だったじゃん。ヒロインムーブがあまりにも酷いし……。
レフィトが一緒に来てくれて、本当に助かった。一緒にいる時間が愛しくて幸せだって言ってくれたことも、あとで思い返した時、すごく──。
って、違う違う! 好きになってくれたから、好きになるなんて、おかしいでしょ。
私がレフィトを恋愛的な意味で好きかもしれないっていうのは、浮かれちゃってるだけの可能性も十分あり得る。
一回冷静になって、よーく考えるべき案件だから。
「オレ、カミレと手を繋いでると幸せだって思うんだぁ」
「私も……」
…………あ。やっちゃった。
いや、気持ちには嘘はないんだけど、今じゃない! みたいな。
もっと自分の気持ちに自信を持ててからが──。
「カミレッッ!!!!」
ギューッと抱きしめられる。それでも苦しくないのは、力加減をしてくれているから。
「好きだよ。大好き……」
レフィトの公開告白第二弾により、レフィトが私に脅されて婚約したという噂はすぐに消えた。
代わりに、レフィトを
脅しよりも、誑かした方が悪女レベルが高い気がするのは、気のせい……じゃないよね?
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