第12話 悪役令嬢にざまぁされたくないので、敵じゃないとアピールしようと思います③
「わ、私の妹のドレスを今度持ってきますわ!」
「……へ?」
気まずい雰囲気を壊すかのようにアザレアが言った。
良いことを思い付いた! と言わんばかりの満面の笑みである。
「ちょうど妹はカミレさんと背格好が似ていますの! お下がりで申し訳ないですが、こういう時にドレスの一着くらいあった方がいいですもの。良ければ、もらってくださらないかしら」
「えっと……」
まさかの展開だ。これでは、またお茶会に呼ばれてしまう。というか、別にドレスは欲しくない。
レフィトが用意してくれたドレスもあるらしいし、これ以上は必要ないのよ。というか、用意してくれたドレスの存在にも困っているんだけど……。
「アザレア嬢。妹君って、十二歳じゃなかったっけぇ?」
「そうですわよ。とっっっても、可愛いんですの!」
「そうなんだぁ? 可愛いのはいいんだけど、カミレは十六歳なんだよねぇ」
「もちろん、存じておりますわよ。同級生ですもの!」
「妹君のドレスだと、ちょっと子供っぽいんじゃないかなぁ?」
レフィトがそう言った瞬間、アザレアの動きが止まった。顔には「やってしまいましたわ!」と書いてある。
何だろう。アザレアってマリアンサイドの人間なのに、こういうところが憎めないんだよね。
またアザレアがやっちゃったよ……みたいな空気が流れてるし、普段から色々とやらかしているんだろうなぁ。
「い、今のはなしでお願いしますわ! カミレさん、食べましょう。食べて大きくなるのです!! 美味しいものをマリアン様がたくさん用意してくださってますのよ! 食べて大きくなりましょう。諦めては駄目ですわ!!」
食べて大きくなろうって、二回言ったなぁ。
うーん。別に大きくならなくても、いいんだけど……。やたらと大きくなると制服のサイズが合わなくなるし、困るからなぁ。
グイグイとアザレアに腕を引かれ、席に座らされてしまった。正直、帰りたかったのだが、こんなに必死になられると帰りにくい。
席に着けばすぐに紅茶が用意されてしまい、何となく退路を塞がれてしまった気分だ。
えっと……、毒を混入される危険があるんだっけ? でも、こんなに
主催者のマリアンの責任になるだろうし。私だったら、そんな馬鹿なこと絶対にしない。
するとしたら、即効性の下剤を入れるとか……かな? 存在するかは知らないけど。
ここからトイレにダッシュしても、距離的に下手したら間に合わないだろうし、令嬢としてトイレダッシュって許されないと思うんだよね。
二つ名が、う●こ令嬢とかになるのかな? まさに、社会的に抹殺されることになるよね。十代の女の子が耐えられるとは思えないもんなぁ……。
ということは、下剤に注意が必要ってこと? いや、育ちの良い人がそんなことを思いつくのか? 前世で読んだ本にも、ゲームにも、そんな描写はなかったと思うんだよねぇ。
飲んでも大丈夫だよね? という意味を込めてレフィトを見れば、にこりと笑みを返してくれた。
うん。多分、大丈夫なやつだ。
「わっ……。美味しい……」
「でしょう!! マリアン様のお茶会は、すべてが一級品ですのよ!」
マリアンが答える前に、何故かアザレアが自慢げに答えた。
アザレアは何故か私の隣に座って、あれが美味しい、これが美味しいと皿に入れてくる。
どうしても、食べさせたいらしい。
「アザレア様……」
「何ですの?」
「残念ながら、私の身長は二年ほど前からほとんど伸びていません。なので、成長するとしたら縦にではなく、横にです」
「で、でも、お胸が成長するかもしれませんわ!!」
残念ながら、それもありえない。何故なら、乙女ゲームで見たヒロインが十八歳のスチルでも胸はささやかだったから。
昔から悪役令嬢は豊かなお胸の持ち主で、ヒロインはささやかだって相場が決まっているのだよ。
「私の母もささやかなんです。何なら、祖母もささやかだったそうです。話によると、曾祖母も──」
「諦めてはなりませんわ! ネバーギブアップでしてよ!!」
両手を握られ、力強く言われてしまった。
気持ちはありがたいんだけど、別に今のままでも困ってないからいいんだよね。というか、私の顔で巨乳だとエロゲのヒロインみたいになっちゃうし……。
でも、今何を言っても届かないんだろうなぁ。マウント取られると思って来たんだけど、アザレアのおかげで平和だし、まぁいいか。
そんなのんびりした気持ちで一杯いくらするか分からない高級なお茶を楽しんでいたら、いきなり爆弾を投下された。
「カミレさん、レフィトが毎日あなたの送り迎えをさせられていると聞きましたの。レフィトは学生でありながら、騎士として頑張っていますのよ? 応援しようとは思いませんの?」
あぁ、これが今日の本題かぁ……。
エスコートなし、ドレスなしで登場させようとしたことも、似合わないと知っていて自分のドレスを着せようとしたことも、全部ただの前座ってことね。
「もう三ヶ月が経ちましたし、監視は十分だと思いますの。もう、あのことは水に流しましょう? カミレさんにも事情があるでしょうし……。幸い、何もなくならなかったんですもの。いいじゃありませんか」
マリアンの言葉に、みんなが頷いている。
あーぁ、犯人にされちゃったよ。誤解を解きたいって言ってたのになぁ。
まるで、自分の心が広いと言わんばかりだ。こういう子、関わりたくないんだよね。元々、ざまぁされたくないから関わりたくなかったけど。
「レフィト、もう監視は終わりで大丈夫よ。また一緒に過ごしましょう? みんなのために、本当にありがとう。あなたの騎士道に感謝しますわ」
うわぁ、自分のもとに帰ってくるようにって言ってるよ。騎士道とか、簡単に口にして良いものなの?
っていうか、そもそもレフィトはマリアンのものでも、私のものでもないんだから、考え方自体が間違ってるんだけど。無意識なんだろうなぁ。
あまりの言いように、ちらりとレフィトを見れば、笑っていた。けれど、目に殺意が宿っている。
それなのに、誰も気付かないとか、ポンコツの集まりなのかな!?
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