第11話 悪役令嬢にざまぁされたくないので、敵じゃないとアピールしようと思います②


 ノックをすると開かれた扉。

 部屋の中が見えた瞬間、私の中にあったわずかな期待は塵と化した。

 まず、女子会だと聞いていたのに、男子生徒がたくさんいるのだ。そして、みんなドレスを着ていた。


 レフィトに聞いていたから知ってはいたものの、衝撃だった。わざと教えなかったんじゃないか。そんな風に思ってしまう。

 

「ね、オレの言った通りでしょう?」

 

 へらりと笑いかけられる。けれど、レフィトの瞳の奥は笑っておらず、思わず顔が引きつった。

 

 

「カミレさん、いらしてくださったのね!!」

 

 一番豪華なドレスを着たマリアンが笑顔で近寄ってくる。取り巻きの攻略対象者たちを連れて。

 デフューム推しは今日も眼福だけど、それよりもマリアンの視線の方が気になった。ちらりとレフィトを見たのは、何か意味があるのだろうか……。

 

「私、場違いでしたね。お呼び頂きありがとうございました。お茶会に出られるだけの準備が万が一にでも出来る日が来ましたら、また呼んでくださると──」

「そんなことおっしゃらないでっ! 服装が気になるのでしたら、私のドレスをお貸ししますわ」

 

 マウントを取られようが上手くやろうと思ってきた。無害だとアピールする気満々だった。

 だけど、やってることはあからさま過ぎるし、レフィトは今にも噛みつきそうだし、早々に面倒になってしまった。

 制服で、のこのこやって来たって時点で、彼女たちにとっての笑いの種は提供したはず。準備ができる日など永遠に来ないから、二度と呼ばないで頂きたい。

 そんな気持ちで言ったのに、まさかのドレスを貸すという発言。

 

「残念ですが、私にマリアン様のドレスは着られませんよ」

「大丈夫よ。きっと似合うわ」

 

 いやいやいやいや。何言っちゃってんの?

 少しきつめの美人系のマリアンと可愛い系の私では、似合う色もドレスの形も異なるでしょうに。それに──。


「カミレさん、何を迷ってますの? せっかくマリアン様がお貸しくださるんですのよ? マリアン様のドレスはどれも素敵で、みんなの憧れですの。そのような機会、カミレさんにはもう来ないかもしれませんわよ? たとえ似合わなくても、こんなにも素晴らしいチャンスを逃がすなんてありえませんわ! お借りすれば良いではありませんか。羨ましい」


 もう一度断ろうとすれば、アザレアが食い気味に言ってきた。


 なるほど。アザレアはマリアンのドレスを着てみたいわけね。羨ましいって、心の声が出ちゃってるもんなぁ。

 でもね、そもそも身長からして無理があるんだよ。マリアンの方が私より十センチくらい高いんだよね。まぁ、そこは背伸びでもして、なるべく裾を引きづらないように努力するとしよう。

 でも、それだけじゃないんだよなぁ……。


「たとえ、どんなに素敵なドレスでも着られない理由があるんです。何だか分かりますか?」

「汚してしまうのを気にしているのなら、大丈夫よ。そのようなことで、怒ったりしませんわ」


 残念、ハズレ。それも、もちろん気になる。めちゃくちゃ気になる。汚してしまって、弁償とか言われても払えないからね。

 けど、違うんだよね。だって、着たところで人前に絶対に出られないんだもん。


「お気遣いありがとうございます。ですが、やはり着ることはできません」

「どうしてよ! マリアン様の優しさを無下むげにするつもりじゃないでしょうね!? 本当にもったいないわよ!?」

 

 うーん。怒りながら、めちゃくちゃ勧めてくるなぁ。アザレアは、マリアンの信者なの?

 周りの令嬢たちは「非常識だわ」「信じられませんわ」とか言っているけど、直接文句は言ってこない。一定の距離を守ってるんだよね。

 あれ? そう言えばアザレアって、元々マリアン悪役令嬢の腰巾着みたいに画面に映ってた気がする。

 あー、なるほど。悪役令嬢版では、マリアンを助ける友人ポジションに変わるってわけかぁ。


「何か、言いなさいよ!」


 うわぁ、やめて! 私の背後から不穏な空気を感じるから!! すぐに答えないからって、そういうの本当に勘弁して……。

 もういいや、言ってしまおう。考えている間に、大変なことになる気がする。

 伝えたら絶対にお互いに気まずくなるから、気付いて欲しかったんだけど仕方がない。


「胸が、スカスカになるんですよ」

「…………え?」

「だから、私とマリアン様では胸の大きさが違うので、明らかにサイズの小さい私だと胸元がペローンと見えちゃうんです」


 そう言った私の胸にみんなが視線を向ける。次に、マリアンにも。


「お分かり頂けましたか? 似合う、似合わない以前に、少しでも前のめりになったら、私だと中身が見えちゃうんで着られないんです」


 念押しで、もう一回言ってやった。

 ほーら、気まずい雰囲気になったじゃん。

 マリアンは言葉を探しちゃってるし、アザレアは明らかに狼狽えている。他の令嬢たちは可哀想なものを見る目で見てくるし、令息たちは……何で顔を赤くしてる人がいるの? まさか、想像したヤツがいるのか? うん。まぁ、思春期だから仕方がないかな。

 それで、何でレフィトは不機嫌なのよ。


「赤くなったヤツ、全員殺してもいいかなぁ?」


 おい、声を潜めて物騒なことを言うのはやめてくれ。答えは分かってるでしょ?


「何か一つお願い聞いてあげるから、我慢してください」

「何でも?」

「常識の範囲内なら」

「分かった。殺すのはカミレが嫌がるから、次に何かしたら社会的に殺せるように準備しておくだけにするよぉ」


 社会的にも殺さないであげて欲しい。思春期なんだよ。気持ちは分かるでしょ? レフィトだって思春期なんだからさ……。

 あ、違うや。レフィトはピュアッピュアなんだった。


  

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