悪役令嬢にざまぁされたくないので、敵じゃないとアピールしようと思います
第10話 悪役令嬢にざまぁされたくないので、敵じゃないとアピールしようと思います
放課後になり、マリアン主催のお茶会へと向かう。
学園内には、様々な施設が充実しており、お茶会にピッタリな場所もあるのだ。とはいっても、ゲームで見ただけなので、行くのは初めてだけど。
「やっぱり、女子会にレフィト様と行くのはマズイんじゃないでしょうか……」
「大丈夫だよぉ。見張り役だから。それに、絶対にエスコートはあった方がいいと思うよぉ?」
そんな馬鹿な……。そう思うけれど、レフィトは譲らないだろうから、ここは私が諦めるしかない。
「ねぇ、制服で行くのぉ?」
「学校終わりなんですから、皆さん制服ですよね?」
「うーん。ドレスだと思うよぉ?」
「えっ!? 学校から帰って、わざわざ着替えるんですか?」
「違うよぉ。授業中は、学園にある使用人の控室で侍女を待たせておいて、各々着替えてから行くんだよぉ。着替え用の部屋もあるしねぇ」
嘘でしょ……。制服でいいじゃん。
「ドレス、着ていく?」
「持ってないし、このままでいいです。そもそも、私の持っている服の中で一番高級なのが制服ですので」
流石、貴族のための学園としか思えない値段するんだよね。何かね、生地からして違うのよ。デザインも、有名なデザイナーが手掛けているんだとか。
三年間着た制服でも売れるかな? って思ったこともあるけど、どこかの変態に買われたら怖いので、よっぽど金銭的に追い込まれない限りは、今のところ売るのはなしだと思っている。
「ドレスならあるよぉ? 着ていく?」
「……は?」
今、ドレスがあるって言った? これから買いに行くって意味ではない……よね?
「ドレスって、誰かのお下がりとかですか?」
「カミレにそんなの着せるわけないでしょ? ちゃんとカミレに似合うの作ってもらってるよぉ」
「作ってもらってる?」
「そうだよぉ。既製品じゃカミレの魅力を最大限に表せないと思うんだよねぇ」
レフィトに女兄弟はいないから、お下がりはないだろうな……と予想はしていたけど、まさかのオーダーメイド!? スケール大きすぎない? そういうのを無駄遣いって言うんだよ……。
「……制服で行くので、大丈夫です」
そんな高級品、怖くて着れない。……あれ? オーダーメイドって採寸が必要なんじゃないの?
「あの、採寸してないのに、どうやって作ったんですか?」
「そんなの見れば分かるよぉ」
見れば分かるって、何を?
「大体の寸法くらい、相手を見ればカミレも分かるでしょ?」
「分かりませんよ」
つまり、レフィトは見ただけで身長、体重、スリーサイズくらいなら、余裕で分かるのかぁ……。
え、普通に怖いんだけど。
「そうなのぉ? 王子たちも分かるみたいだし、そんなものだと思ってたや」
「そ、そうなんですね……」
あれか? ゲーム内でヒロインが攻略対象者からプレゼントしてもらったドレスって、プロが採寸したもので作ったんじゃなくて、攻略対象者が目で見て寸法を理解していたってことなのか?
確かにヒロインなら、採寸する前に断るだろうけど。だからって、そんな特技を……。
「ドレス作ったの、駄目だった?」
困った顔で笑うレフィトの犬耳(幻覚)がしょんぼりしている。
思わず、駄目じゃないと言いかけて、慌てて口を閉じた。
「……まず、相談してください」
「相談したら、必要ないって断るでしょ?」
「それは、そうですけど……」
だからって、勝手に作られても困るのだけど。
「カミレと舞台見に行ったり、オペラ聴きに行ったりしたいんだよぉ。ドレスコード厳しいから、正装じゃないと入れないし……」
「えっと……、趣味が舞台鑑賞なんですか?」
「違う。カミレとだから行きたいの。あーいうところは、VIPだと誰にも合わずに席まで行けたりするからさぁ」
「あ、そうなんですね。でも、そんなに高いところは……」
「オレがデートしたいから、いいんだよ」
「いや、でも──」
「いいの」
「お金が──」
「いいの」
「申し訳な──」
「いいんだよ。オレがしたいからしてるの! 金なら、自分で騎士として稼いだものを使ってるからいいでしょ?」
「うっ……」
バレてる。朝ごはんの差し入れをしてくれるようになった時、誰のお金で買っているのか、さりげなく聞いたつもりだったのに……。
でもなぁ、金額が全然違うんだよなぁ。
「興味ない?」
「……ないです」
あ、即答しなきゃいけなかったやつだ。これはバレるだろうなぁ。
正直、興味はめちゃくちゃある。舞台、前世で見たのが最後だもん。その時見ていたのと系統は違うと分かっていても、また見たい。
この世界の流行りがどんなものか、自分の目で確かめたいし……。
「あるならいいでしょぉ? そうだなぁ……。悪いと思うなら、鑑賞中は、手繋いでよ」
「……手?」
「そう。手、繋いで?」
え……、可愛い……。
求めることが手を繋ぐこと? それだけ? 十六歳男子がだよ? 奇跡……としか思えない。ピュアッピュアじゃん。
「駄目?」
「駄目……じゃないですけど…………」
レフィトは耳を赤く染めて、嬉しそうに笑う。細まる琥珀色の瞳から目が離せなかった。
「さ、着いたねぇ」
「着きましたね」
目の前には真っ白で大きな扉がある。
ここでお茶会という名の物騒なマウント会が開かれるというわけだ。
私はひたすらマウントを取られる側……、あるいは無視をされることになるかだろう。
本当は、ほんのちょっとだけ誤解を解こうとしてくれることをまだ期待している。けれど、レフィトが言っていた通り油断はいけない。
どこにざまぁへの入口が開いているのか分からないんだから。
今日の目標は、私が敵じゃないって分かってもらうこと。
無害だって、アピールしてくるんだから!!
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