悪役令嬢にざまぁされたくないので、婚約は隠すことに致しましょう
第4話 悪役令嬢にざまぁされたくないので、婚約は隠すことに致しましょう①
残念なことに、私とレフィトの婚約はあっさりと結ばれてしまった。
両親はレフィトの外面に騙され、笑顔が素敵な好青年だと勘違いしている。
あの間延びした話し方を封印し、優しげに瞳を細めるレフィトは格好良くて、まだ自分がヒロインだと信じていたら、完全に見惚れていただろう。
「本当に良かったわ。カミレには苦労ばっかりかけたもの」
「そうだな。可愛くて優しいから変な男に目を付けられて、無理矢理婚約させられるんじゃないかって心配してたから、安心したよ」
「うちじゃ断れないものね……」
「商家の方がよっぽど裕福な生活してるしな」
「家格的に断れないだけじゃなくて、貧乏だものね」
「そうだな。貧乏だもんなぁ」
良かった良かったと両親は頷き合っている。
まさに、変な男に目を付けられて、断れない状況に追い込まれての婚約なのだが、両親の目には安心できる相手に映ったらしい。
私だってちょっと前までは、もっと違う性格だと思っていたもんなぁ。あんなにヤバい人だとは思ってなかったし。
「明日から、迎えに来てくれるんでしょう? 片道一時間も歩かせちゃってたから、良かったわ」
「健康のために好きで歩いてたの。本当は迎えだっていらないんだよ?」
「はいはい。でもね、行きはともかく帰りは薄暗い道が多いし、遅い時は心配だったのよ。私はレフィトくんが送り迎えをしてくれるって聞いて嬉しかったわ。カミレのことを大切にしてくれてるんだなぁって」
両親は相手の家格で喜んでいるのではなく、レフィトが私のことを大切にしていると信じているから、この婚約を喜んでくれている。
その気持ちが分かるから、私はこの婚約を嫌だと言えなかった。
「明日の予習するから、部屋に行くね。おやすみなさい」
そう言って、両親の前から逃げ出した。
ギシギシと鳴る木製の階段を上り、四畳程の広さの自室へと入る。部屋の扉は
「思ってた以上に心配かけてたんだなぁ」
机の引き出しから手鏡を取り出し、覗き込む。
そこには、空色の瞳に、手入れをしなくても輝く金色の髪、色白で滑らかな肌、桜色の唇、少し下がり気味の眉は優しげで、ザ・ヒロインという可憐さのある美少女が映っている。
「マリアンも超絶美少女なんだけど、私も真逆な超絶美少女なんだよなぁ」
マリアンには真っ赤な薔薇が似合い、私には白い百合が似合う。
どちらも目を引く美しさだけれど、与える印象が大きく違うのだ。
マリアンという家格的にも絶対的頂点に立つ美少女がいたからこそ、誰も私を気にしなかったのかもしれない。
けれど、それももう終わりだ。監視という名でレフィトが私と行動をした数日間、めちゃくちゃ目立った。
婚約してしまった今、それが周知されれば今よりも多くの視線にさらされることになるだろう。
そして、ざまぁへのカウントダウンが始まるのだ。
グッバイ、私の平穏な日常……。
「……あれ? 婚約してても、そのことを誰にも知られなければ問題ないんじゃない?」
そうだ。そうだよ!! たとえ婚約してても、誰にも知られなければ、マリアンの耳に入ることはない。つまり、ざまぁが回避できるってことだ。
「なーんだ。思ったよりも簡単じゃ……」
安心したその時、私は大切なことに気がついてしまった。
「口止めしてない……」
レフィトが婚約打診の手紙を持って挨拶に来たのが昨日の昼過ぎで、今日の昼頃に両家で婚約のための顔合わせをし、驚くべきスピードで婚約したのだ。
明日の朝、迎えに来てくれた時に口止めすれば、間に合うだろうか……。
手紙を送ったところで届くのは明日以降だし、直接頼みに行こうにも歩いていける距離じゃない。
打てる手立ては何もなく、ため息が出た。
「どうにもならないことを悩んでても仕方ないかぁ」
気持ちを切り替えるために瞳を閉じて大きく息を吸い、倍くらいの長さをかけてゆっくりと吐き出す。
そして、もう必要ないプリントを取り出すと、その裏に覚えていることを書いていく。
「思ったよりも覚えてないなぁ」
悪役令嬢版はやる前に他界してしまったから分からないのは当然として、通常の乙女ゲームの方もざっくりとしか覚えていなかった。
メインイベントは分かるため、出会いイベントなどのゲームの大まかな流れは分かるけど、クール眼鏡で宰相の子息のデフューム以外の個別イベントの記憶はほぼない。
推し以外は一度やっただけなので、仕方がないと言えば仕方がないのだが。
「マリアンは、全部において悪役令嬢だったんだよね。テンプレ感満載だったのは覚えてるけど、悪役令嬢版ではどうだったんだろう……」
そもそも、悪役令嬢版というものを他の乙女ゲームでもプレイしたことがないため、想像がつかない。
あれは、あのゲーム会社の新たな挑戦だったのかもしれない。売上が落ちてるって噂もあったし……。
「出会いイベントは流石になかったみたいだけど、その他のイベントを使い回すのってどうなんだろ……」
経費削減だったのかもしれないが、ファンからの批判がすごそうだ。
「まぁ、ここがそのゲームの世界だって確定したわけでもないけどさ……。確認のしようもないしね」
ごろりとベッドに転がれば、眠気がやって来る。
その眠気に逆らうことなく瞼を閉じれば、気付けば朝だった。
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