第3話 悪役令嬢にざまぁされたくないので、お城勤めの高給取りを目指すはずでした③
「うわぁ。見事なくもり空。まるで、カミレ嬢の心の中みたいだ」
屋上についた途端に笑顔で言われる。表面上はケラケラと楽しそうに笑うレフィトだが、その本心は謎だ。
何で、私を助けてくれたのだろうか。いや、あれは助けたのか? うーん。分からない……。
「……ありがとうございます?」
お礼を言えばいいのやら、違うのやら。
けれど何も言わないのもなぁ……と、とりあえずお礼を言えば、また笑われた。
「ねぇ、マリアンって本当に善意で言ってたのかなぁ?」
いきなり投げかけられた言葉にも疑問が湧く。レフィトはマリアンが好き……なんだよね? 私の思い違いなんだろうか。
もしかして、私がマリアンの敵かどうかを試しているとか?
「パッと見は善意に見えましたけど、心の中まではなんとも……」
「だよねぇ。善意で行動しているように見せかけているなら面白いけど、心から思ってるなら、ただのバカだもんねぇ」
レフィトの言いように、確かに……と納得してしまう。
面白いという感覚は理解できないけれど、あれが善意なら空気が読めないにも程がある。
「オレさぁ、マリアンの善意なのか、善意に見せかけた悪意なのか分かりにくいところが面白くて好きなんだよねぇ」
「はぁ……」
突然聞かされた内容に、こいつ正気じゃないな……と思わず半目になった。そんな私を見て、レフィトはくつくつと笑う。
「でもさぁ、カミレの方が面白そうだもんねぇ。何で、その鞄なのぉ?」
「指定鞄を汚さないためですけど……」
「ふーん。どうしてぇ?」
「どうしてって……」
言えるわけない。売れたらラッキーって思ってるなんて……。
何だか厄介なのに目をつけられてしまった予感がする。
「教えてくれたら、カミレの味方をしてもいいよぉ。これから先、またカミレを陥れようとしてくるだろうし」
軽く提案してくるレフィトは、より面白いものを求めているらしい。マリアンへの気持ちは、ただの好奇心だったようだ。
そうだとしたら、マリアンに加担することなく、あの状況を観察できていたことも納得できる。
だって、行き当たりばったり過ぎて、陥れようとしてるのがバレバレだったからね。
うーん。味方がいると心強いけど、本当に味方になってくれるのか分かんない相手を信じるのもなぁ……。
「信じるのも信じないのも自由だけど、その鞄を使ってる理由を言うだけなんだから、ダメ元で言えばいいのに」
「ダメ元じゃ駄目じゃん」
思わず口から出た言葉にレフィトは目を瞬かせると「確かに」と笑う。
その笑みが、はじめて作り物じゃないように見えて、言ってもいいかな……という気持ちが湧いた。
「綺麗な状態なら売ろうかと思いまして……」
「……ん?」
「鞄が綺麗な状態なら、売れないかな……と」
「……売るの?」
「買い手がつくならですが」
「もしかして、教科書も?」
「そうですね。売れたら嬉しいです。もちろん、卒業してからですけど」
察しがいいなぁ……と感心していれば、レフィトの口がモニョモニョと動いている。
どうしたんだろう? と思いながらも、お腹が空いたのでお昼のサンドイッチを食べていれば、ゲラゲラと笑われた。
涙を流しながら、ヒーヒー言っていてもイケメンはイケメンなことに驚きつつ、着々とサンドイッチをお腹におさめていく。
「オレ、カミレのこと気に入っちゃった」
涙を拭きながら、レフィトは言う。だけど──。
「そういうのは、間に合ってます。欲しいのは味方だけなんで」
キッパリ、ハッキリ、断っておいた。
そういう恋愛フラグはいらない。悪役令嬢にざまぁされたくないからね。
それなのに、レフィトはまたまた大爆笑。
心から笑ったことがないっていう設定は、どこに行ったの!? あれか? 既にマリアンに心を開いてるから問題ないとか?
でもなぁ、心を開いてるようには見えないんだよね……。
「カミレって面白いなぁ。欲しくなっちゃった」
「…………はい?」
「オレと婚約しようよ。一生、お金には困らないし、大切にするよ?」
「いえいえいえいえ!! 結構です!!!!」
嫌だよ。何で、折ったのにまたフラグ立てんのよ?
私に恨みでもあるの?
「うーん。でもなぁ……。もう決めちゃったし、諦めよっか!!」
諦めよっか? いやいや、何でそうなるのよ。
心の中でツッコミが止まらない。どうやら、レフィトは想像以上にヤバい人だったらしい。
「諦めることも、婚約することも、お断りします!!」
私の宣言にゲラゲラ笑うこの男は誰だ。人間不信はどこ行った?
「代々騎士の家系のうちから、婚約の打診が行ったらどうなると思う?」
「そんなの断れるわけ──」
にんまりと笑うレフィトに、ザァーッと血の気が引いていく。
「私、将来はお城勤めの高給取りに……」
「騎士団勤めも城勤めだし、高給取りになれるから、安心して。まぁ、オレと結婚するから、働かなくてもお金に困ることはないけどねぇ」
「でも、私、文官志望で……」
「うん? 騎士団にも多くはないけど、文官いるよぉ」
突如、決められた未来。
ざまぁされる道が開かれてしまった。
青ざめる私に、レフィトは瞳を細める。
「逃さないよ?」
まるで歌うかのように告げられた言葉に、頬を引きつらせることしかできない。
「せめて、学園卒業後とかいかがでしょうか?」
「却下。その間に別の人と婚約されたら厄介だからねぇ」
厄介なのは、あなたでしょ!! と出そうになった言葉を必死に呑み込む。
そのことに気付いたのか、レフィトの琥珀色の瞳が弧を描いた。
「今週末に挨拶に行くからねぇ」
「挨拶って……」
「婚約のお願いにだよ」
この男を止める手立てがなく、このままだと、ざまぁコースだよぉぉぉ!!!! と頭を抱えることしかできなかった。
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